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『序盤で死ぬ最弱悪役に転生したけど、このゲームを一万時間やり込んだ俺には関係ない』  作者: くんくん


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第42章 お前は、誰だ


音が消えた。


剣を振り抜いた姿勢のまま、俺は動けずにいた。


目の前にいた“俺”の身体には、肩口から胸まで一本の亀裂が走っている。


血は出ない。


代わりに、亀裂の奥から白い光が漏れ出していた。


《最終防衛個体――機能停止》


《完全初期化機構への接続を確認》


視界の端で数字が減っていく。


《00:00:17》


「……間に合え」


床を蹴る。


痛む身体を無理やり前へ押し出し、俺は部屋の最奥に浮かぶ黒い球体へ手を伸ばした。


《警告》


《外部接続元から強制介入》


「知るか!」


掌を叩きつける。


瞬間。


世界が、反転した。


「――っ!」


上下の感覚が消えた。


床も壁もない。


ただ真っ白な空間の中に、俺一人だけが立っていた。


いや。


違う。


正面に、誰かいる。


人影。


身体の輪郭は男に見える。


だが顔がない。


黒いノイズが絶えず表面を走り、姿そのものが定まっていなかった。


その頭上に。


今まで何度も見た表示が浮かぶ。


《PLAYER:UNKNOWN》


「……やっと直接会えたな」


俺が言うと、そいつはわずかに首を傾けた。


『直接、か』


声が響く。


男にも女にも聞こえない、加工されたような声だった。


『その表現は正確ではない』


「じゃあ何なんだよ」


『ここは接続領域だ。私も、お前も、この場に存在しているわけではない』


「面倒くせえな」


俺は剣を肩に担いだ。


「じゃあ簡単に聞くぞ」


一歩、前へ出る。


「お前は誰だ」


沈黙。


数秒後。


UNKNOWNの身体に走っていたノイズが止まった。


『観測者』


「……は?」


『私は、この世界の観測者だ』


「答えになってねえ」


『ならば、お前の理解できる言葉で言おう』


UNKNOWNが手を上げる。


その瞬間、白い空間いっぱいに無数の映像が現れた。


森。


王都。


学院。


魔物。


戦争。


そして。


死んでいく“レオン”。


一人。


二人。


三人。


同じ顔。


違う死に方。


胸を刺され。


焼かれ。


首を落とされ。


仲間を失い。


世界と共に消えていく。


七つの世界。


七人のレオン。


俺は無意識に拳を握った。


『私はそれら全てを見ていた』


「……見てた?」


『第一世界から第七世界まで』


映像が切り替わる。


暗闇の中に浮かぶ、巨大な文字。


《WORLD SYSTEM》


『世界が作られ、失敗し、初期化され、再構築される。その全過程を私は外側から観測していた』


「外側……」


そこで一つの疑問が浮かぶ。


「待て」


俺はUNKNOWNを睨んだ。


「お前、プレイヤーじゃないのか?」


表示は確かにそうなっている。


《PLAYER:UNKNOWN》


だが。


UNKNOWNは首を横に振った。


『違う』


「じゃあその表示は何だよ」


『接続するために必要な権限を借りているだけだ』


「誰の?」


今度は。


明確な間があった。


『お前たちの世界で、最初にこのゲームを作った人間のものだ』


背筋が冷えた。


「……ゲームを?」


『そうだ』


映像が変わる。


そこに映ったのは。


見覚えのある景色だった。


PCモニター。


キーボード。


机の上に転がる空のペットボトル。


そして画面に表示されているタイトル。


俺が。


前世で何百時間も遊んだゲーム。


『ASTRAL CODE』


息が止まる。


「……嘘だろ」


『嘘ではない』


「じゃあここは……」


ゲームの中。


そう思っていた。


だけど。


違う。


第八世界は独立した。


システムから切り離されても、エリシアもカイルもリリアも消えなかった。


世界は続いていた。


なら。


「この世界を作った奴が……まだいる?」


『正確には、いた』


過去形。


その一言が引っかかった。


「死んだのか?」


『肉体は』


「……」


嫌な言い方だ。


「肉体は、ってことは?」


UNKNOWNの胸部が開く。


そこに浮かんだ。


小さな光。


《ORIGIN DATA》


《CREATOR》


《STATUS:CONNECTED》


『彼はゲームの完成を見ることができなかった』


『だから残した』


『自分の記憶を』


『人格を』


『そして願いを』


俺はしばらく言葉が出なかった。


つまり。


この世界の外側にいるUNKNOWNは。


人間じゃない。


少なくとも今は。


「……製作者のコピーってことか」


『近い』


「何のためにこんなことしてる」


『完成させるためだ』


「何を」


その瞬間。


空間に一つの映像が浮かんだ。


第八世界。


王都。


学院。


死者の森。


