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『序盤で死ぬ最弱悪役に転生したけど、このゲームを一万時間やり込んだ俺には関係ない』  作者: くんくん


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攻略情報がないなら、俺が作ればいい

第8章 攻略情報がないなら、俺が作ればいい


黒い祭壇。


その言葉が。


これほど似合う場所もないだろう。


地下墓地の最深部。


壁も。


床も。


天井も。


すべて黒。


松明すらないのに、なぜか周囲だけは薄ぼんやりと見えている。


そして。


部屋の中央に。


それはあった。


「……こんなの、知らないぞ」


黒い石で作られた祭壇。


その上に。


一本の剣が突き刺さっている。


柄から刀身まで、真っ黒。


装飾らしい装飾もない。


ただ。


見ているだけで。


妙に胸がざわついた。


ゲームの《始まりの地下墓地》に、こんな場所は存在しない。


そもそも。


途中から全部おかしかった。


存在しない通路。


存在しない文字。


《第七世界・観測継続》


そして。


俺と同じ顔をした、あいつ。


――偽物。


あいつはそう言った。


結局。


名前も。


正体も。


何一つ分からないまま。


この部屋の前で姿を消した。


「ここに答えがあるってことか?」


返事はない。


当然だ。


この場には俺しかいない。


墓守も。


アルバートも。


入口で待っている。


俺はゆっくりと祭壇へ近づいた。


その瞬間。


――ピコン。


音がした。


「……来たか」


目の前に。


青白いウィンドウが浮かぶ。


《特殊条件を確認》


《Lv.20以上》


《職業:ノービス》


《能力値割り振り:0》


《条件達成》


思わず。


拳を握った。


「よし……!」


半年後。


俺を待っているのは。


本来なら。


主人公に瞬殺される未来だ。


その未来を変えるために。


ずっと我慢してきた。


レベルが上がっても。


能力値を一切振らず。


最弱職ノービスのまま。


死者の森で戦い。


ゴブリンキングまで倒した。


全部。


このためだ。


次の表示を待つ。


《転職試練を開始します》


「……!」


来た。


隠し職。


俺が知る限り。


この世界でも最高峰の成長性能を持つ職業。


《アビスウォーカー》。


ゲームでは。


発見されたのがサービス開始から三年後。


取得者は全プレイヤーの〇・〇一パーセント以下。


条件が面倒すぎるうえに。


レベル二十まで初期能力値のまま進めなければならない。


だが。


その分。


ぶっ壊れていた。


ここまで来た。


ようやく。


俺は――


《試練対象を生成します》


「ん?」


生成?


俺の記憶では。


ここで出るのは。


《深淵の騎士》。


レベル二十五。


攻撃速度は速いが。


行動パターンは単純。


右。


左。


突き。


二連斬り。


振り下ろし。


HP三十パーセント以下で大技。


全部覚えてる。


能力値無振りでも。


攻略法さえ知っていれば倒せる。


だからこそ。


成立する転職試験だった。


床が。


黒く染まっていく。


ずずずずずず……。


祭壇の後ろから。


何かが這い出してきた。


「…………は?」


最初に見えたのは。


腕。


異常に長い。


黒い皮膚。


指は六本。


次に。


頭。


角。


四つ。


口らしきものはない。


その代わり。


顔全体に。


赤い目が。


びっしりと並んでいた。


「いやいやいやいや」


違う。


こんなのじゃない。


絶対に違う。


目の前に表示が出る。


《??????》


Lv.???


「またそれかよ!」


ゴブリンキングの時と同じ。


いや。


それ以上にまずい。


名前すら。


レベルすら表示されない。


つまり。


俺の知識に存在しない。


敵。


怪物が。


ゆっくり立ち上がった。


でかい。


三メートルどころじゃない。


四メートル近い。


天井すれすれ。


右腕だけが異様に太く。


反対に。


左腕は細長い。


左右非対称。


「……深淵の騎士は?」


返事の代わりに。


怪物の赤い目が。


一斉に。


俺を向いた。


ぞわっ。


全身の毛が立った。


次の瞬間。


「ッ!」


俺は横へ跳んだ。


直後。


ドゴォォォン!!


さっきまで俺がいた場所に。


巨大な拳が突き刺さった。


石床が。


消し飛んだ。


「当たったら終わりじゃねえか!」


速い。


でかいくせに。


とんでもなく速い。


怪物が腕を引き抜く。


来る。


横薙ぎ。


しゃがむ。


ブォン!!


