↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『序盤で死ぬ最弱悪役に転生したけど、このゲームを一万時間やり込んだ俺には関係ない』  作者: くんくん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/48

レベル20。そして、扉が開く

第6章 レベル20。そして、扉が開く


朝日が昇り始めていた。


燃えた家屋から、細い煙が上がっている。


倒れた柵。


抉れた地面。


あちこちに転がるゴブリンの死体。


昨夜まで静かな村だったとは思えない惨状だ。


それでも。


村人たちは生きていた。


「こっちに水を!」


「怪我人を教会へ運べ!」


「まだ崩れそうな家には近づくな!」


怒鳴り声が飛び交う。


泣いている者もいる。


家を失った者もいる。


怪我人だって少なくない。


けれど。


少なくとも――。


村は残った。


俺は少し離れた場所で、その光景を眺めていた。


「……終わった、か」


身体が重い。


腕も痛い。


服なんて泥と血でぐちゃぐちゃだ。


さすがに今回は疲れた。


俺はその場に腰を下ろし。


そして。


ずっと視界の端に残っていたものへ意識を向けた。


――ステータス。


半透明の画面が開く。


そこに表示された数字を見て。


俺は思わず黙った。


【レオン・アルヴェイン】


【Lv:20】


【職業:ノービス】


【未使用ステータスポイント:60】


「……二十」


ついに。


届いた。


ゲームだった頃なら。


たかがレベル二十。


序盤も序盤だ。


メインストーリーを普通に進めていれば、気づいた頃には通り過ぎている。


けれど。


今の俺にとっては違う。


ここまで。


一度も。


ステータスポイントを振っていない。


死者の森でも。


昨日の戦いでも。


何度。


振ってしまおうと思ったことか。


筋力に少しだけ。


敏捷に少しだけ。


それだけでも、どれほど楽になったか。


だが。


我慢した。


全部。


このために。


「条件、一つ目……達成」


レベル二十まで。


ステータスポイント未使用。


未使用ポイント、六十。


そして。


墓守も救った。


残る条件は。


《始まりの地下墓地》。


俺は立ち上がった。


「レオン様」


後ろから声がした。


振り返る。


アルバートが立っていた。


いつも綺麗に整えられている執事服は、今日はあちこち汚れている。


珍しい姿だ。


「もう少しお休みになられては」


「十分休んだ」


「十分……」


アルバートが俺を見る。


その視線が。


俺の泥まみれの服。


血の付いた腕。


そして。


ふらつきかけた足へ順番に向けられた。


「少なくとも私の知る『十分』とは、意味が違うようですが」


「細かいな」


「レオン様が大雑把すぎるのです」


ため息をつかれた。


だが。


その顔は。


少しだけ笑っていた。


俺も何も言わず。


小さく笑う。


昨日。


何度も死ぬと思った。


正直。


ゲーム知識があるから余裕。


なんて。


そんな戦いじゃなかった。


知っているはずの世界なのに。


知らないことが起き始めている。


ゴブリンキング。


あいつが最後に口にした言葉。


――見つけた。


そして。


突然発生した。


あのクエスト。


【緊急クエスト】


【??????】


【推奨Lv:測定不能】


結局。


詳細は表示されなかった。


報酬も。


失敗条件も。


目的すら。


分からない。


戦いが終わった後。


クエスト表示は消えた。


だが。


完了通知は出ていない。


失敗通知も。


出ていない。


まるで。


何かの始まりだけを告げるように。


表示され。


そして消えた。


「……予定外、多すぎだろ」


思わず呟く。


俺が知っているゲーム。


《エターナル・クロニクル》。


本当に。


そのままの世界なのか?


