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『序盤で死ぬ最弱悪役に転生したけど、このゲームを一万時間やり込んだ俺には関係ない』  作者: くんくん


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黒幕は、まだ生きている

第14章 黒幕は、まだ生きている


屋敷が静かになったのは。


空が白み始めた頃だった。


「……ひでえな」


俺は。


半壊した屋敷を見上げた。


窓は割れ。


壁には斬撃の跡。


庭はえぐれ。


正門なんか。


もう門の役割を果たしていない。


昨夜まで。


一応。


貴族の屋敷だったんだけどな。


「申し訳ございません」


隣に立つアルバートが頭を下げる。


「私がいながら、このような――」


「いや」


俺は手を振った。


「全員生きてる。それで十分だ」


使用人たちに死者はいない。


負傷者はいるが。


命に関わるほどじゃない。


リリアも無事。


アルバートも無事。


そして。


エリシアも。


無事だった。


なら。


屋敷くらい。


いくらでも直せる。


「……それに」


俺は。


庭に残る。


巨大な亀裂を見る。


あれ。


俺がやったんだよな。


《破砕撃》。


威力。


明らかにおかしいだろ。


ゲームじゃ。


序盤の便利スキルくらいだったはずなんだけど。


《深淵適応》の補正か。


それとも。


《アビスウォーカー》そのものが。


ゲームとは違うのか。


「レオン様」


アルバートが声を落とした。


「少々、お見せしたい物がございます」


「ん?」


アルバートについていく。


庭の隅。


黒狼団の死体が並べられていた。


さすがに。


気分のいい光景じゃない。


だが。


アルバートが見せたかったのは。


死体そのものではなかった。


「これです」


「……腕?」


黒狼団員の左腕。


そこに。


黒く焼け焦げた跡がある。


丸い刻印。


いや。


違う。


元々。


何かが刻まれていたものを。


焼いて消したような跡だ。


「全員に?」


「確認できる者には、すべて」


俺はしゃがみ込む。


そして。


刻印に意識を向けた。


《解析》。


視界に。


文字が浮かぶ。


――――――――――


《契約刻印:破損》


分類:隷属系魔術


術式構造:不明


契約者:解析不能


対象者の死亡により機能停止。


一部術式に既知情報との不一致を確認。


――――――――――


「……は?」


隷属?


黒狼団が?


ゲームの黒狼団は。


ただの盗賊系犯罪組織だ。


金で動くし。


貴族に雇われることもある。


だが。


奴隷じゃない。


少なくとも。


こんな刻印を付けられていた設定なんて。


知らない。


しかも。


《既知情報との不一致》。


まただ。


この世界に来てから。


何度見た?


墓守。


ゴブリンキング。


エリシア。


アビスウォーカー。


そして。


この刻印。


ゲーム知識が。


少しずつ役に立たなくなっている。


「ガルムにもあったのか?」


「はい」


アルバートが頷いた。


「ただし」


一瞬。


表情が険しくなる。


「副団長ガルムの刻印だけ、形状が異なっておりました」


「見せて」


案内された先。


ガルムの死体。


昨夜。


俺が倒した。


レベル三十八。


本来なら。


今の時期に戦うような相手じゃない。


その左腕を見る。


「……これ」


他の団員とは違う。


焼き潰されていない。


黒い狼。


その口の中に。


鍵のような紋章。


嫌な予感がした。


《解析》。


――――――――――


《????の契約刻印》


階級:上位契約者


契約状態:解除済み


契約者:――――


警告。


閲覧権限が不足しています。


――――――――――


「また権限かよ……」


思わず。


声が漏れる。


だが。


その瞬間。


表示が。


変わった。


――――――――――


《特殊条件を確認》


固有能力《深淵適応》


固有能力《簒奪解析》


対象情報への干渉を開始します。


――――――――――


「え」


待て。


そんな使い方。


できんの?


