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『序盤で死ぬ最弱悪役に転生したけど、このゲームを一万時間やり込んだ俺には関係ない』  作者: くんくん


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シナリオは、待ってくれない

第15章 シナリオは、待ってくれない


黒狼団の襲撃から、三日が経った。


アルヴェイン邸は。


まだ、ところどころ壊れている。


庭の石畳は割れ。


正門の脇には、ガルムの大剣で抉られた跡が残っている。


屋根も一部吹き飛んだ。


主に。


俺のせいで。


「……修理代、いくらになるんだろ」


窓から庭を見下ろしながら呟く。


「レオン様が気にされることではございません」


背後から即答が返ってきた。


振り向く。


アルバートが紅茶を置いていた。


いつも通り。


完璧な姿勢。


完璧な執事服。


黒狼団十数人を一人で叩きのめした男には、とても見えない。


「いや、俺が壁ぶっ壊したところもあるんだけど」


「必要経費かと」


「庭の木を三本折ったのも?」


「必要経費です」


「噴水を半壊させたのも?」


「必要経費でございます」


「……便利だな。その言葉」


「ええ」


アルバートは真顔だった。


こいつ。


絶対ちょっと面白がってる。


俺は紅茶を一口飲む。


そして。


机の上に置かれた紙へ視線を落とした。


黒狼団。


全員捕縛。


団長、副団長を含む主要構成員も生存。


王都騎士団への引き渡し済み。


アルヴェイン家側の死者――ゼロ。


使用人の軽傷者が数名。


それだけ。


本来なら。


あり得ない結果だった。


《黒狼の夜》。


ゲームでは。


レオン・アルヴェインという悪役貴族が、完全に壊れるきっかけとなるイベント。


屋敷は襲撃され。


多くの使用人が殺され。


そして――


妹。


エリシア・アルヴェインが。


連れ去られる。


その後。


レオンは彼女を取り戻すために暴走し。


間違った相手を憎み。


間違った人間を殺し。


最終的には。


主人公カイルと敵対する。


それが。


ゲームでのレオンの道だった。


だが。


今回は違う。


エリシアは無事。


黒狼団は壊滅。


《黒狼の夜》は。


消えた。


俺は。


一つの死亡フラグを。


完全に潰した。


――はずだった。


「……」


なのに。


全然。


安心できない。


理由は簡単だ。


この世界。


もう。


俺の知っている《ECLIPSE ONLINE》じゃない。


ゴブリンキングは予定より早く現れた。


リリアの蒼炎も早すぎた。


《始まりの地下墓地》には存在しない場所があった。


《第七世界》。


《観測継続》。


《世界補正》。


《深淵接続》。


そして。


俺と同じ肉体情報を持つ。


もう一人の存在。


さらに。


カイル。


あいつも。


俺と同じ。


この世界を“ゲーム”として知っている。


そして――


あの男。


俺の。


この世界では一度も口にしていない名前を知っていた。


前世。


ゲームをしていた頃の。


俺の名前を。


「……プレイヤーは、俺一人じゃない」


口に出す。


不思議な感覚だった。


転生して。


最初は。


俺だけだと思っていた。


俺だけが。


この世界の未来を知っている。


だから。


ゲーム知識を使えば、生き残れる。


そう思っていた。


でも違う。


カイルもいる。


あの男もいる。


それどころか。


《複数の外部記憶保持個体を検出》。


あの表示が正しいなら。


三人だけとは限らない。


「面倒くせぇ……」


思わず頭を抱える。


未来を知ってるやつが。


複数。


しかも。


全員が同じ行動をするとは限らない。


誰か一人がイベントを変えれば。


その影響で。


別のイベントが変わる。


ゲーム知識の価値が。


どんどん下がっていく。


「レオン様」


「ん?」


アルバートを見る。


「先ほどから、随分と難しいお顔をされております」


「……ちょっとな」


「黒狼団の件でしょうか」


「それもある」


本当は。


それだけじゃない。


だが。


説明できない。


異世界転生しました。


ここはゲームの世界です。


主人公も転生者でした。


あと謎のプレイヤーもいます。


なんて。


どう説明しろってんだ。


アルバートは。


しばらく俺を見る。


そして。


「でしたら、一つだけ」


「ん?」


「今のお悩みが、三日考えても答えの出ないものであれば」


少しだけ。


口元を緩める。


「一度、別の問題を片付けることをお勧めいたします」


「別の問題?」


「はい」


アルバートが。


机の端に置かれていた封筒を持ち上げた。


「こちらを」


嫌な予感がした。


すごく。


嫌な予感がした。


封筒は。


白。


中央には。


金色の紋章。


剣。


王冠。


翼。


「……それ」


「はい」


知ってる。


その紋章。


嫌というほど。


知ってる。


王家。


アストレア王国王室の紋章。


アルバートが。


封筒を俺の前に置いた。


「王城より、正式な召喚状が届いております」


「……」


俺は。


しばらく。


封筒を見つめた。


「開けなくてもいい?」


「いけません」


「燃やすとか」


「国家反逆罪に問われる可能性がございます」


「事故でなくす」


「私が控えを保管しております」


「完璧だな、お前」


「執事ですので」


仕方なく。


封を切る。


中の書状を開く。


そして。


読む。


一行。


二行。


三行。


「……は?」


思わず声が出た。


もう一度読む。


内容は。


簡単だった。


アルヴェイン家嫡男。


レオン・アルヴェイン。


先のエルム村における魔物襲撃事件。


並びに。


アルヴェイン領内で発生した黒狼団襲撃事件。


その功績及び。


戦闘能力を鑑み。


王命により――


「王立アストレア学院への……特別編入?」


「はい」


アルバートが答える。


いや。


待て。


おかしい。


学院?


