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『序盤で死ぬ最弱悪役に転生したけど、このゲームを一万時間やり込んだ俺には関係ない』  作者: くんくん


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推奨レベル40? だから何だ

第2章 推奨レベル40? だから何だ


王都を出て、およそ二時間。


馬車が止まった。


「レオン様」


御者台からアルバートの声がする。


「ここから先は、馬車では進めません」


「ん」


俺は窓から顔を出した。


目の前に広がっているのは。


森。


ただし。


普通の森じゃない。


昼間だというのに薄暗い。


黒ずんだ木々が密集し、枝と枝が絡み合って空を覆っている。


奥から吹いてくる風は冷たく。


わずかに。


腐ったような臭いが混じっていた。


《死者の森》。


推奨レベル四十。


初心者プレイヤーが間違って足を踏み入れれば、数分で死ぬ。


俺も初見の頃。


ここで七回死んだ。


「……懐かしいな」


「懐かしい?」


「あ、いや。こっちの話」


馬車から降りる。


革鎧。


鉄剣。


腰には回復薬。


装備だけ見れば、完全に初心者。


そしてレベル七。


アルバートが馬車から降りてきた。


「本当に入られるおつもりですか?」


「ああ」


「今からでもお考え直しを」


「大丈夫だって」


「何を根拠に」


「知識」


「……知識」


明らかに信用していない。


まあ。


当然だ。


ゲーム知識があります。


なんて説明できるわけがない。


「夕方までには戻る」


「もし戻られなかった場合は?」


「助けを呼んで」


「誰を呼べばレベル七の方を死者の森から救出できるのでしょうか」


「……確かに」


じいちゃん。


正論が鋭い。


「とにかく。大丈夫」


剣を抜く。


鉄製の片手剣。


ゲームでは店売りの初期装備。


《アイアンソード》。


攻撃力プラス八。


特別な能力なし。


安い。


弱い。


でも。


今日の目的には十分。


「じゃあ行ってくる」


一歩。


森へ入る。


空気が変わった。


温度が一気に下がる。


音も。


消える。


鳥の声すらしない。


昔。


モニター越しに何度も歩いた道。


しかし。


実際に足を踏み入れると。


全然違った。


「…………」


怖い。


普通に。


めちゃくちゃ怖い。


ゲームなら。


死んでもリスポーンできる。


アイテムを落としても取り返せる。


だが。


今は。


多分。


死んだら終わり。


「……帰ろうかな」


口から本音が出た。


いや。


ダメだ。


ここで逃げたら。


半年後。


確実に死ぬ。


それに。


覚醒条件の一つ。


墓守。


奴はこの森の奥にいる。


「行くしかねえ」


歩き出す。


最初の分岐。


右。


十メートル。


折れた木。


ゲームと同じ。


そこから左。


岩壁沿い。


少し進むと――。


止まる。


来る。


五。


四。


三。


二。


一。


ガサッ。


前方の茂みが揺れた。


出てきたのは。


灰色の毛。


赤い目。


大型犬ほどの魔物。


《グレイウルフ》。


レベル十二前後。


死者の森では最弱クラス。


だが。


俺より五レベル上。


普通に戦えば。


かなり危ない。


グルルルル……。


狼が低く唸る。


「おお……」


実物。


怖っ。


ゲームだとただの序盤雑魚だったのに。


牙。


でか。


「…………」


逃げたい。


でも。


俺は知っている。


グレイウルフの攻撃パターン。


距離六メートル以上。


最初の行動は八割が突進。


残り二割が横移動から飛びかかり。


そして。


突進前。


右前脚がほんの少し沈む。


「……来い」


右前脚。


動いた。


次の瞬間。


狼が地面を蹴った。


速い。


思ったより。


速い!


「うおっ!」


半歩左へ。


狼の牙が。


俺の鼻先を通過する。


ゲームなら余裕で避けられた。


現実だと。


風圧まで感じる。


怖え!


だが。


通り過ぎた狼。


すぐには方向転換できない。


硬直。


約一・二秒。


分かってる。


「そこ!」


剣を振る。


ザシュッ!


刃が。


狼の後ろ脚を切り裂いた。


「ギャンッ!」


声。


血。


生々しい。


一瞬。


手が止まりそうになる。


その瞬間。


狼が振り返った。


まずい。


「っ!」


飛びかかり。


俺は剣を横に構えた。


ガンッ!