黒い文字が。


歪む。


ノイズ。


そして。


一瞬だけ。


別の情報が見えた。


――――――――――


契約者識別名――


《NO DATA》


接続元――


《第七世界外部》


目的――


《世界外データ回収》


対象個体――


《エリシア・アルヴェイン》


――――――――――


ぞくり。


背筋が冷えた。


「……世界外データ」


エリシアを解析した時と。


同じだ。


《存在しません》


《世界外データ》


黒狼団は。


偶然。


エリシアを狙ったんじゃない。


最初から。


知っていた。


この世界に。


本来存在しない。


エリシアのことを。


「誰が……」


誰が知っている?


俺ですら。


知らなかった存在だぞ。


俺は。


このゲームを。


何百時間も遊んだ。


設定資料も。


攻略サイトも。


イベントも。


隠し要素も。


相当調べた。


それでも。


エリシアなんて名前は。


一度も見たことがない。


なのに。


奴らは。


知っていた。


「お兄様?」


後ろから。


小さな声。


振り返る。


寝間着の上に。


薄い上着を羽織ったエリシアが立っていた。


「エリシア」


「……こんなところで、何を?」


「いや」


俺は立ち上がる。


「ちょっと調べ物」


エリシアの視線が。


地面の死体へ向く。


慌てて。


俺は前に出た。


「見るな」


「でも――」


「見なくていい」


俺は。


エリシアの頭に手を置いた。


ほんの少し。


震えている。


当然だ。


昨日。


自分を攫うために。


大勢の人間が押し入ってきたんだ。


怖くないわけがない。


「もう大丈夫だ」


言いながら。


自分でも分かっていた。


違う。


終わってない。


むしろ。


始まった。


黒狼団は。


駒だ。


あいつらを動かした。


何かがいる。


そして。


そいつは。


エリシアの正体を知っている。


「……お兄様」


「ん?」


「昨日」


エリシアが。


俺の服を掴む。


「変な夢を見たんです」


「夢?」


「はい」


嫌な予感。


「どんな?」


エリシアは。


少し考えて。


言った。


「お兄様が」


一瞬。


言葉に詰まる。


「……死んでいました」


「…………」


風が。


止まった気がした。


「どこで?」


「分かりません」


「誰に殺された?」


「それも……」


エリシアが。


首を振る。


だが。


次の言葉で。


心臓が跳ねた。


「でも」


エリシアは。


俺を見上げる。


「もう一人」


「お兄様がいました」


「……は?」


頭の中に。


黒剣の表示が蘇る。


《同一肉体情報を持つ個体:現在数2》


《正規個体:生存》


地下墓地で見た。


俺と。


同じ顔の男。


――偽物。


そう呼ばれた。


あいつ。


なのか?