王立アストレア学院。


もちろん知っている。


というか。


むしろ。


《ECLIPSE ONLINE》の本編が。


本格的に始まる場所だ。


貴族。


騎士。


魔術師。


冒険者候補。


国内外から才能ある若者が集められる。


三年間の。


育成機関。


そして。


主人公。


カイル・アストレア。


炎帝。


リリア・フェルノート。


聖女。


セレスティア。


剣姫。


ユフィリア。


ゲームの主要キャラクターたちが。


集結する場所。


つまり。


メインシナリオの。


舞台。


だが。


「早い」


「はい?」


「いや……」


早すぎる。


ゲームでは。


レオンが学院へ入るのは。


もっと後だ。


少なくとも。


黒狼団襲撃から。


こんなすぐじゃない。


俺は書状を読み進める。


そして。


さらに。


嫌な文章を見つけた。


「……推薦者」


小さく呟く。


アルバートが。


「何か?」


俺は。


そこを指差した。


王立アストレア学院。


特別編入推薦者。


そこに。


書かれていた名前。


「カイル・アストレア」


思わず。


天井を見る。


「あいつ……」


やりやがった。


間違いなく。


あいつだ。


俺を。


引っ張り出しやがった。


「カイル殿下直々の推薦とは」


アルバートは。


少し驚いたようだった。


「これは大変な名誉でございます」


「俺にとっては大迷惑だよ……」


「レオン様」


「分かってるって」


王族からの推薦。


王命による特別編入。


断れるわけがない。


だが。


問題は。


それだけじゃない。


カイル。


あいつが。


どういうつもりなのか。


まだ分からない。


同じプレイヤー。


同じ。


ゲーム知識保持者。


でも。


あいつが俺と。


同じ考えとは限らない。


それに。


あの男。


あいつも。


学院に関係してくる可能性がある。


いや。


むしろ。


このタイミングなら。


かなり高い。


俺は。


書状を机に置く。


その瞬間。


コンコン。


扉が叩かれた。


「兄様?」


エリシアの声。


「入っていいぞ」


扉が開く。


金色の髪。


青い瞳。


まだ少し。


包帯が巻かれた手。


黒狼団に襲われた時の傷だ。


軽傷とはいえ。


完全には治っていない。


エリシアは。


俺の顔を見て。


次に。


机の上の封筒を見る。


「……王家の紋章?」


「ああ」


「何かあったのですか?」


「学院に行けってさ」


「学院?」


一瞬。


エリシアの顔が明るくなる。


「王立アストレア学院ですか?」


「それ以外にあるか?」


「すごいです!」


「……そうか?」


「もちろんです!」


うれしそうだ。


まあ。


普通はそうだよな。


国内最高峰。


貴族なら。


憧れるやつも多い。


「兄様なら、きっと首席になれます!」


「いや無理」


「どうしてですか?」


「魔法使えないから」


そう。


俺。


INT。


四。


未だに。


四。


ステータスを振った後も。


完全放置。


魔法関係。


絶望的。


「剣術があります!」


「学院には化け物がいっぱいいる」


「兄様よりですか?」


「……」


俺は。


答えなかった。


いる。


リリア。


カイル。


ユフィリア。


セレスティア。


本編開始時点ですら。


明らかにおかしいやつら。


そこに。


俺。


アビスウォーカー。


そして。


他のプレイヤー。


嫌な予感しかしない。


エリシアが。


机の上の書状を見ながら。


小さく笑った。


「でも」


「ん?」


「少し安心しました」


「何が?」


「最近の兄様」


エリシアが。


こちらを見る。


「ずっと、何かと戦っているようなお顔をしていたので」


「……」