俺たちが歩いてきた場所。


そこに暮らす人々。


『この世界を』


俺は眉をひそめる。


「だったら邪魔すんなよ」


『お前がいるから完成しない』


「……は?」


『レオン・ヴァルハルト』


初めて。


UNKNOWNが俺の名を呼んだ。


『お前だけが、この世界の予定に存在しない』


空間に文字が走る。


《異常個体》


《起源:外部世界》


《魂魄情報:照合不能》


《転生処理:記録なし》


《侵入経路:UNKNOWN》


最後の一文を見て。


俺は目を細めた。


「侵入経路……UNKNOWN?」


『そう』


「お前が俺を転生させたのか?」


『違う』


即答だった。


『だから私はお前を調べている』


「……」


『お前は誰にも呼ばれていない』


声の調子が変わった。


初めて。


そこに感情のようなものが混じった。


『システムにも』


『管理者にも』


『私にも』


一歩。


UNKNOWNが俺へ近づく。


『にもかかわらず、お前はここにいる』


俺も動かない。


『七度失敗した世界の、八度目』


『存在しないはずのプレイヤー』


『そして』


目の前に赤い文字が浮かぶ。


《ERROR》


《外部座標を検出》


《対象:LEON》


『お前の魂には』


UNKNOWNが言った。


『この世界とは別の接続先がある』


「……前世の世界じゃないのか?」


『違う』


「じゃあどこだよ」


『分からない』


今度こそ。


ぞくりとした。


こいつは七つの世界を観測していた。


WORLD SYSTEMの外側にいて。


製作者の記憶まで持っている。


そいつが。


分からないと言った。


『だから確認する必要がある』


UNKNOWNの手が伸びてくる。


同時に警告が鳴った。


《警告》


《外部干渉を検知》


《魂魄領域へのアクセス要求》


《拒否不能》


「ふざけんな」


剣を構える。


UNKNOWNの動きが止まった。


『抵抗するのか』


「当たり前だ」


『真実を知りたくないのか?』


「知りたいさ」


俺は剣先を向けた。


「でもな」


エリシアの顔が浮かぶ。


カイル。


リリア。


アルバート。


これまで出会った連中。


ここで生きている奴ら。


「勝手に人の頭ん中を覗く奴を信用するほど、俺は素直じゃない」


『……理解不能』


「ゲームばっか作ってた奴には分かんねえかもな」


UNKNOWNの身体に。


再びノイズが走った。


その瞬間。


遠くから声が聞こえた。


「レオン!」


エリシア。


「レオン!!」


カイル。


接続領域が揺れる。


《外部接続切断まで》


《00:00:05》


UNKNOWNが顔を上げた。


『時間か』


「らしいな」


《00:00:04》


『レオン・ヴァルハルト』


《00:00:03》


『次に会う時までに』


UNKNOWNの身体が崩れ始める。


《00:00:02》


『一つだけ覚えておけ』


「何だよ」


《00:00:01》


ノイズの奥。


初めて。


その口元だけが。


人間の形になった。


『お前が前世だと思っている世界も』


《00:00:00》


『本当に“外側”なのか?』


「――は?」


《外部接続――切断》


世界が弾けた。


「レオン!」


目を開ける。


俺は床に倒れていた。


エリシアが俺の肩を抱き、カイルがすぐ横に膝をついている。


「……戻った、のか」


「何言ってるのよ! 急に倒れて、全然起きなくて……!」


エリシアの声が震えていた。


「悪い」


身体を起こす。


目の前にあったはずの《完全初期化機構》は。


消えていた。


代わりに。


静かな文字が浮かんでいる。


《緊急クエスト完了》


《外部接続:切断成功》


《WORLD SYSTEM:停止》


《完全初期化機構:消滅》


そして最後に。


今まで一度も見たことのない表示。


《SYSTEM MESSAGE》


《Congratulations》


《メインシナリオをクリアしました》


カイルが固まる。


エリシアも黙った。


俺は。


数秒、その文字を眺めてから。


「……今さらかよ」


思わず笑った。


長かった。


死者の森から始まって。


学院に入り。


世界の裏側まで来て。


ついにはシステムそのものまでぶっ壊した。


ようやく。


終わった。


そう思った。


――次の表示が出るまでは。


《クリアデータを確認》


《隠し条件を達成》


《TRUE ROUTEを解放します》


俺の笑みが消えた。


カイルが小さく呟く。


「……レオン」


「ああ」


分かってる。


嫌な予感しかしない。


文字がゆっくり切り替わる。


《TRUE QUEST》


《あなたが“誰なのか”を証明してください》


そして。


その下に表示された目的地を見た瞬間。


俺は完全に言葉を失った。


《目的地》


《現実世界》


――いや。


待て。


それは、どっちの現実だ。

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