頭の上を。


拳が通過する。


風圧だけで。


髪が暴れた。


俺は転がるように距離を取った。


まずい。


マジでまずい。


ステータスを開く。


《レオン・アルヴェイン》


Lv.20


職業:ノービス


未使用SP:60


六十。


ここで振れば。


一気に強くなれる。


STR。


AGI。


VIT。


好きなだけ上げられる。


だが。


「……振ったら終わりだ」


転職条件は。


能力値割り振りゼロ。


試練中に振っていいのか?


知らない。


ゲームでは。


試す必要すらなかった。


こんな敵。


出なかったからだ。


つまり。


SPを使った瞬間。


隠し職取得失敗。


その可能性がある。


「ふざけんなよ……」


怪物が動く。


今度は。


左腕。


伸びた。


「なっ!?」


鞭みたいに。


十メートル以上。


一瞬で。


俺の目の前まで。


剣で弾く。


ガァン!


「ぐっ……!」


手が。


痺れる。


剣が飛びそうになる。


力が違いすぎる。


だが。


今ので一つ。


分かった。


右腕は。


強い。


速い。


左腕は。


長い。


だが。


軽い。


俺は怪物を見る。


目。


腕。


足。


動き。


呼吸――はしてない。


「……攻略情報がない」


なら。


作るしかない。


俺が。


今ここで。


こいつの攻略法を。


怪物が右腕を振り上げた。


俺は走る。


前へ。


「来い!」


拳が落ちる。


ギリギリまで。


引きつける。


三。


二。


一。


跳ぶ。


ドゴォン!!


床が砕ける。


その瞬間。


俺は。


怪物の右腕に飛び乗った。


「よっ!」


腕を駆ける。


怪物の赤い目が。


一斉に動いた。


左腕が飛んでくる。


俺は身を屈める。


左腕が。


怪物自身の肩に叩きつけられた。


「やっぱりな!」


こいつ。


強い。


速い。


リーチもある。


だが。


頭が悪い。


攻撃対象しか見ていない。


自分の身体が。


射線上にあっても関係ない。


なら。


利用できる。


俺は肩から飛び降りた。


着地。


そのまま。


背後へ。


怪物が振り返る。


遅い。


「でかい奴のお約束だ!」


足首を。


斬る。


ガキン!


「硬っ!」


ほとんど通らない。


だが。


わずかに。


黒い皮膚が裂けた。


いける。


HPバーは見えない。


ダメージ表示もない。


だが。


斬れる。


なら。


倒せる。


そこから。


俺は。


避けた。


ひたすら。


避けた。


拳。


回避。


左腕。


弾く。


踏みつけ。


走る。


拳。


避ける。


左腕。


誘導。


怪物自身に当てる。


そして。


隙ができるたび。


同じ場所。


右足首だけを。


斬る。


一回。


二回。


五回。


十回。


何度も。


何度も。


同じ傷へ。


「っ……はぁ……!」


息が切れる。


腕が重い。


足が。


笑い始めている。


ステータス無振り。


レベル二十とはいえ。


中身はほぼ初期値。


体力が。


もう限界に近い。


対して。


怪物は。


止まらない。


「クソ……」


本当に。


勝てるのか?


