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『序盤で死ぬ最弱悪役に転生したけど、このゲームを一万時間やり込んだ俺には関係ない』  作者: くんくん


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そのイベント、まだ先のはずなんだけど

第4章 そのイベント、まだ先のはずなんだけど


死者の森を出たのは、日が傾き始めた頃だった。


「……はぁ」


森を抜けた瞬間。


思わず息を吐く。


別に疲れたわけじゃない。


むしろ身体は軽い。


レベルも上がった。


現在、レベル十三。


ステータスポイントは三十九。


もちろん。


一ポイントたりとも振っていない。


レベル二十まで未使用。


それが、俺の狙っている隠し職の条件だからだ。


問題は。


そこじゃない。


『アルヴェインの血を引く者よ』


『その身体は確かにレオン・アルヴェインのもの』


『だが――』


『中にいる貴様は、誰だ?』


「……」


あの墓守。


何者だよ。


ゲームじゃ、あんな台詞なかったぞ。


そもそも。


俺が知ってる《死者の森》の墓守は、もっと単純なNPCだった。


条件を満たせばアイテムを渡す。


それだけ。


プレイヤーの中身を見抜くような奴じゃない。


「レオン様?」


隣を歩いていたアルバートが俺を見る。


「先ほどから、随分と難しい顔をされていますが」


「そうか?」


「はい」


「腹減っただけ」


「……そういうことにしておきましょう」


こいつ。


最近ちょっと俺の扱い雑になってない?


まあいい。


今考えても答えは出ない。


墓守は最後まで、それ以上何も言わなかった。


俺が何者なのか。


なぜ分かったのか。


アルヴェイン家について何を知っているのか。


全部。


「時が来れば分かる」


で終わらされた。


NPC特有のもったいぶった言い回しかと思ったけど。


あの目。


どう考えても、俺を見ていた。


レオンじゃなく。


俺を。


「……考えるのやめよ」


「それがよろしいかと」


「お前、絶対意味分かってないだろ」


「はい」


即答かよ。


馬車を置いた場所までは、あと三十分ほど。


帰ったら飯食って。


風呂入って。


寝る。


今日はそれでいい。


レベル十三まで上がった。


予定以上の成果だ。


次は――


そこまで考えた時だった。


アルバートが足を止めた。


「……レオン様」


声が低い。


俺も止まる。


「何?」


アルバートが前方を見ている。


俺も、その視線を追った。


遠く。


木々の向こう。


黒い煙が上がっていた。


「火事?」


「いえ」


アルバートの顔つきが変わる。


「方角的に、村があります」


村?


俺は頭の中で地図を開く。


死者の森。


王都方面。


この街道。


途中にある村。


「……エルム村?」


「ご存じなのですか?」


「あ」


しまった。


知らないはずか。


「地図で見た」


「なるほど」


便利だな地図。


何でも誤魔化せる。


……いや。


今はそんなことどうでもいい。


エルム村。


知ってる。


もちろん知ってる。


序盤のサブクエストで何度も来た場所だ。


薬草採取。


家畜探し。


井戸の掃除。


逃げた鶏を捕まえるクソクエストまであった。


そして。


この村では。


一つ、大きなイベントが起きる。


《エルム村襲撃》。


北の山から降りてきたゴブリンの集団が村を襲うイベント。


ボスは。


ゴブリンジェネラル。


推奨レベル十八。


クリアすると王都での評価が上がり、冒険者ギルドの一部依頼が解放される。


ただし。


「……おかしい」


俺は呟いた。


「何がです?」


違う。


このイベント。


今じゃない。


少なくとも。


ゲーム開始から二ヶ月以上経ってから発生する。


今はまだ。


俺がこの世界に来て――


数日だ。


煙が。


さらに濃くなる。


その瞬間。


微かに。


悲鳴が聞こえた。


「っ」


アルバートが剣に手をかける。


「レオン様。ここでお待ちください」


「は?」


「私が確認して参ります」


「いやいやいや」


「危険です」


「だから俺も行く」


「なりません」


珍しく。


アルバートが強い口調で言った。


「死者の森で何があったのか、私は詳しく存じません」


「……」


「あの森に入られてから、レオン様の動きが以前とは別人のようになったことも」


おい。


そこ突っ込む?


