016 変わり始めた街
武器屋を後にしたリーベたちはそのまま東門にやって来た。
門の傍らには門番のサイラスの姿があった。その佇まいは何時にも増して凜々しく、この街の番人としての威厳が満ち満ちていた。
しかし彼女の姿を認めるや相好を崩し、親しげに手を上げる。
「やあリーベちゃん。それにフェアさんも。これから稽古ですか?」
「はい! これからフェアさんに魔法を教わるんです!」
リーベは自分の武器を手にした喜びと、本格的に魔法を教わることに対する好奇心とにすっかり昂ぶっていた。
「ふふ、教え甲斐のありそうで、私も楽しみです」
フェアが穏やかに笑うと、彼女は燥ぎすぎたと羞恥に頬を染める。
「ははは! 良い師弟じゃないですか!」
一頻り笑うとサイラスは笑みを取り払い、代わりに感慨深げな顔をする。
「そっか……ウワサには聞いてたけど、本当に冒険者になったんだね」
「……わたし、この街のみんなに元気になって欲しいんです」
「元気に?」
「はい。……あんなことがあって、街のみんなが怖がっちゃってて……だからお父さんみたいにみんなの希望になれたらなって」
「なるほどね……確かに、あれから街が死んだみたいだもんね」
彼は恥じ入るように視線を落とした。
「本当なら俺たち衛兵だけが頑張らなきゃいけないのに、リーベちゃんにも迷惑かけちゃってごめんね?」
「い、いえ……」
気まずい沈黙が流れる中、フェアが話題を転換する。
「ところで、何やらいつもと雰囲気が違うように感じるのですが、何かあったのですか?」
「あ、わたしも気になってたんです」
するとサイラスは頬を掻きながら答えてくれた。
「ええ、実はこの前の会議で俺たち衛兵の職務態度を指摘されたそうで。つい昨日、厳しく指導されたんです」
その言葉にリーベは、とある衛兵が警邏の途中に広場で買い食いしている姿を思い出した。
「ああ……」
納得していると、サイラスが彼女らの背後を指した。振り返るとちょうど衛兵がやって来る。しかしその歩き方は今までのそれとはまるで違っていた。ピンと指を伸ばし、膝をしっかり上げながら歩いている。まるで行進でもしているかのようだ。
東門正面の十字路までやって来ると前後左右を指差した後、なんと彼は空まで見回した。
「異常なあしっ!」
朗々とした声を発し、今度はサイラスの方を見て合図を送る。するとサイラスは彼と同様に辺りを見回し、声を張り上げる。
「異常なあしっ!」
十字路の彼が鎧をジャラジャラ言わせながら去って行くと、サイラスは苦笑した。
「……とまあ、こんな事を義務づけられちゃってね」
「勝手が違うと大変でしょう」
フェアが言うと彼は額を拭った。
「はい。……まあ、すぐ慣れると思いますが」
「夜はどうするんですか?」
「夜は投光器を使って確認したり、合図をしたりすることになったんだよ」
投光器とは魔法のランプの派生品で、遠くを照らすためのものだ。
「へえ……本格的というか、なんというか」
「騎士団も本腰を入れているのですね」
「はい。それに魔法兵も増員する計画もあるみたいで。冒険者ギルドの方は何か?」
「こちらは魔物の警戒圏を広げることになりまして。該当地域の調査が急がれています」
「なるほど……これはお互い大変になりましたね」
「ええ。しかし全ては平和のためですから」
冒険者と衛兵。
2人の会話を耳にしているとこの街が変わりつつある事をリーベは肌で感じた。
平和のため、人々を安心させるために行動を起こしているのは彼女だけではないのだ。当然のことではあるのだが、彼女はその事実に励まされ、負けてられないという気持ちでいっぱいになった。
そんな気概を察したサイラスは微笑んで門を開けた。
「お互い、頑張ろうね」
「はい!」