衝撃。


腕が痺れる。


「重っ……!」


STR六。


そりゃそうだ。


身体能力じゃ負けている。


狼の爪が革鎧を掠める。


HP。


76。


↓


68。


八ダメージ。


「痛っ!」


ゲームじゃ数字だった。


現実じゃ。


普通に痛い。


「なるほどな……」


これ。


調子に乗ったら死ぬ。


でも。


逆に言えば。


ちゃんとゲーム通りだ。


狼は着地。


次は二連爪撃。


右。


左。


そのあと。


首を狙った噛みつき。


俺は一歩下がる。


右爪。


避ける。


左。


剣で受ける。


そして。


狼が口を開く。


「そこだ」


口の中へ。


剣を突き込んだ。


ザクッ。


一瞬。


狼の身体が硬直。


そのまま。


力が抜ける。


地面に倒れた。


静かになった。


「…………」


俺は。


しばらく動けなかった。


倒した。


生き物を。


初めて。


手に残っている。


肉を切った感触。


「……これが現実か」


ゲームじゃない。


少なくとも。


俺にとっては。


この世界は。


もう。


現実だ。


その瞬間。


視界の端に文字が浮かぶ。


《グレイウルフを討伐しました》


《経験値を獲得》


《格上討伐ボーナス》


《LEVEL UP》


「お」


身体が。


一瞬だけ熱くなる。


ステータスを開く。


――――――――――


LEVEL

7 → 8


未使用ステータスポイント

21 → 24


――――――――――


「一匹で一レベルか」


悪くない。


むしろ。


かなり美味い。


ただ。


当然。


ポイントは。


振らない。


「……三ポイント」


今すぐSTRに振れば。


次から楽になる。


VITでもいい。


AGIに入れれば避けやすい。


でも。


ダメ。


レベル二十まで。


一ポイントたりとも使えない。


「我慢我慢」


画面を閉じる。


さて。


ここから。


本番。


俺が狙っているのは。


グレイウルフなんかじゃない。


さらに森の奥へ。


十分ほど歩く。


敵とは遭遇しない。


正確には。


遭遇しないルートを選んでいる。


右側の道にはスケルトン兵。


左の沼地にはポイズンスライム。


正面にはオーガ巡回。


全部。


覚えている。


そして。


ある地点で立ち止まった。


大きな岩。


倒れた枯れ木。


その先に。


狭い谷。


「……あった」


ゲームと同じ。


ここ。


通称。


《初心者殺しの谷》。


名前だけ聞けば。


絶対近寄っちゃいけない場所。


でも。


廃人にとっては。


低レベル育成の聖地だった。


理由は。


地形。


俺は谷の上へ登る。


岩陰から下を見る。


いた。


巨大な猪。


黒い皮膚。


口から伸びる二本の牙。


肩までの高さだけで。


俺の胸くらいある。


《アイアンボア》。


レベル。


二十八。


「……デカすぎだろ」


画面で見るのと違いすぎる。


普通に車くらいある。


あんなのに突進されたら。


人間。


死ぬ。


だが。


アイアンボアには。


致命的な弱点がある。


頭が悪い。


とにかく。


真っ直ぐ突進する。


そして。


一度標的を決めると。


ほぼ進路変更しない。


さらに。


この谷には。


天然の罠がある。


俺は周囲を確認する。


巨大な枯れ木。


根元。


腐っている。


その下。


急斜面。


そして。


斜面の先には。


鋭い岩。


「そのまんまだ」


ニヤける。


いける。


俺は岩を拾った。


アイアンボアへ投げる。


コツン。


頭に当たった。


「ブォ?」


こっちを見る。


赤い目。


「おーい」


もう一個。


投げる。


コツン。


「ブオオオオオッ!」


怒った。


地面を蹴る。


ドドドドドドッ!


「やっば!」


知ってても怖い。


巨大な猪が全速力で突っ込んでくる。


でも。


逃げない。


まだ。


まだ。


あと。


三メートル。


二。


一。


「今!」


横へ飛ぶ。


アイアンボアが。


俺の真横を通過。


そして。


腐った枯れ木へ激突。


バキィッ!


巨大な木が折れる。


猪の身体が。


勢いそのまま斜面へ。


「ブオオオッ!?」


転がる。


その先。


岩。


ドガァン!


