弥嗣の過去――Ⅲ
連日投稿、第2段!!
どうぞー
「苦しみを味わえ!!」
――――ドクン。
心臓が跳ねた。それと同時に刺すような鋭い胸の痛みが弥嗣を襲う。
「がぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!」
耐えきれないその痛みに声を上げ、身体は勝手に暴れだす。男は弥嗣の首を掴んでいた手を離した。
弥嗣は重力に従い、床に崩れ落ちる。
胸を掴むように押さえ、弥嗣は呻き声をあげながら床をのたうち回る。
「――弥嗣!!」
弥嗣の母が声を上げ、弥嗣を見下ろすようにして立つ男を睨み付けた。
「貴方、弥嗣に何したの!?」
「さぁな」
そんな時、弥嗣の呻き声が途切れた。
ハァハァと荒い息を吐いて弥嗣は顔を上げた。その視線は自分を見下ろす男に向けられている。
「何を、した?」
「さぁ、なんだろうな」
男はとぼけたように首を傾ける。
そんな時、弥嗣の視界にこちらを心配そうに見つめる母と倒れている父の姿が入った。
――――ズキン
「うぐ、あぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁっ!!」
頭を押さえて声を上げる弥嗣。ズキン、ズキン、と頭が割れるようなひどい痛みが弥嗣を襲ったのだ。
弥嗣は痛みを堪えるように拳を思いっきり握りしめる。爪が食い込み血が流れるが、ひどい頭の痛みは終わらない。
痛みに呻きながら、薄目を開けて見た先には男に襲いかかる母の姿が見える。一方、男は余裕そうな表情で避けていた。
そんな時だった。
――――殺セ
不意に響いたその声に弥嗣は驚きの余り、固まる。
――――殺セ……殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ
頭の中に聞こえてくる、その声に気が狂いそうになる。それに加えて激しい頭の痛みが弥嗣を襲う。
「やめろ、やめろぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉっ」
悲痛な叫び声を上げる弥嗣。見下ろしていた男が弥嗣に近づき、しゃがみこむ。
「お前に与えたのは“呪い”。犯罪者を殺さなければ、ずっとその声は響き続ける。それに加えて激しい頭痛がお前を襲っていく。つまり、だ。お前は犯罪者(両親)を殺すしかないんだ!!そうしなければお前は狂いそうになるほどの頭痛と声に襲われる」
男の言葉に母は目を見開き、唖然とする。そんな弥嗣の母を他所に、まるで追い打ちをかけるかのように男は言葉を続けた。
「お前は“犯罪者”である両親を殺すしかないんだ!!」
「ッ―――い、嫌だ!!」
否定の言葉を上げる弥嗣。狂いそうになるほどの頭痛と声が弥嗣を襲っているというのに、強い拒否を示した。
「弥嗣…………」
「そこまで、拒否するとは思わなかったな。だが、いつまで耐えられるかな」
挑発するような口調で告げる男。
立ち上がって弥嗣を見下ろした男はパチン、と指を鳴らす。
突然、痛みは強くなりまるで頭が割れるような頭痛へと変わり、声は数多の声が殺セ、と叫ぶものへと変わった。それは弥嗣に多大なダメージを与えることになる。
「うぐぅ、がぁぁぁあぁぁぁっぁぁぁあ!!」
叫び声が響き、その想像を越える痛みに弥嗣は暴れる。呻きながら悶え苦しむ。
「弥嗣―――!!」
母は声を上げた。
目の前で苦しんでいる、愛しい息子。
その光景に母は唇を噛みしめる。そして、顔をあげ、こういい放ったのだ。
「――弥嗣、母さん達を殺しなさいっ!!」
と。
その言葉に弥嗣はバッと顔をあげる。
「嫌だ!!絶対に嫌だ」
苦しげな表情を見せながらも放った言葉。
