↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『序盤で死ぬ最弱悪役に転生したけど、このゲームを一万時間やり込んだ俺には関係ない』  作者: くんくん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/48

第46章 ゲームを捨てても、俺は俺だ


《PLAYER AUTHORITYの剥奪を開始します》


その文字が表示された瞬間、俺の視界にあったものが、一つずつ消え始めた。


最初に消えたのは、右上のミニマップだった。


学院の形も、仲間を示す光点も、敵を示す赤い印もない。


次に、視界の端に残っていたHPとMP。


そして――ステータス。


《STATUS》


見慣れた文字が薄くなり、数秒後には完全に消えた。


「……本当に、なくなるんだな」


思わず呟く。


分かっていた。


自分で選んだことだ。


それでも、二十年以上この世界をゲームとして知っていた俺にとって、あれはただの便利機能じゃなかった。


レベル。


スキル。


装備補正。


クエスト。


攻略情報。


俺がこの世界で生き残るために使ってきた、すべてだった。


《PLAYER AUTHORITY――37%》


目の前に残された最後のウィンドウだけが、淡々と数字を増やしている。


「レオン」


エリシアが俺を見る。


「止められる?」


「たぶん」


俺は答えた。


まだ、管理画面の奥に中断項目が見える。


押せば止められる。


今ならまだ間に合う。


プレイヤー権限を残したまま、この世界に居続けることもできる。


誰にも見えない情報を見る。


誰より早く強くなる。


この世界の仕組みを知り尽くした人間として生きる。


正直に言えば――魅力的だった。


それがあったから、俺はここまで来られたのだから。


だが。


「止めない」


俺は中断項目から視線を外した。


エリシアは何も言わなかった。


ただ、小さく頷いた。


その直後。


「ふざけんなよ……」


低い声が響いた。


少し離れた場所に立っていた男。


この世界に最後の最後で侵入してきた、外部のプレイヤーだった。


さっきまで余裕ぶった笑みを浮かべていた顔は、完全に引きつっている。


何度も空中を指でなぞり、何かを操作している。


だが、何も起こらない。


「メニューが開かねえ」


男が呟く。


「ログアウトも……運営メニューも……おい、なんだよこれ」


《PLAYER AUTHORITY――52%》


どうやら俺の権限だけじゃない。


第八世界そのものが、プレイヤーという存在を拒絶し始めている。


男がこちらを睨んだ。


「お前、何した?」


「ゲームを終わらせてる」


「は?」


「ここを、お前らが遊ぶ場所じゃなくしてる」


一瞬。


男は意味が分からないという顔をした。


そして、笑った。


乾いた笑いだった。


「何言ってんだ、お前」


腰の剣を抜く。


「ゲームだろ、これ」


切っ先が俺へ向けられる。


「NPCがどれだけリアルになろうが、結局データだ。運営が作って、俺たちが遊ぶ。それだけだろ」


俺の横で、カイルが一歩前へ出た。


「えぬぴーしー……?」


眉間に皺を寄せる。


意味は分かっていない。


それでいい。


もう、分からなくていい言葉だ。


「カイル」


「なんだ」


「手を出すな」


「だが――」


「俺がやる」


腰の剣を抜く。


その瞬間だった。


いつもなら出るはずの表示が出ない。


《装備:黒鋼剣》


そんな文字は、もうない。


攻撃力も。


耐久値も。


スキル補正も。


ただ、手の中に一本の剣があるだけだった。


妙に重い。


――いや。


違う。


これが、本当の重さなのか。


今まで数字の向こう側にあったものを、ようやく自分の手で感じている。


男が笑う。


「お前もプレイヤーなんだろ?」


「だった」


「じゃあ分かるだろ!」


男が踏み込んだ。


速い。


だが――見える。


スキル名は出ない。


予備動作を教えてくれるマーカーもない。


敵の攻撃範囲を示す赤線もない。


それでも。


肩が動いた。


右足に重心が乗った。


剣先がわずかに下がった。


来る。


右上からの斬撃。


俺は半歩だけ下がった。


刃が鼻先を通過する。


「なっ――」


男の目が見開かれる。


考えるより先に身体が動いていた。


そのまま剣の腹で相手の手首を打つ。


「ぐっ!」


剣が落ちた。


地面に金属音が響く。


俺自身が、一番驚いていた。


スキルは使っていない。


《剣術》もない。


《回避》もない。


システムによる補助なんて、もう残っていない。


なのに。


できた。


「……そっか」


ずっと勘違いしていた。


俺はゲーム知識だけで戦ってきたと思っていた。


未来を知っていたから。


敵の行動を知っていたから。


強い装備の場所を知っていたから。


それだけで、ここまで来られたんだと思っていた。


でも。


何度も死にかけた。


剣を振った。


逃げた。


考えた。


誰かを守ろうとした。


全部、俺自身がやってきたことだ。


知識はきっかけだった。


システムは助けてくれた。


だけど。


ここまで歩いてきたのは――俺だ。


《PLAYER AUTHORITY――71%》


男が落とした剣を拾おうとする。


俺はその前に剣先を突きつけた。


「やめとけ」


「……殺すのかよ」


「殺さない」


「は?」


男が呆ける。


「ゲームじゃないからな」


後ろで、カイルが吹き出した。


「なるほど。今のは悪くない」


