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『序盤で死ぬ最弱悪役に転生したけど、このゲームを一万時間やり込んだ俺には関係ない』  作者: くんくん


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第33章 管理者なんていらない


目の前に浮かんだ文字を、俺はしばらく無言で見つめていた。


《新規管理者を選択してください》


その下には、三つの名前。


《候補個体》


《レオン・アルヴェイン》


《カイル》


《エリシア・アルヴェイン》


「……やっぱり、こうなるか」


世界の法則を書き換え、第七世界から切り離された新しい世界――第八世界を確立する。


そこまではいい。


問題は、その世界を誰が管理するのか。


これまでの七つの世界には必ず管理者が存在し、その権限を中心として世界そのものが維持されてきた。


そして第七世界では、その役割をエリシアに押しつけようとしていた。


俺が、それを拒否した。


だから第三の選択肢を選んだ。


――世界そのものを作り直す。


「レオン」


隣でカイルが表示を睨んでいる。


「これ、誰か選ばないと進めないってことだよな?」


「普通に考えればな」


「だったら……」


カイルの視線がエリシアへ向く。


だが、言葉にはしなかった。


少なくともこいつも、エリシアを選べばいいとは思っていないらしい。


エリシア本人は黙っていた。


白く広がる世界基幹領域せかいきかんりょういきの中、俺たち三人の周囲には無数の光が漂っている。


その一つ一つが、世界を構成する情報なのだろう。


人間。


魔物。


都市。


歴史。


魔法。


スキル。


そして――死。


俺たちがゲームだと思っていたもの、そのすべてがここでは数字と文字の集合として浮かんでいた。


「兄様」


エリシアが静かに口を開く。


「私を選んでください」


「却下」


即答した。


「……まだ最後まで言ってません」


「聞く必要がない」


「ですが」


「お前を管理者にするために、わざわざここまで来たんじゃない」


エリシアが口を閉じる。


少し不満そうな顔だったが、それ以上は言わなかった。


俺は再び表示を見る。


管理者。


ゲームとして考えれば珍しくもない。


サーバー。


システム。


運営。


世界を正常に動かすための上位存在。


だが、ここはもうゲームじゃない。


少なくとも、俺にとっては。


この世界で生きている人間にとっては、ここが現実だ。


だったら。


「そもそも……なんで必要なんだ?」


「え?」


カイルが振り向く。


俺は表示へ手を伸ばした。


《新規管理者を選択してください》


「なんで世界に管理者が必要なんだ?」


「いや、それは……世界を維持するためだろ」


「それは誰が決めた?」


「……は?」


「今までの七世界がそうだっただけだ」


俺は指先で表示を払う。


消えない。


当然だ。


だが俺の中では、引っかかっていたものが少しずつ形になり始めていた。


この世界は《ECLIPSE ONLINE》を再現して作られた。


だからレベルがある。


スキルがある。


クエストがある。


そして世界を維持するために、管理者が存在する。


全部、元になったゲームの構造を引き継いでいる。


けれど。


俺たちが今やろうとしているのは、その構造から独立することだ。


なのに最後だけ同じ仕組みを使う?