母親としてその言葉は嬉しい。だが、そうも言ってられないのだ。男の言葉が真実なら、弥嗣は両親を殺さなければ痛みに苦しむことになる。
だから母親として、息子を弥嗣を救うためにすべきことは決まっていた。
「弥嗣、聞きなさい!!私は、私たちは今まで多くの命を奪った。ここにいる男の父親も!!私たちの手は何千人、何万人もの命を奪った!!最低よね!!私たちは依頼をされたら何でも引き受ける。例えそれが弥嗣の周りの友達でも!!だから、弥嗣!!決めなさい!!」
言い放った言葉。それは自分を悪く思わせ、弥嗣が苦しむことなく、罪悪感を感じることなく自分達を殺せるように。
そんな願いが母の言葉に篭っていた。
「――――っ!!」
その事に気づいているからこそ、弥嗣は声なき声を上げた。
両親が自分を大事に思っていてくれるからこその嬉しさ、優しさ。それと相反する、両親を大事に思っているからこそ殺したくない、という拒否の感情。
その相反する思いの中で弥嗣は決められない。否、決めれないのだ。
いざ、決めてしまえばその先に待つ結果は見えている。
だから、決められない。
弥嗣の迷いを感じ取った母はもう一度声を上げた。
「弥嗣!!今の状況は何も変わらない。貴方が私たちを殺さない限り!!貴方を襲う痛みも声も消えないのよ!!」
確かにその通りだった。弥嗣を襲う痛みも声も、消えるどころか強くなっている。
「だから、弥嗣……殺しなさい」
母の声は穏やかだった。まるでいつもと変わらない。
子が親を思うように、親も子を思うのだ。
「うわあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
弥嗣の叫び声と共に両親へと、両手を向ける。どこからか無数の純白の羽が舞い散り、散った羽が母と横たわる父の元へ吸い込まれるように向かった。
羽が自分に当たるその直前、母は弥嗣に向かって口を開いた。
「弥嗣、強く生きて……」
――それが最期の言葉だった。
ドスドス、と羽が母と父に突き刺さり、母は力尽きたように倒れた。
「っ、あぁぁぁぁぁぁ!!」
弥嗣の悲痛な叫びがその喉から発せられた。
自らの手で親を殺したのだ。今まで弥嗣を襲っていた痛みと声はもう既に消えている。だが、大切な家族を、親を失ったという喪失感は弥嗣の中に深く残った。親を殺した、という罪悪感と共に。
パチパチと拍手しながら男が近づき、項垂れる弥嗣に視線を向けた。
「予想通りの展開だ。さて、少年。お前は今、どんな気持ちだ?喪失感が残るだろ。それで俺の気持ちを少しぐらいはわかったか!」
「……」
対する弥嗣は項垂れたまま、何も反応しない。
「無視か、まぁいいや。それで、いっておくことがある。お前に掛けた呪いはまだ続いている。お前の胸にそのうち茨のアザが出てくるだろう。そして、その茨が円を形取り、中央で繋がればお前は死ぬ。少しでもお前の命を伸ばすなら、犯罪者を殺すことだ。ただし、犯罪者を認識したときに今回のような痛みと声が襲う。いずれ、狂っちまうかもな」
男はそう告げると弥嗣に背を向け、立ち去ろうとするが不意に立ち止まり、声を上げた。
「お前の呪いの解き方を知っているのは俺と一流と呼ばれる魔術師ぐらいだ。まぁ、せいぜい苦しみに足掻け!!」
そんな言葉を残して男は去った。
その場には弥嗣と両親の遺体が残されていたのだった。
弥嗣に呪いを掛けた男は今も見つかっていない。死んだのか生きているのかさえわからず、ここまで生きてきた。
呪いに蝕まれた弥嗣は命を少しでも長らえ、両親に償うために犯罪者のみ殺していた。
あの日の夜、義哉が出会った弥嗣は犯罪者を殺した直後だったのだ。
弥嗣の過去に義哉は――――




