017 訓練場へ
東門を出たそこではヴァールとフロイデが木剣を打ち合わせていた。
両者の体格差は圧倒的で、まさに大人と子供だ。しかしフロイデはそれを感じさせないほど果敢に喰らい付いていて、その勇敢な姿にリーベは目を奪われた。
「くっ!」
上段からの振り下ろしに押され、彼は苦悶する。
「お前はチビなんだから力でやり合うな!」
「――っ! チビじゃ、ない……!」
叱咤の声に呼応するように、相手の剣を左側面へ流し、その隙に肉薄。左腕を相手の腕に絡めて剣を封じ、右手に保持した長剣を喉笛へ突きつける。
「ふう……ふう…………!」
「そうだ。それでいい」
ヴァールの声を最後に組み打ちは終わり、2人は険しさを取り払って剣を下ろした。
弟子がだくだくと汗を流す一方、師匠は微かに汗を滲ませているだけだった。グローブの甲で狭い額を拭うと、小さな目をリーベに向けてくる。
「よう。ちゃんと買えたみてえだな」
陽気な言葉と共にクマのような大きな手を軽く上げた。
「うん、見て見て!」
リーベは駆け寄ると肩に回したベルトに難儀しつつもスタッフを取出し、見せつける。
「なんだ、お前にしちゃ、随分地味じゃねえか」
(おじさんたらすぐ意地悪言うんだから!)
「違うよ! これは燻し銀なんだから!」
「だはは! 物は言いようだな!」
大口を開けて笑うから唾が飛ぶ。リーベは咄嗟にスタッフを掲げて逃したものの、代わりに顔を汚すハメになった。
「ぬう……」
「ふふ、気に入って貰えたようで嬉しい限りです」
リーベが顔を拭う傍らでフェアが微笑むと、ヴァールは苦笑した。
「たく、オモチャじゃねえんだぞ?」
「わかってるよ!」
反論していると、むっつりと口を閉ざしていたフロイデと目が合う。もの言いたげに見えたがしかし、ぷいっと目を背けられてしまう。
「?」
首を傾げる彼女を他所に、師匠2人は話を進める。
「魔法の訓練をするには手狭ですし、あそこへ行きましょう」
「おっそうだな。行くぞフロイデ」
「……うん」
2人が歩き出す中、リーベはフェアに尋ねる。
「行くって、どこにですか?」
「それは着いてからのお楽しみです。それより、私たちも参りましょうか」
「あ、はい!」
テルドルの東門から延びる街道は緩やかに傾斜していて、北東の平地を目指してゆったりと大きな弧を描いている。故にその道程は酷く単調で、おまけに景観にも変化がないのだから、リーベが途方もないという感想を抱いてしまうのも致し方ないことだろう。
「うへえ……どこまで、行くん、ですか……?」
坂を下るのにも存外体力を使うもので、厚着に武装していることもあり、彼女はすぐに疲れだした。
「もうそろそろです――と、ここです」
街道の脇に大きな広場が現われた。外周は木の柵で囲われている他、鳴子が施されている。
手前には小屋があり、奥の方には金属製の的が4つ立てられている。
この光景に彼女は以前、冒険者の客が『訓練場が――』という話をしていたのを思い出す。
「こ、ここが訓練場、ですか……? ふう……」
「そうです。街の近くで魔法の練習をするのは危ないからと、冒険者ギルドが作ったんですよ」
「へえ……でも、その割には人がいないですね」
率直に問い掛けると彼は苦笑した。
「ええ。街にいるときくらい、ゆっくりしたいという方が多いんですよ」
「なるほど……」
痛いほどに共感していると、フェアは言う。
「では、少し休憩したら訓練に入りましょうか」
「わかりました」
適当なところに腰を下ろし、一息つく。すると遠くで剣士二人が木剣を振るっているのが目に付いた。
リーベらがスタッフを選んでいる時から剣を振っていたにも関わらず、その動作にはキレがあった。さすが冒険者だとリーベは感心させられたが、同時に、自分もあれくらいの体力を付けなければいけないのだと思い知らされる。
遠大極まる目標に溜め息が零れるも、やる気が損なわれることは無かった。