「だから」


微笑む。


「学院で、普通の学生みたいな生活もしてほしいです」


その言葉に。


俺は。


少しだけ。


返事に詰まった。


普通。


か。


俺は。


この世界に来てから。


ずっと。


死なないことばかり考えていた。


レベルを上げる。


イベントを潰す。


強くなる。


未来を変える。


それだけ。


でも。


俺は。


レオン・アルヴェインとして。


ここで。


生きてる。


ゲームのキャラじゃない。


データでもない。


だったら。


普通の生活ってやつも。


少しくらい。


あっていいのかもしれない。


「……そうだな」


俺が答えると。


エリシアは。


嬉しそうに笑った。


その瞬間。


視界の端に。


青白い光が浮かんだ。


――来た。


《システム通知》


エリシアには。


見えていない。


アルバートにも。


見えていない。


俺だけ。


《メインシナリオの進行を確認》


《シナリオ同期率を再計算します》


「……」


嫌な予感。


《同期率:38%》


数字が。


点滅する。


《同期率:41%》


《47%》


《56%》


「は?」


上がっていく。


《61%》


《67%》


そして。


止まった。


《現在シナリオ同期率:72%》


「七十二……?」


思わず。


声に出た。


急に上がりすぎだ。


何が。


起きた?


続けて。


新しい表示。


《主要登場人物の集結を確認》


《カイル・アストレア》


《リリア・フェルノート》


《レオン・アルヴェイン》


三人。


そして。


四人目。


文字が。


乱れた。


《■■■■■■■■》


「……?」


ノイズ。


さらに。


五人目。


《■■■■■■》


六人目。


《解析不能》


背中に。


冷たいものが走った。


やっぱり。


いる。


まだ。


いる。


《メインシナリオ第二幕》


《王立アストレア学院編》


《開始条件を満たしました》


俺は。


目を見開く。


待て。


第二幕?


おかしい。


ゲームなら。


学院編は。


第一幕だ。


俺の知る《ECLIPSE ONLINE》は。


ここから始まる。


じゃあ。


第一幕って。


何だ?


ゴブリンキング?


地下墓地?


黒狼団?


違う。


そんなもの。


ゲーム本編には。


存在しない。


そして。


最後。


赤い文字。


《観測者権限によりシナリオを修正》


《対象:レオン・アルヴェイン》


《優先観測対象へ変更》


……は?


次の瞬間。


文字が消えた。


「兄様?」


エリシアが。


不思議そうに俺を見る。


「どうされました?」


「……いや」


俺は。


ゆっくり。


窓の外を見る。


空は。


青い。


穏やかな。


昼。


なのに。


俺には。


その向こう側から。


何かに見られているような感覚がした。


ゲームは。


俺の知っている未来から。


どんどんズレている。


それでも。


シナリオは進む。


いや。


違う。


進んでいるんじゃない。


誰かが。


進めている。


俺は。


王家から届いた書状を。


もう一度掴んだ。


三日後。


王立アストレア学院。


ゲーム本編の舞台。


主人公。


ヒロイン。


プレイヤー。


そして。


正体不明の。


“観測者”。


全部。


そこに集まる。


「……いいだろ」


俺は。


小さく笑う。


逃げたところで。


どうせ。


追ってくる。


なら。


「行ってやるよ」


俺の知っているシナリオが。


もう使えないっていうなら。


その場で。


全部。


攻略し直せばいい。


《第二幕》


《王立アストレア学院編》


――開幕。

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