「矛盾してる」


俺が呟くと、カイルの表情が変わった。


「まさかお前……」


「ああ」


俺は笑った。


「第四の選択肢を作る」


「またそれかよ……」


カイルが頭を抱えた。


「お前、本当に用意された選択肢選ばねえな」


「ゲームは攻略するもんだろ」


「これはゲームじゃないって言ったの、お前だぞ」


「だからもっとタチが悪い」


俺は視界を開く。


《ステータス》


《レオン・アルヴェイン》


そして、その奥。


普段なら触れない領域へ意識を伸ばした。


《深淵接続》


今まで何度も俺を助け、同時にこの世界の裏側へ繋いできた力。


正規個体との戦いで得た《境界簒奪》。


世界から異物扱いされながら、それでもここに存在し続けた俺自身の権限。


全部使う。


《警告》


早速、赤い文字が浮かんだ。


《管理領域への不正接続を検知》


「知るか」


さらに進む。


《警告》


《当該領域は管理者権限を必要とします》


「持ってないから取りに来たんだよ」


《アクセス拒否》


視界が赤く染まる。


頭の奥へ鋭い痛みが走った。


「兄様!」


エリシアが俺の腕を掴んだ。


「大丈夫だ」


「ですが……!」


「これくらいならまだ余裕だ」


嘘ではない。


痛いが、耐えられる。


むしろ。


反応した。


つまり、俺の考えは外れていない。


「カイル」


「なんだ」


「お前もやれ」


「は?」


「プレイヤー権限で管理領域に接続しろ」


「いやいや待て待て! 今どう見ても拒否されただろ!」


「一人だからだ」


俺は赤い表示を睨んだ。


この世界に、本来存在しないはずの人間。


俺。


そしてカイル。


同じ《プレイヤー》でありながら、違う形でこの世界へ入り込んだ二人。


一人で足りないなら。


二人でやればいい。


「失敗したら?」


「死ぬかもな」


「軽く言うな!」


「でもやるだろ?」


カイルは俺を睨んだ。


数秒後。


盛大なため息をつく。


「……お前と会ってから、ろくなことがねえ」


「奇遇だな。俺もだ」


「絶対嘘だろ」


そう言いながら、カイルも手を伸ばした。


「エリシア」


「はい」


「お前は何もしなくていい」


だが。


「嫌です」


即答された。


今度は俺が黙る番だった。


エリシアは俺の腕を掴んだまま、まっすぐこちらを見る。


「兄様は、私を管理者にしたくないと仰いました」


「ああ」


「でしたら私は、“管理者にならないために”力を使います」


「……なるほど」


カイルが笑う。


「妹の方が一枚上手だな」


「うるさい」


けれど。


悪くない。


俺たち三人の手が、同時に光へ触れた。


その瞬間。


世界が止まった。


音が消えた。


光が止まった。


時間そのものが固まったかのように、すべてが静止する。


そして。


《複数権限による同時接続を確認》


《プレイヤー権限――二個体》


《管理者バックアップ権限――一個体》


《深淵接続を確認》


《境界権限を確認》


文字が高速で流れる。


《要求内容を解析》


《――管理者未設定状態での世界運用》


《該当構造――存在しません》


「なら作れ」


俺は言った。


《要求を再確認》


《管理者を必要としない世界構造》


「そうだ」


《世界維持主体が存在しません》


「世界自身にやらせろ」


一瞬。


文字が止まった。


カイルが横で目を見開く。


エリシアも何も言わない。


俺は続けた。


「一人に全部の権限を集めるから、そいつが死んだり狂ったりしたら世界が終わるんだろ」


第七世界がそうだった。


いや。


おそらく過去の世界すべてがそうだ。


誰か一人。


何か一つ。


中心を作るから壊れる。


だったら。


「権限を世界全体に分散させろ」


《…………》


「人間も魔物も国も関係ない。この世界に存在するもの全部で、世界を維持する」


カイルが小さく息を呑んだ。


「分散型……管理?」


「管理ですらない」


俺は答える。


「世界が、自分で存在するんだ」


誰かのための箱庭じゃない。


誰かが巻き戻せるゲームでもない。


失敗したから最初から。


気に入らないから削除。


そんなことができない世界。


ここで生きた結果が、そのまま残る世界。


それが現実だ。


長い沈黙のあと。


文字が変わった。


《既存世界構造との一致率――0%》


《過去七世界への該当例――なし》


《ECLIPSE ONLINE基本構造への該当例――なし》


《未知の世界構造です》


俺は笑った。


「上等」


そして。


《新規世界法則として登録しますか?》


その下に、選択肢が現れた。


《YES》


《NO》


「レオン」


カイルが俺を見る。


「これ押したら……本当に戻れないぞ」


「ああ」


過去七世界とも違う。


ゲームとも違う。


何が起こるかは、俺にも分からない。


一万時間以上遊んだ攻略知識も。


攻略サイトも。


検証データも。


ここから先は役に立たない。


だけど。


それでいい。


俺は《YES》へ指を伸ばした。


「攻略情報がないなら」


指先が光に触れる。


「俺たちが最初の攻略組だ」


《承認》


世界が、震えた。


《世界法則再定義――開始》


《管理者依存構造を解除》


《世界維持権限を全存在情報へ分散》


《処理中――》


《10%》


《27%》


《43%》


周囲の空間に亀裂が走る。


《61%》


「兄様!」


《74%》


足元が崩れる。


《86%》


そして。


《99%》


止まった。


「……は?」


《処理停止》


嫌な予感がした。


《世界維持権限の分散に必要な条件が不足しています》


《不足条件――一件》


新しい文字が浮かぶ。


《外部接続個体の処理》


「外部……?」


カイルが呟いた。


俺の視界に、さらに表示が重なる。


《世界内プレイヤー個体数を再検索》


《検索中》


《検索完了》


《プレイヤー個体――》


俺は息を止めた。


《三名》


「……三人?」


俺とカイル。


それで二人。


エリシアは違う。


なら。


三人目は誰だ。


その瞬間。


世界基幹領域の遥か奥。


俺たちが入ってきた方向とは反対側で。


――扉が開いた。


ゆっくりと。


誰かが歩いてくる。


人影。


一人。


そいつは俺たちを見ると、どこか懐かしそうに笑った。


そして。


「やっとここまで来たか」


聞き覚えのない声で。


聞き覚えのある言葉を口にした。


「――レオン・アルヴェイン」


《特殊クエストが発生しました》


《最後のプレイヤー》


俺は、無意識に剣へ手を伸ばした。

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