その時だった。


怪物の動きが変わった。


両腕を。


床につける。


「……なんだ?」


赤い目が。


すべて。


閉じた。


まずい。


何か来る。


俺は反射的に走った。


次の瞬間。


怪物の全身から。


黒い棘が。


爆発するように伸びた。


「うおっ!?」


一本。


避ける。


二本目。


剣で逸らす。


三本目。


「っ!」


肩。


熱い。


遅れて。


血が噴いた。


浅い。


だが。


初めて。


まともに食らった。


そして。


四本目。


避けられない。


「――っ!」


腹に。


衝撃。


吹き飛ばされる。


「がっ……!」


背中から。


壁に叩きつけられた。


息が。


消えた。


剣が。


手から落ちる。


カラン。


床を転がった。


「……っ、ぁ……」


立て。


立て。


動け。


怪物が。


こっちを向く。


右足を。


引きずっている。


効いてる。


ちゃんと。


効いてるんだ。


あと少し。


でも。


身体が。


動かない。


視界の端に。


ウィンドウ。


《未使用SP:60》


一瞬。


迷った。


ここで振れば。


たぶん。


勝てる。


AGIに二十。


STRに二十。


VITに二十。


それだけで。


全然違う。


だが。


「……違うだろ」


俺は。


何のために。


ここまで来た。


何のために。


何度も死にかけて。


ポイントを残した。


半年後。


主人公に殺されないため。


この世界で。


生き残るため。


そのために。


欲しかった力だ。


ここで諦めるなら。


最初から。


普通の職業でいい。


「俺は……」


床に手をつく。


「こんなところで……」


立つ。


膝が震える。


それでも。


立つ。


「妥協するために来たんじゃねえ!」


怪物が。


突っ込んできた。


右拳。


真っ直ぐ。


俺は。


動かなかった。


見る。


拳。


肩。


腰。


足。


こいつは。


右の大技を出す時。


左足に。


体重を乗せる。


右足は。


俺が斬り続けた。


なら。


今。


全体重を。


支えているのは。


左足。


俺は。


床に転がっていた剣を拾った。


怪物の拳が迫る。


あと。


三メートル。


二。


一。


俺は。


右へ。


飛んだ。


拳が。


頬を掠める。


皮膚が裂ける。


無視。


怪物の横へ滑り込む。


狙うのは。


右足じゃない。


左足。


全体重が乗った。


膝裏。


「――ここだぁっ!」


剣を。


突き立てる。


ズブッ!


初めて。


深く入った。


怪物の巨体が。


傾く。


「……!」


倒れる。


その先には。


祭壇。


そして。


黒い剣。


「行けぇぇぇっ!!」


怪物の身体が。


祭壇へ激突した。


ズドォォォォン!!


黒い剣が。


巨体を。


貫いた。


一瞬。


時間が止まった。


怪物の赤い目が。


すべて。


俺を見る。


そして。


一つずつ。


消えていく。


最後の一つが。


閉じた。


《試練対象の消滅を確認》


「…………」


勝った?


《特殊条件達成》


《能力値割り振り:0》


《試練中の能力強化:なし》


《??????を単独撃破》


《適合率を再計算します》


再計算?


ちょっと待て。


そんな表示。


知らない。


《適合率:100%》


《規定値を大幅に超過しました》


「……え?」


《上位条件を確認》


《魂情報:不一致》


背筋が。


凍った。


魂。


また。


それか。


《外部記憶保持:確認》


「…………」


外部。


記憶?


《世界情報への干渉:確認》


《第七世界個体として認証――》


表示が。


乱れた。


ザザッ。


《エラー》


《エラー》


《観測権限が不足しています》


「おい」


勝手に。


話を進めるな。


《通常転職処理へ移行》


《転職可能職業を表示します》


そして。


待ち続けた。


その名前が。


目の前に。


現れた。


《隠し職業》


《アビスウォーカー》


「……っしゃ」


声が。


漏れた。


ようやく。


ようやくだ。


半年後の死。


最弱悪役。


レオン・アルヴェイン。


その未来を。


ひっくり返すための。


最初の切り札。


俺は迷わず。


《転職する》


を押した。


《確認しました》


《職業:ノービスを終了》


《特殊職業への転職を開始します》


黒い光が。


足元から。


身体を包む。


痛くはない。


むしろ。


今まで身体にかかっていた。


何か重いものが。


一気に外れていくような感覚。


《職業が変更されました》


《レオン・アルヴェイン》


《Lv.20》


《職業:アビスウォーカー》


《固有能力が解放されました》


《深淵適応》


《????》


《????》


「……二つ見えない?」


そんな仕様。


あったか?


ゲームのアビスウォーカーの固有能力は。


《深淵適応》


一つだけだった。


また。


知らない。


俺が画面へ触れようとした。


その時。


祭壇に刺さっていた。


黒い剣が。


ひとりでに。


震えた。


カタ。


カタカタ。


「……?」


そして。


目の前に。


新しい表示が。


浮かぶ。


《所有者照合中》


《魂情報――不一致》


《肉体情報――一致》


《照合対象》


《レオン・アルヴェイン》


俺は。


動けなかった。


肉体情報。


一致。


当たり前だ。


この身体は。


レオン・アルヴェインなんだから。


だが。


次の一文。


それだけは。


意味が違った。


《同一肉体情報を持つ個体を確認》


「…………は?」


《現在数:2》


二。


俺と。


もう一人。


脳裏に。


あいつの顔が浮かぶ。


俺と。


まったく同じ顔。


そして。


あの言葉。


――偽物。


黒い剣の震えが。


止まった。


最後に。


真っ赤な文字が。


一行だけ。


表示された。


《正規個体:生存》


「……じゃあ」


俺は。


誰なんだ。

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