疑問は増える一方だ。


それでも。


今やることは決まっている。


強くなる。


半年後。


レオン・アルヴェインを待っている。


死亡イベント。


それを。


叩き潰す。


「アルバート」


「はい」


「死者の森に戻る」


返事が。


一瞬遅れた。


「……今から、ですか?」


「今から」


「レオン様」


「大丈夫」


「大丈夫な人間は、そのような歩き方をいたしません」


一歩。


踏み出す。


ズキッ。


「…………」


「レオン様?」


「なんでもない」


「今、明らかに痛みましたね?」


「気のせい」


「左足を庇っておりますが」


「気のせい」


「では右足だけで歩いてください」


「鬼かよ」


「休めと言っております」


結局。


一時間。


強制的に休まされた。


⸻


死者の森。


昼になっても。


ここだけは薄暗い。


黒い枝が頭上を覆い。


冷たい風が抜けていく。


昨日までなら。


この森そのものに緊張していた。


グレイウルフ。


アイアンボア。


スケルトン。


今の俺なら。


油断しなければ。


戦える。


レベル二十。


ステータスは初期値に近いままだが。


それでも。


基礎能力そのものは上がっている。


何より。


戦い方を思い出してきた。


いや。


違うな。


ゲームの操作じゃない。


この身体での戦い方を。


覚え始めた。


森の奥へ進む。


やがて。


見えてきた。


古びた墓地。


折れた墓標。


錆びた柵。


そして。


その中央。


墓守はいた。


昨日と。


まったく同じ場所に。


まるで。


俺が戻ってくることなど。


最初から分かっていたように。


「来たか」


「……分かってたのか?」


「何がだ」


「俺が今日来ること」


墓守は。


しばらく俺を見て。


鼻で笑った。


「馬鹿者が、身体を休めず戻ってくることくらいはな」


「アルバートと同じこと言うなよ」


「その者は正しい」


味方がいない。


俺はため息をつき。


墓守の前まで歩いた。


そして。


言う。


「レベル二十になった」


墓守の目が。


僅かに細くなる。


「ほう」


「ポイントも使ってない」


「強化薬は」


「使ってない」


「能力を恒常的に上げる装備」


「付けてない」


「他者による能力付与」


「なし」


質問が続く。


俺は全部答えた。


墓守は。


しばらく黙った。


そして。


杖を地面へ突く。


カン。


乾いた音が。


墓地に響く。


次の瞬間。


空気が。


変わった。


「っ……」


地面が震える。


墓石の隙間から。


淡い青色の光が浮かび上がる。


一本。


二本。


十本。


無数の光が。


地面を這うように伸びていき。


巨大な魔法陣を描いた。


ゲームでは。


何度も見た。


隠しエリア解放演出。


だけど。


モニター越しとは。


迫力がまるで違う。


ゴゴゴゴゴゴ――。


墓守の背後。


何もなかった地面が割れる。


石段が。


ゆっくりと。


地下へ向かって姿を現す。


その先は。


真っ暗だ。


光が届かない。


《始まりの地下墓地》。


推奨レベル四十。


序盤で入ることを。


想定されていない場所。


そして。


その最深部に。


俺が欲しいものがある。


墓守が。


こちらを見る。


「レオン・アルヴェイン」


声色が。


変わった。


さっきまでとは違う。


重い。


儀式の言葉のような。


そんな響き。


「力を求めるか」


「求める」


即答した。


「何のために」


ゲームでは。


この質問に。


選択肢が出る。


たしか。


三つ。


《名誉のため》


《富のため》


《復讐のため》


どれを選んでも。


最終的には入れた。


だが。


画面は出ない。


選択肢も。


当然。


表示されない。


なら。


俺の答えは。


一つだけだ。


「生きるためだ」


墓守は黙っている。


俺は続けた。


「俺は死にたくない」


半年後。


必ず来る。


死。


「それだけじゃない」


今なら。


分かる。


俺が死ねば。


終わりじゃない。


この世界には。


俺の知らない人間がいる。


俺を知っている人間がいる。


アルバート。


村の人間。


そして。


あの。


銀髪の少女。


ゲームには存在しなかった。


俺を。


兄と呼んだ少女。


「俺が死んだら、困る奴がいる」


前の俺なら。


そんなこと。


言わなかったかもしれない。


だって。


ゲームだったから。


NPCは。


データだった。


だけど。


今は違う。


傷つけば血が出る。


怖ければ震える。


家族を失えば泣く。


みんな。


生きている。


だったら。


俺も。


生きる。


「だから、強くなる」


墓守は。


じっと俺を見る。


長い沈黙。


やがて。


ゆっくりと。


道を開けた。


「ならば行け」


地下へ続く。


石段。


「ただし」


俺が一歩進もうとしたところで。


