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冒険姫リーベ 英雄の娘は希望の継承者!  作者: 丘引みみず
第1章 英雄の娘、冒険者になる

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003 英雄の弟子たち

 ドンドン!


「う~さい……」

「リーベ! 今日はヴァールらが来るんだ! さっさと起きろ!」

「は~い」


 リーベは眠い目を擦って起き上がると傍らにいたトイプードルのぬいぐるみダンクにおはようを告げる。こうしてリーベの一日が始まった。


 今日は定休日だ。しかし、店の仕事はちゃんとある。定休日とは言い換えれば、次の営業日を迎えるための準備期間にすぎないのだ。しかし今日は来客がある。それまでに終わらせなければならないということで、一家は慌ただしく仕事に取りかかる。


 エルガーは上階の掃除を、シェーンは食材の状態確認や設備の点検など厨房回りを担当している。そしてリーベはホールの掃除を任され、半日が経とうとしている現在は窓を拭いていた。


「う~ん!」


 背伸びをするも、高い所に手が届かない。


(仕方ない、椅子を使おう)


 そう思って視線を下ろすと、窓ガラスに大きな顔が張り付いていた。


「……き、きゃああああっ!」


 ビックリして尻餅をつくと、窓の向こうから重低音の笑い声が響いてくる。


「だはは! 驚いてやんの!」


 それを聞きつけて両親がホールにやって来る。


 リーベが立ち上がると同時にカウベルが鳴り、入り口に例の顔が現れる。


「よっこいしょっと」


 身を屈めながらに入ってきたのは身長が210センチもある巨漢だ。


 ヒグマのように隆々とした体付きをしていて、それにライオンのように大きく彫りの深い頭が載っている。厳めしい出で立ちであるがしかし、陽気な笑みを浮かべているから恐ろしいという印象はなかった。


 彼は大きな手を掲げると分厚い唇を割り開く。


「うっす」

「ようヴァール。元気そうでなによりだ」

「ああ。師匠の方こそ。シェーンもリーベも元気そうだな!」

「もお~っ! おじさんったら、びっくりさせないでよ!」

「はは! あんな脅かし甲斐のある格好でいるお前が悪いんだよ!」


 彼は悪怯れる事なくそう言い切った。するとその背後から呆れた声が響く。


「いけませんよヴァール。それでリーベさんがケガをしたらどう責任を取るつもりですか?」


 ヴァールの陰から線の細い青年が現われる。


 月光を編んだような金髪は儚く、朝霧のように白い顔面には澄んだ瞳が煌めく。


「すみませんね。ヴァールは相変わらずで」

「いいえ。お久しぶりです。フェアさん」


 彼は穏やかに目を細める。


「ご無沙汰しております」

「お二人ともご無事の用で安心しました」


 シェーンの言葉に夫が続く。


「本当にな。それで? 例の弟子は何処にいる?」


 その言葉にリーベは、今日彼らが初めての弟子を連れてくることを思い出し注目する。


 ヴァールとフェアが両脇に退くと、そこには小柄な――リーベと同じくらい小さな男の子がいた。


 東洋人を想起させる黄色い肌に真っ黒でさらさらの短髪。それにあどけない丸い輪郭の顔。首には赤いスカーフを巻いていて、まるで黒猫のようだ。彼はくりくりと愛らしい瞳でエルガーを見つめていたが、シェーンに「初めまして」と声を掛けられ、目線を移す。


 するとその美貌に見蕩れてしまい、瞳が恍惚と潤む。


「ふふ、お名前は?」

「っ……!」


 彼女に微笑み掛けられると照れくさくなり、前髪とスカーフを掴んだ。


 その仕草にエルガーは呆れとも驚愕ともつかない感情に囚われ、間の抜けた声を漏らす。


「……弟子って、コイツがか?」

「ああ……フロイデっつうんだが、人見知りが激しいんだ。まったく、ガキっぽくて仕方ねえ」

「ガキじゃない……!」


 フロイデが控えめに反論する。その言葉に説得力は微塵もない。


 だから彼の師匠であるヴァールは肩を竦め、やれやれと笑った。


「……そうか。俺はエルガー。それに嫁のシェーンと、娘のリーベだ。よろしく頼む」

「よろしくお願いします」


 改めて挨拶をすると、フロイデは伏し目がちに「……よろしく」と返す。


 そうして一段落ついたところでヴァールが切り出す。


「それよか、ギルドで聞いたんだが――」

「それはひとまず、お茶を飲みながらにしましょう」


 シェーンが言うと、ヴァールは「うっす」と目礼し、フェアは「お構いなく」と社交辞令を口にした。







 フロイデは小柄でありながら食欲旺盛で、体格で圧倒的に勝るヴァールと同じだけお菓子を食べた。

「けぷっ」と彼が満足げにげっぷをする中、リーベはヴァールにねだる。


「ねえ、また冒険の話を聞かせてよ」


 リーベは冒険の話を聞くのが好きだった。それは単純に楽しいからであったが、今回に限っては違った。エルガーの引退以来、彼女の冒険者業への関心は深まっていたのだ。


 彼女がいても立ってもいられない気持ちで話を待つ中、机の下でエルガーがヴァールの脚を蹴った。


「……それよかリーベ。暇ならコイツにテルドルを案内をしてやってくんないか?」


 そう言って弟子の頭に手を置く。するとフロイデは動揺して、あたふたと視線を彷徨わせる。


「……え? なんで?」

「なんでも何も、これからしばらくテルドルにいるんだ。それなのに不案内じゃいられねえだろ?」

「それは……」


 フロイデは救いを求めるようにフェアを見やるも、彼も事情を察して同調した。


「街を知り、地域の人と交流を図るのも大事な事ですよ?」


 そう言われては返す言葉もなく、彼は俯いた。


 一方でリーベは嫌がっているのに連れ回すのはどうかと思ったが、フェアに一言「お願い出来ますか?」と言われると、つい了承してしまった。


「それじゃ、行きましょうか」

「……うん」


 彼はぎこちない動作で立ち上がると、何かにおびえるように帯を締めた。


「馬車には気を付けて、お昼には帰ってくるのよ?」

「うん。行ってきます!」


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