地響き。


土煙。


俺は斜面の上から覗き込む。


「……生きてる?」


動いている。


さすが。


レベル二十八。


だが。


脚が折れている。


腹部には岩が刺さっている。


HP。


残りわずか。


ここからが重要。


環境ダメージだけで死なせると。


経験値が減る。


だから。


最後は。


俺が。


殺す。


斜面を降りる。


アイアンボアが。


こちらを見る。


まだ。


牙を鳴らす。


「悪いな」


剣を握る。


知っている。


アイアンボア。


弱点部位。


右目。


その奥。


脳。


「俺も生きたいんだ」


剣を。


突き刺す。


深く。


アイアンボアの身体が。


大きく跳ねた。


そして。


動かなくなった。


《アイアンボアを討伐しました》


《大幅格上討伐を確認》


《戦闘参加率を確認》


《地形利用ボーナス》


《経験値を獲得》


《LEVEL UP》


《LEVEL UP》


《LEVEL UP》


「……来た!」


身体が。


一気に熱くなる。


今度は。


さっきより明らかに強い感覚。


ステータス。


――――――――――


LEVEL

8 → 11


HP

76 → 94


MP

21 → 29


未使用ステータスポイント

24 → 33


――――――――――


「三レベル!」


これだよ。


これ。


レベル八が。


レベル二十八を倒したんだ。


これくらい上がってくれないと困る。


しかも。


ベース能力も少しずつ自然成長している。


ポイントは別。


つまり。


レベルを上げるだけでも。


ほんの少しは強くなる。


「あと九」


レベル二十まで。


残り九。


いける。


このペースなら。


思ったより早い。


ただし。


同じアイアンボアを何度も狩っても。


格上補正は徐々に弱くなる。


それに。


この世界がゲームと完全に同じ保証はない。


欲張るな。


今日の目的は。


レベル上げだけじゃない。


墓守。


俺はアイアンボアの死骸から。


牙を一本だけ切り取った。


換金素材。


ゲームではそこそこ高い。


現実でも売れるだろう。


「……金になるものは拾っとこう」


悪役貴族。


金には困ってないけど。


ゲーマーの習性だ。


ドロップ品を置いていくと。


なんか。


負けた気がする。


◇


そこから。


さらに森の奥へ。


グレイウルフ二体。


スケルトン一体。


全部。


戦える場所だけ選んで倒した。


ステータス。


――――――――――


LEVEL

13


未使用ステータスポイント

39


――――――――――


「上出来」


半日で。


七から十三。


ゲーム時代でも。


かなり早い。


そして。


ここから先は。


空気が変わる。


木々が。


さらに黒い。


地面には。


ところどころ墓石が見える。


誰のものか分からない。


文字も消えている。


そして。


俺は。


一本の細い道へ入った。


「ここだ……」


覚えている。


死者の森。


北西部。


《忘れられた墓地》。


ゲーム本編では。


小さな墓があるだけ。


調べても。


《誰かの墓だ》


それだけ。


しかし。


データ解析で判明した。


ゲーム開始前。


ここには。


一人のNPCがいた。


墓守。


名前なし。


レベル不明。


所属不明。


何のイベントに使われる予定だったのか。


最後まで。


分からなかった。


でも。


レオンの未使用データと。


このNPC。


そして始まりの地下墓地。


三つに。


同じ識別コードが残っていた。


だから。


俺たちは。


推測した。


全部。


繋がっている。


「頼むぞ……」


まだ。


生きていてくれ。


墓地へ足を踏み入れる。


人影。


あった。


墓石の前。


一人の老人が。


座っている。


黒い外套。


ボロボロの杖。


真っ白な長い髪。


「……いた」


心臓が跳ねる。


成功。


第二条件。


これで。


進められる。


俺が。


一歩踏み出した。


その瞬間。


「止まれ」


老人が言った。


低い声。


俺は足を止める。


老人は。


ゆっくり。


こちらを振り返った。


左目は。


潰れていた。


右目だけが。


俺を見る。


いや。


違う。


俺の。


もっと奥を。


見ているような。


そんな目。


老人が。


眉を寄せる。


そして。


言った。


「妙だな」


「……何が?」


老人は。


しばらく。


俺を見つめ。


やがて。


静かに呟いた。


「その身体は確かにアルヴェインの血を引いている」


背筋が。


冷える。


老人が続ける。


「だが」


右目が。


細くなる。


「――中にいる貴様は、誰だ?」


俺は。


何も。


答えられなかった。

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