声が止めた。


「勘違いするな」


振り返る。


墓守の顔から。


いつもの気怠さが。


消えていた。


「地下墓地は、お前を強くする場所ではない」


「……何?」


「強さを与える場所でもない」


杖の先が。


地下を指す。


「お前が」


墓守の瞳が。


青白く光った。


「何者であるかを、選ぶ場所だ」


ゾクリ。


背筋に。


冷たいものが走った。


こんな台詞。


ゲームには。


なかった。


また。


知らない。


「待て。それどういう――」


聞こうとした。


その瞬間。


――ピコン。


久しぶりに。


聞き慣れた音が鳴った。


目の前。


半透明のウィンドウが。


勝手に開く。


【特殊条件を確認しました】


【条件Ⅰ:Lv20到達】


【達成】


【条件Ⅱ:Lv20到達までステータスポイント未使用】


【達成】


【条件Ⅲ:墓守の生存】


【達成】


おお。


来た。


ゲームと同じ。


ここまでは。


知っている。


俺は。


次の表示を待った。


【条件Ⅳ:??????】


「……は?」


知らない。


ゲームでは。


条件は三つだった。


いや。


正確には。


地下墓地を攻略すれば。


それで。


転職条件が揃ったはずだ。


なのに。


画面が。


さらに切り替わる。


【隠し条件が追加されました】


【魂適合率を測定します】


「魂……?」


墓守を見る。


奴は。


驚いていない。


「おい」


返事はない。


【測定中――】


【測定中――】


【測定中――】


そして。


数秒後。


文字が。


赤く染まった。


【ERROR】


「……またかよ」


嫌な予感しかしない。


【肉体情報と魂情報が一致しません】


心臓が。


跳ねた。


墓守の言葉が。


頭をよぎる。


その身体は。


アルヴェインの血を引く。


だが。


中にいる貴様は誰だ?


【再測定】


【ERROR】


【再測定】


【ERROR】


【特殊個体として処理を継続します】


「勝手に処理すんな」


思わず突っ込んだ。


だが。


次に出た文字で。


声が止まった。


【既存職業への適合判定――失敗】


「…………」


は?


【隠し職《――――》への適合判定――】


文字が。


一瞬。


乱れる。


そして。


【適合】


表示された。


「……なんだ、これ」


知らない。


俺が狙っていた職業じゃない。


少なくとも。


こんな表示。


見たことがない。


墓守が。


小さく呟いた。


「やはりな」


「やはり?」


「進め」


「いや待て」


「答えは下にある」


またそれか。


「説明する気ないだろ、お前」


「説明して分かるなら、とっくにしている」


「便利な言葉だな、それ」


墓守は。


もう答えなかった。


地下。


暗闇の奥から。


冷たい風が吹き上がってくる。


俺は。


剣の柄を握った。


推奨レベル四十。


今の俺は。


二十。


しかも。


ポイント未振り。


普通なら。


自殺行為だ。


だが。


ここは。


何度も攻略した。


敵の配置。


罠。


隠し通路。


ボスの行動パターン。


全部。


覚えている。


――はずだ。


「…………」


今までの出来事を思い返す。


予定より早い村襲撃。


ゲームにいない妹。


俺を見て。


《見つけた》と言ったゴブリンキング。


測定不能のクエスト。


そして。


今。


知らない転職判定。


「……絶対なんか変わってるよな」


確信した。


もう。


ゲーム知識だけを。


信じるわけにはいかない。


それでも。


知識は。


俺が持っている最大の武器だ。


捨てる理由もない。


俺は。


地下へ向かって。


一歩を踏み出した。


すると。


背後から。


墓守の声。


「レオン」


初めて。


名前だけで呼ばれた。


足を止める。


「一つだけ忠告しておく」


「何だ?」


「地下で」


墓守が言った。


「自分と同じ顔をした者に会っても――」


沈黙。


「決して」


「先に名を名乗るな」


俺は。


ゆっくり振り返った。


「……どういう意味だよ」


だが。


墓守は。


もう。


俺を見ていなかった。


そして。


地下深く。


暗闇の向こうから。


カツン。


音がした。


誰かが。


歩いている。


カツン。


カツン。


ゆっくり。


こちらへ。


近づいてくる。


俺は。


剣を抜いた。


暗闇の奥。


僅かな青い光の中に。


人影が浮かぶ。


身長。


体格。


髪型。


全部。


見覚えがあった。


当たり前だ。


毎朝。


鏡で見ている。


そいつが。


顔を上げる。


そして。


俺と。


まったく同じ顔で。


笑った。


「――やっと来たな」


俺は。


剣を構える。


そいつは。


言った。


「偽物」


――第6章 終

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。