「ですが」


アルバートは俺を見る。


「だからといって、危険な場所へお連れしてよい理由にはなりません」


真面目だ。


こいつ。


本気で俺を守ろうとしてる。


ゲームでは。


アルバートなんて、屋敷にいるモブ執事みたいな存在だった。


名前付きだったかどうかすら。


正直、覚えていない。


でも。


今は違う。


普通に喋る。


怒る。


心配する。


生きてる。


「アルバート」


「はい」


「村に何人くらいいると思う?」


「……百人ほどでしょうか」


「子供は?」


アルバートが黙った。


俺は煙を見る。


ゲームなら。


イベントが始まってから村に入ればいい。


村人が何人倒れていようが関係ない。


決められたNPCは生き残る。


イベント終了後には。


半壊した家も、何日かすれば元に戻る。


だけど。


今は。


「俺、ちょっと確認したいんだよね」


「何をです?」


「この世界が」


一瞬。


墓守の言葉が頭をよぎる。


――中にいる貴様は、誰だ?


俺は。


小さく息を吐いた。


「本当にゲームと同じなのか」


「……?」


「こっちの話」


俺は走り出した。


「レオン様!」


後ろからアルバートも追ってくる。


やっぱり来るよな。


知ってた。


◆


村が見えた瞬間。


俺は確信した。


「マジかよ……」


燃えている。


入口近くの家が二軒。


柵は破壊され。


地面には血。


そして。


「ギャギャギャ!」


緑色の小柄な魔物が。


村人を追い回していた。


ゴブリン。


間違いない。


一匹。


二匹。


五匹。


十匹。


いや。


もっといる。


「レオン様、下がって!」


アルバートが剣を抜く。


直後。


飛びかかってきたゴブリンの首を。


一撃で斬り落とした。


強っ。


そういえばこいつ。


普通に護衛できるくらいには強いんだった。


「アルバート」


「はい!」


「村人優先!」


「ですが!」


「俺は大丈夫!」


「大丈夫では――」


「右!」


アルバートが反射的に振り向く。


ゴブリンが三匹。


「そっち任せた!」


俺は逆方向へ走る。


「レオン様ぁ!」


怒鳴り声が聞こえたけど無視。


だって。


知ってるから。


この村の構造。


そして。


ゴブリンの動きも。


「いた」


倒れた荷車の陰。


小さな女の子が蹲っている。


その前に。


ゴブリンが二匹。


短剣を持った一匹が。


女の子へ近づいていた。


「ギャ?」


俺に気づく。


遅い。


ゴブリン。


レベル三から五程度。


今の俺なら。


問題ない。


地面を蹴る。


一気に距離を詰め。


剣を抜く。


一匹目。


首。


二匹目。


振り向く前に。


胸。


「ギャッ――」


終わり。


《ゴブリンを討伐しました》


《経験値を獲得しました》


表示を無視する。


「大丈夫?」


女の子の前にしゃがむ。


震えている。


泣いている。


「お、お母さんが……」


「どこ?」


指差した先。


家の前に女性が倒れている。


生きてる。


胸が動いてる。


「アルバート!」


叫ぶ。


「こっち!」


数秒後。


ゴブリンを蹴り飛ばしながらアルバートが来た。


いや。


執事の戦い方じゃねえだろ。


「この人と子供頼む」


「レオン様は!?」


「ちょっと奥見る」


「待ちなさい!」


無視。


走る。


ゲームでは。


村の中央。


井戸の近くに。


生存者が集まっている。


そこをゴブリン達が囲む。


そして。


イベント開始から一定時間後。


奴が現れる。


ボス。


ゴブリンジェネラル。


俺が知ってる通りなら。


まだ――


ドンッ!!


