↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『序盤で死ぬ最弱悪役に転生したけど、このゲームを一万時間やり込んだ俺には関係ない』  作者: くんくん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/48

第36章 俺の知ってるゲームは、本当に存在したのか


《シナリオ同期率――99%》


その数字は、さっきから一度も動いていない。


止まっている。


いや。


俺たちが、どうにか止めている。


「……カイル!」


「分かってる!」


背後から返事が飛ぶ。


カイルの剣が地面へ突き刺さると、青白い光が床を走った。


《観測者権限による同期処理への干渉を確認》


《進行速度低下》


《現在同期率――99.003%》


「減ってねえじゃねえか!」


「止まってるだけでも奇跡だと思え!」


「それはそう!」


俺は前方へ視線を戻す。


黒い空間の中心。


仮面をつけた《管理代行体》は、もう動かない。


さっきまで俺たちを圧倒していたそいつは膝をつき、その身体の半分以上が光の粒子となって崩れていた。


だが。


問題は、あいつじゃない。


《管理代行体の機能停止を確認》


《代替処理を開始します》


「ほら来た!」


空間全体が震える。


天井も壁もないはずなのに、どこかから低い轟音が響いた。


次の瞬間。


俺の目の前に、無数のウィンドウが開く。


《第七世界》


《シナリオ同期処理》


《基幹記録照合中》


《異常個体検索》


《検索対象――レオン・ヴァルハルト》


「……また俺かよ」


もう驚くのも疲れてきた。


横でリリアが剣を構えたまま顔をしかめる。


「レオンって、本当にどこに行っても面倒事の中心にいるわね」


「好きでやってねえよ」


「知ってる」


即答だった。


エリシアは少し離れたところで、宙に浮かぶ光へ両手を伸ばしている。


その周囲には、俺たちには触れられない透明な文字列が何重にも回っていた。


《新規管理者候補》


エリシアだけが持つ権限。


それを使って、同期処理そのものを止めようとしている。


「お兄様」


「どうした?」


「これ……変です」


「今さら?」


「そういう意味じゃありません!」


怒られた。


エリシアはすぐ真剣な表情へ戻る。


「同期させようとしている記録が……ありません」


「……は?」


カイルが振り返った。


「どういうことだ?」


「第七世界を何かに合わせようとしているのは分かります。でも、その比較元になる記録が……ないんです」


一瞬。


誰も言葉を発しなかった。


俺は眉を寄せる。


「待て。シナリオ同期ってのは、元のゲームのシナリオに世界を合わせるって話じゃなかったのか?」


「俺もそう理解していた」


カイルが答える。


「俺たちが知っているゲーム。それぞれ内容に差異はあったが、少なくとも基準となる何かが存在していると」


「でも、ないんです」


エリシアが首を振った。


「同期先がありません」


嫌な感じがした。


最近そればっかりだ。


常識だと思っていたものが一つひっくり返るたび、その下からさらに面倒なものが出てくる。


俺は崩れかけた管理代行体を見る。


「おい」


反応はない。


「まだ喋れるか?」


沈黙。


「聞こえてるんだろ」


数秒後。


仮面の奥から声がした。


『……質問を確認』


「同期先はどこだ?」


『回答不能』


「権限不足?」


『否』


声が少し乱れる。


『該当情報が……存在しません』


やっぱり。


「じゃあ、何に同期してる?」


『…………』


仮面に亀裂が入った。


『第七世界は――』


ノイズ。


『――記録に従い――』


またノイズ。


『――再現され――』


「だから何の記録だ!」


俺が叫んだ瞬間。


目の前の表示が全部消えた。


そして。


一つだけ。


真っ白なウィンドウが現れる。


《管理者権限による質問を検出》


俺は固まった。


「……管理者?」


カイルも表示を見ている。


「レオン。お前、何もしてないよな?」


「してねえ」


《質問内容を解析》


《同期先についての閲覧要求》


《権限を照合します》


エリシア。


《新規管理者候補》


カイル。


《外部観測者》


俺。


一瞬だけ表示が乱れた。


そして。


《レオン・ヴァルハルト》


《権限――未定義》


《例外処理》


《閲覧を許可します》


「未定義って便利だな、おい」


「便利で済ませていいのかしら……」


リリアの呟きに答える余裕はなかった。


空間が暗転する。


景色が変わった。


そこに映ったのは――


街だった。


見覚えがある。


王都。


だが、今の王都じゃない。


建物の形が少し違う。


道幅も違う。


人の服装も違う。


映像が高速で切り替わっていく。


王都。


エルム村。


死者の森。


アストレア学院。


そして。


見たことのない場所。


次々と映し出される景色の端に、数字が表示される。


《第一世界》


滅びる。


《第二世界》


また滅びる。


《第三世界》


崩壊。


《第四世界》


消滅。


《第五世界》


初期化。


《第六世界》


停止。


そして。


《第七世界》


今の世界。


「七回……」


リリアが呟く。


それ自体は知っている。


問題は。


その先だった。


映像が停止する。


《基幹記録の生成過程を表示します》


「生成……?」


胸の奥がざわついた。


《第一世界の観測記録を取得》


《第二世界へ反映》


《第二世界の観測記録を取得》


《第三世界へ反映》


次々と文字が流れていく。


そして。


《反復により基幹シナリオを形成》


俺は口を開いたまま動けなくなった。


カイルが先に理解する。


「……逆だ」


「え?」


「俺たちが考えていた順番が逆なんだ」


カイルの顔から血の気が引いている。


「ゲームを再現して、この世界が作られたんじゃない」


俺も。


ようやく意味を理解した。


「この世界の記録から……ゲームが作られた?」


《肯定》


システムが答えた。


背筋に冷たいものが走る。


「待てよ」


声が震えた。


「じゃあ俺が元の世界でやってたゲームは……」


《第六世界までの観測記録を変換》


《外部観測用媒体として出力》


「外部観測用……媒体」


ゲーム。


俺たちがゲームだと思っていたもの。


キャラクター。


イベント。


攻略情報。


隠しダンジョン。


レベル。


スキル。


死亡イベント。


全部。


誰かが作った設定じゃなかった。


「……実際に起きたことだったのか」


《一部肯定》


一部?