「エリシア」


「はい」


「その夢の中で」


喉が。


妙に乾く。


「もう一人の俺は、何をしてた?」


エリシアは。


しばらく黙っていた。


やがて。


小さく。


答えた。


「笑っていました」


ぞわ。


背筋に。


冷たいものが走る。


その時。


――カツ。


靴音。


門の方。


アルバートが。


瞬時に剣へ手をかけた。


「何者だ」


「待ってくれ」


聞き覚えのある声。


壊れた門の向こうから。


一人の少年が歩いてくる。


剣。


旅装。


そして。


妙に真っ直ぐな目。


「……お前」


カイル・アストレア。


ゲーム本来の。


主人公。


本来なら。


俺とは。


まだまともに関わらないはずの男。


カイルは。


庭の惨状を見て。


眉をひそめた。


「派手にやったな」


「誰のせいだと思ってんだ」


「俺じゃないだろ」


「分かってる」


アルバートが。


俺を見る。


「お知り合いで?」


「一応」


「一応ってなんだよ」


無視。


「何しに来た」


俺が聞くと。


カイルの表情から。


ふざけた空気が消えた。


「確認しに来た」


「何を」


カイルの視線が。


エリシアへ向く。


ほんの一瞬。


その目が。


見開かれた。


そして。


「……やっぱり」


呟いた。


俺は。


その言葉を聞き逃さなかった。


「やっぱり?」


カイルが黙る。


「お前」


俺は。


一歩。


前に出る。


「エリシアを知ってるのか?」


「…………」


「答えろ」


カイルは。


しばらく。


俺を見る。


そして。


大きく息を吐いた。


「レオン」


「なんだ」


「その前に」


カイルは。


周囲を見る。


アルバート。


エリシア。


少し離れた場所には。


リリアも来ている。


「二人で話せないか」


「内容による」


「たぶん」


カイルの声が低くなる。


「この世界の話だ」


沈黙。


俺は。


アルバートを見る。


「少し外す」


「しかし――」


「大丈夫」


アルバートは。


納得していない顔だったが。


最後には頷いた。


「……承知しました」


エリシアたちが離れる。


庭に。


俺とカイルだけが残る。


「で?」


俺は腕を組む。


「何を知ってる」


カイルは。


すぐには答えなかった。


やがて。


口を開く。


「昨日」


「俺にもクエストが出た」


「クエスト?」


「ああ」


カイルが言う。


「黒狼団襲撃と同時に」


嫌な予感。


「内容は?」


カイルは。


俺の目を見た。


「《エリシア・アルヴェインを回収せよ》」


「――っ」


俺の手が。


反射的に。


剣へ伸びる。


「待て」


カイルが両手を上げる。


「だから来たんだ」


「どういう意味だ」


「俺は受けてない」


「……」


「というか」


カイルが。


自嘲気味に笑った。


「受けられなかった」


「何?」


「選択肢が」


カイルは。


言った。


「一つしかなかった」


《拒否する》。


「……なんだそれ」


「俺が聞きたい」


カイルは。


懐から。


何かを取り出した。


小さな。


黒い欠片。


俺は。


それを知っている。


ガルムの腕に刻まれていた。


あの。


鍵の紋章。


「これが」


カイルは言う。


「クエストが消えたあと、足元に落ちてた」


俺は。


欠片を見る。


《解析》。


――――――――――


《境界鍵・欠片》


分類:特殊イベントアイテム


所有者:未登録


使用条件:???


接続先:???


警告。


本アイテムは世界内部データではありません。


――――――――――


「……マジかよ」


また。


世界の外。


そして。


次の瞬間。


視界いっぱいに。


赤い文字が走った。


――――――――――


《警告》


《世界境界に干渉を確認》


――――――――――


「は?」


カイルも。


同時に顔を上げた。


見えてる。


こいつにも。


――――――――――


《深淵接続率:12.8%》


《シナリオ同期率:41%》


《外部観測者を検出》


――――――――――


観測者?


誰だ。


――――――――――


《対象照合中》


《個体:レオン・アルヴェイン》


《魂情報:不一致》


《肉体情報:一致》


――――――――――


知ってる。


これは。


地下墓地で見た。


そして。


次。


――――――――――


《正規個体との距離を測定》


――――――――――


「……おい」


距離?


まさか。


――――――――――


《測定完了》


《正規個体:生存》


《現在距離――》


《2,814m》


――――――――――


「…………は?」


近い。


近すぎる。


王都の中だ。


いや。


この距離なら。


下手すれば。


同じ区画。


俺は。


反射的に周囲を見る。


屋根。


通り。


遠くに見える。


王城。


そして。


表示が。


もう一度。


切り替わった。


――――――――――


《正規個体が移動を開始しました》


――――――――――


数字が。


減る。


2814。


2802。


2789。


2771。


「……こっちに」


来てる。


俺と。


同じ顔をした。


本物の。


レオン・アルヴェインが。


こっちに。


向かってきている。


カイルが。


剣を握る。


「レオン」


「ああ」


俺も。


剣へ手をかけた。


その瞬間。


最後の表示が浮かんだ。


――――――――――


《特殊イベントが発生しました》


《正規個体との接触》


推奨レベル――


《測定不能》


――――――――――


俺は。


思わず。


笑った。


「また測定不能かよ」


二千七百メートル。


数字は。


まだ。


減り続けていた。

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