地面が震えた。


「……」


村の中央から。


人が飛んできた。


本当に。


飛んできた。


俺の目の前を横切り。


家の壁へ叩きつけられる。


「ぐっ……!」


兵士。


生きてる。


けど。


かなりヤバい。


そして。


奥から。


ズシン。


ズシン。


重い足音。


「いやいや」


俺は止まった。


「早いって」


煙の向こう。


巨大な影。


普通のゴブリンの。


倍近い身体。


鉄製の胸当て。


右手には。


人間なら両手で持つような大剣。


《ゴブリンジェネラル》


《Lv.22》


ほら。


知ってる。


やっぱりこいつだ。


レベル二十二。


俺は十三。


普通なら。


勝てない。


でも。


問題はそこじゃない。


俺が見ている前で。


さらに。


もう一体。


煙の中から出てきた。


「……は?」


《ゴブリンジェネラル》


《Lv.21》


二体。


俺は固まった。


ゲームでは。


一体だ。


絶対に。


一体しか出ない。


なのに。


二体いる。


その後ろ。


さらに。


巨大な影が動いた。


「……待て」


嫌な予感がする。


影が。


姿を現す。


ゴブリンジェネラルよりも。


さらに大きい。


黒い皮膚。


全身に刻まれた傷。


片手には巨大な戦斧。


そして。


頭には。


骨で作られた冠。


俺の視界に。


表示が出た。


《ゴブリンキング》


《Lv.35》


「……」


知らない。


いや。


知ってる魔物ではある。


当然。


何度も倒した。


でも。


ここじゃない。


こいつが出るのは。


もっと先。


北部戦線。


中盤以降のフィールドだ。


こんな。


序盤の村に。


出ていい敵じゃない。


「嘘だろ……」


ゴブリンキングが。


ゆっくりと戦斧を持ち上げる。


その先。


村人達がいる。


老人。


女。


子供。


十数人。


逃げ場はない。


アルバートは。


まだ後ろ。


間に合わない。


俺は。


剣を握った。


逃げる?


レベル差二十二。


ステータスポイントは振れない。


隠し職を取るなら。


レベル二十まで。


絶対に。


一ポイントも使えない。


ゲームなら。


ここは撤退。


当然だ。


勝てる状態を作ってから来る。


死んだらロード。


それでいい。


でも。


「……あー」


ゲームじゃない。


分かってたはずなのに。


どこかで。


まだそう思ってた。


イベントなら。


決められた奴は生き残る。


失敗しても。


やり直せる。


だけど。


目の前で泣いている子供に。


ロードなんてない。


戦斧が。


振り下ろされる。


「くそっ!」


俺は走った。


考えるより先に。


身体が動いた。


村人達と。


ゴブリンキングの間へ。


滑り込む。


剣を構える。


無理。


真正面から受けたら死ぬ。


だから。


受けない。


軌道は知ってる。


ゴブリンキングの通常攻撃。


右上から左下。


初撃の振り下ろし。


攻撃判定が出る直前。


右足側。


そこが。


死角。


ギリギリまで引きつける。


斧が迫る。


「今!」


踏み込む。


風圧が頬を切った。


斧が。


俺の背後の地面を粉砕する。


ドォン!!


「きゃあああ!」


悲鳴。


でも。


俺は笑った。


「……やっぱり」


動きは。


知ってる。


敵の数も。


出現時期も。


何もかも違う。


だけど。


モーションは。


俺が何千回も見た。


ゴブリンキングそのもの。


だったら。


「レベル三十五?」


剣を握り直す。


「だから何だよ」


ゴブリンキングが咆哮する。


二体のジェネラルが。


こちらを向く。


ゴブリン達が。


俺を囲み始める。


背後には。


逃げられない村人。


そして。


遠くから。


アルバートの叫び声。


「レオン様!」


俺は。


口角を上げた。


推奨レベルなんて。


今さらだ。


「攻略法なら」


剣先を。


ゴブリンキングへ向ける。


「知ってるんだよ」


――ただし。


一つだけ。


問題がある。


ゲームのゴブリンキングは。


こんなふうに。


笑わなかった。


目の前のゴブリンキングが。


俺を見て。


確かに。


笑った。


そして。


低い声で。


言った。


「――見つけた」


「……は?」


次の瞬間。


背筋が凍った。


こいつ。


今。


喋った?


《緊急クエストが発生しました》


《??????》


《推奨Lv:測定不能》


「……おい」


待て。


それは。


俺の知らない。


表示だった。

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