《外部観測用媒体への変換時、情報の簡略化・再構築・娯楽化処理が実行されています》


カイルが乾いた笑いを漏らした。


「だから俺とお前の知っている内容が違ったのか」


俺のプレイしたゲーム。


カイルのプレイしたゲーム。


微妙に違うイベント。


違う死亡時期。


違う人物関係。


全部バージョン違いなんかじゃない。


違う世界の記録だった。


「じゃあ……」


リリアが小さく言った。


「私たちの人生が、あなたたちの世界ではゲームだったってこと?」


答えられなかった。


「……そうなる」


俺がそう言うと、リリアは少し黙った。


けれど。


怒らなかった。


「なら、レオンが知ってた私も、本当の私じゃないのね」


「たぶん」


「ならいいわ」


「いいのか?」


「今ここにいる私が本物。それだけで十分よ」


強いな、こいつ。


俺だったらもうちょい引きずる。


だが。


そこで俺は、一つのことに気づいた。


「……待て」


俺の知っているゲームは、第六世界までの記録。


そして今は第七世界。


なら。


「ゲーム内のレオン・ヴァルハルトは?」


空気が止まる。


「第六世界までに存在してたんだよな」


正規個体。


俺と同じ顔をした、もう一人のレオン。


そして俺は。


その身体に入った。


墓守に最初に言われた言葉が蘇る。


――その身体は確かにアルヴェインの血を引いている。


――だが、中にいる貴様は誰だ?


「俺が転生したんじゃない」


無意識に声が出た。


「少なくとも、ただの転生じゃない」


《照合要求を確認》


「俺は……誰だ?」


初めて。


真正面から聞いた。


今まで避けていた問い。


転生者。


プレイヤー。


そう思っていれば楽だった。


前世でゲームを知っている俺が、悪役キャラのレオンになった。


それだけの話だと。


でも。


システムはすぐには答えなかった。


《対象情報は最上位機密に指定されています》


「またそれか」


《ただし》


文字が続く。


《現在、第七世界は最終同期段階にあります》


《例外措置として部分開示を実行》


俺は息を止める。


《個体名:レオン・ヴァルハルト》


《肉体情報:第七世界正規個体》


《魂情報:照合中》


長い。


数秒。


十秒。


やがて。


表示が切り替わる。


《一致記録を検出》


俺の心臓が跳ねた。


「……どこと?」


《第一世界》


「は?」


《第二世界》


《第三世界》


《第四世界》


《第五世界》


《第六世界》


文字が次々に増えていく。


「いや……待て待て」


《全世界に同一魂情報を確認》


カイルが息を呑む。


エリシアが俺を見る。


リリアも。


誰も何も言えない。


そして最後に。


《結論》


《あなたは外部世界から侵入した魂ではありません》


頭が真っ白になった。


「……は?」


《あなたは》


文字が一度消える。


《七つの世界すべてに存在した》


《レオン・ヴァルハルト本人です》


音が消えた気がした。


「…………」


意味が分からない。


俺は。


前世の記憶を持っている。


日本で暮らして。


ゲームをして。


死んで。


ここに来た。


それなのに。


「じゃあ……俺が覚えてる人生は何なんだよ」


《回答には上位権限が必要です》


「ふざけんな!」


床を殴る。


「ここまで言ってそこだけ隠すな!」


その瞬間だった。


《警告》


《警告》


《警告》


止まっていた数字が動く。


《シナリオ同期率――99.100%》


「エリシア!」


「抑えています! でも……!」


《99.237%》


《99.401%》


加速している。


カイルが剣を引き抜く。


「情報開示で干渉が弱まった!」


「どれくらい持つ!」


「分からん!」


《99.583%》


《99.721%》


まずい。


百になったら終わる。


何が起こるか完全には分からない。


だが。


あの管理代行体は言った。


最終同期完了後、第七世界は不可逆フェーズへ移行する。


戻せない。


「エリシア!」


「はい!」


「管理者権限で同期を切れ!」


「できません! 同期処理は私より上位の権限です!」


「じゃあ上は誰だ!」


「それを今――!」


エリシアの言葉が止まった。


彼女の目の前に。


新しい表示が出ていた。


《最上位権限を検出》


《接続を開始》


「……お兄様」


「何だ?」


エリシアの顔が青ざめる。


「これ……私じゃありません」


《99.892%》


空間の奥。


何もなかった場所に。


一人の人影が現れた。


銀色の髪。


何度も俺たちの前に現れた女。


八周目。


七回の巻き戻し。


ずっと俺を探していた存在。


だが。


今までと違う。


彼女の頭上には、初めて名前が表示されていた。


《原初管理者》


その下。


《個体名――》


文字が乱れる。


そして。


俺は息を止めた。


そこに表示された名前を見て。


何も考えられなくなった。


《エリシア・ヴァルハルト》


「…………え?」


隣にいるエリシアを見る。


銀髪の女を見る。


もう一度。


表示を見る。


同じ名前。


妹が二人。


銀髪の女がゆっくりとこちらを見た。


そして。


悲しそうに笑う。


「やっと」


その声は。


驚くほどエリシアに似ていた。


「思い出すところまで来たね、お兄ちゃん」


《シナリオ同期率――99.999%》


世界が。


白く染まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。