「うるさい」


「褒めたんだが?」


そんなやり取りをしている間にも、数字は増えていく。


《PLAYER AUTHORITY――83%》


男の身体が透け始めた。


「……おい」


本人も気付いた。


両手を見る。


指先が薄い。


「なんだよ、これ」


新しい表示が現れる。


《EXTERNAL PLAYERを検出》


《対象世界は外部接続サービスから離脱します》


《接続資格のない個体を強制切断します》


「待て!」


男が叫ぶ。


「待てって! 俺のキャラは!? アイテムは!?」


誰も答えない。


「課金したんだぞ!」


カイルが俺を見る。


「かきんとは?」


「……知らなくていい」


「そうか」


男の姿がさらに薄くなる。


俺は、その様子を黙って見ていた。


こいつが悪人なのかは分からない。


向こうでは、ただゲームを遊ぼうとしただけなのかもしれない。


俺だって前世では同じだった。


NPCをNPCとしか思わなかった。


イベントのために倒した。


効率のために切り捨てた。


セーブデータなら、消したことだってある。


だからこそ。


こいつだけを責める気にはなれなかった。


「なあ」


消えかけた男へ声をかける。


「なんだよ……」


「戻ったら、運営に伝えてくれ」


「何を」


俺は少し考えてから答えた。


「この世界は、サービス終了したって」


男が目を丸くした。


直後。


その身体が光の粒になり、跡形もなく消えた。


《EXTERNAL PLAYER――0》


静寂が戻る。


リリアが恐る恐る口を開いた。


「……終わったの?」


「まだだ」


俺の前には、最後の数字が残っている。


《PLAYER AUTHORITY――94%》


胸の奥が妙にざわつく。


ここから先。


俺はもう、本当にプレイヤーではなくなる。


ゲーム知識そのものが消えるのか。


前世の記憶まで失うのか。


それは分からない。


「レオン」


エリシアが隣に来た。


「怖い?」


「……ちょっとな」


「意外」


「俺を何だと思ってるんだ」


「無茶をするときだけ判断が早くなる人」


「否定できないな」


リリアが小さく笑う。


カイルも肩をすくめた。


いつの間にか。


一人じゃなくなっていた。


転生したばかりの俺は、全部知っているつもりだった。


この世界の未来も。


誰が強くなるのかも。


誰が死ぬのかも。


どこに何があるのかも。


ゲームを知っている俺だけが、答えを持っていると思っていた。


でも、違った。


俺の知らない選択を、こいつらは何度もした。


俺の知らない顔で笑った。


ゲームにはなかった言葉を口にした。


そのたびに。


この世界は、俺の知っている《ECLIPSE ONLINE》から離れていった。


いや。


最初から。


同じじゃなかったのかもしれない。


《PLAYER AUTHORITY――98%》


視界にノイズが走る。


一瞬だけ。


懐かしい光景が見えた。


暗い部屋。


モニター。


手元のキーボード。


画面には、《ECLIPSE ONLINE》のタイトルロゴ。


前世の俺。


椅子に座って。


この世界を見ている。


『このキャラ弱すぎだろ』


昔の俺の声。


『こんなの誰が使うんだよ』


画面に映っていたキャラクター。


――レオン。


俺は思わず笑った。


「……言ってたな、俺」


弱い。


ハズレ。


使えない。


そう判断していた。


攻略サイトに載る評価だけを見て。


数字だけを見て。


そして今。


俺は、そのキャラクターとしてここに立っている。


《PLAYER AUTHORITY――99%》


最後の一パーセント。


そこで。


数字が止まった。


「……?」


新しいウィンドウが開く。


これまで見てきたどのシステム表示よりも、小さい。


簡素な画面だった。


《PLAYER AUTHORITYの剥奪には、最終確認が必要です》


《実行後、以下の機能は永久に失われます》


《STATUS》


《SKILL SYSTEM》


《QUEST SYSTEM》


《SYSTEM ASSIST》


《PLAYER STORAGE》


《RESPAWN》


そして。


一番下。


《LOGOUT》


俺の目が止まった。


「ログアウト……」


その単語だけは、意味が違った。


ゲーム機能を失う。


それだけじゃない。


ログアウトを失うということは。


俺が――向こうへ戻るための最後の道まで消える。


《最終確認》


《PLAYER AUTHORITYを完全に放棄しますか?》


《YES》


《NO》


誰も喋らない。


選択肢は、俺にしか見えていない。


指を伸ばせば届く。


YESを押せば。


俺はこの世界の住人になる。


完全に。


もうプレイヤーではない。


戻れる保証もなくなる。


前世。


日本。


家。


あの部屋。


俺が元々生きていた世界。


忘れたわけじゃない。


捨てたいわけでもない。


だから。


指が止まった。


「レオン?」


リリアの声。


俺は答えられなかった。


初めてだった。


この世界に来てから。


攻略情報でも。


ゲーム知識でも。


システムでも。


答えを教えてくれない選択。


《YES》


《NO》


二つの文字が、静かに浮かんでいる。


そのとき。


俺はようやく気付いた。


これがきっと。


この世界に来てから初めての――


本当の意味での、


俺自身の選択だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。