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『序盤で死ぬ最弱悪役に転生したけど、このゲームを一万時間やり込んだ俺には関係ない』  作者: くんくん


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死亡フラグは、先に潰す

第12章 死亡フラグは、先に潰す


「――レオン様!」


リリアの声で、意識が現実に戻った。


目の前。


短剣。


俺の喉元まで、あと数センチ。


「っ!」


身体を横へ投げる。


銀色の刃が頬を掠めた。


遅れて、一本の髪が宙を舞う。


危な。


普通に危なかった。


「戦闘中によそ見とは、余裕だなぁ?」


黒い革鎧。


狼を模した仮面。


《黒狼団》。


屋敷の中庭には、すでに十人以上の団員が入り込んでいた。


正門側からは剣戟の音。


アルバートが戦っている。


反対側では、リリアが蒼い炎を展開し、使用人たちを守っていた。


そして。


屋敷の階段の前。


銀色の髪を揺らしながら、細身の剣を構える少女。


エリシア・アルヴェイン。


十七歳。


俺の。


――妹。


いや。


だから。


誰だよ。


本当に。


ゲームのレオン・アルヴェインに妹なんかいなかった。


少なくとも。


俺が一万二千時間以上遊んだ《ECLIPSE ONLINE》には。


「お兄様!」


エリシアが叫ぶ。


「今は前を!」


「分かってる!」


妹に怒られた。


初対面なのに。


いや、向こうからすれば初対面じゃないんだろうけど。


頭が追いつかない。


だが。


それは後だ。


今は。


もっと分かりやすい問題がある。


俺を殺しに来た連中。


《黒狼団》。


ゲームでは、レオン・アルヴェインの死亡イベントに関わる盗賊組織だ。


本来なら。


こいつらが現れるのは――


半年後。


だった。


**********


《深淵解析》


視界が切り替わる。


敵の情報が淡い光となって浮かぶ。


《黒狼団・暗殺兵 Lv.16》


《黒狼団・暗殺兵 Lv.18》


《黒狼団・斥候 Lv.15》


《黒狼団・剣士 Lv.19》


……なるほど。


雑魚は問題ない。


問題は。


一番奥。


屋敷の塀の上に立っている男。


他の連中とは明らかに装備が違う。


黒い外套。


巨大な片刃剣。


そして。


狼の頭蓋骨を模した仮面。


《黒狼団団長》


《Lv.28》


「二十八か」


俺は呟いた。


以前なら。


絶望する数字だった。


だが。


今の俺はレベル二十。


しかも。


ただのレベル二十じゃない。


《アビスウォーカー》。


そして。


ステータスポイントは、もう使った。


STR 21。


VIT 22。


AGI 25。


DEX 16。


ゲーム序盤としては。


十分に化け物だ。


団長が塀から飛び降りる。


どんっ!


石畳が砕けた。


「レオン・アルヴェイン」


低い声。


「依頼だ。死んでもらう」


「依頼主は?」


「知る必要はない」


「だよな」


ゲームでもそうだった。


黒狼団は。


依頼主を明かさない。


そしてレオンは。


何も知らないまま殺された。


画面外で。


あっさりと。


プレイヤーが次にレオンを見るとき。


そこにあるのは死体だけ。


その程度のキャラクターだった。


俺は剣を構える。


「でもまあ」


団長を見る。


「一応、聞いてみただけだ」


「……?」


「どうせお前ら」


一歩。


前へ出る。


「今日でなくなるから」


空気が変わった。


団長の姿が消える。


速い。


右。


知ってる。


こいつの初撃は。


右上からの袈裟斬り。


ゲームでは黒狼団討伐クエストで何百回も見た。


半歩下がる。


ぶんっ!


巨大な刃が目の前を通過した。


そして。


二撃目。


左薙ぎ。


しゃがむ。


三撃目。


突き。


「《境界歩行》」


視界が歪む。


俺の身体が。


一瞬だけ世界から外れる。


剣が。


胸を通過した。


「な――」


団長の動きが止まった。


その背後。


俺はすでに立っている。


「悪いな」


剣を振る。


「その技、知ってる」


斬撃。


団長の背中から血が噴き出した。


「ぐっ……!」


浅い。


さすがレベル二十八。


一撃じゃ無理か。


団長が振り返りながら刃を振るう。


受けない。


AGIで避ける。


今の俺なら。


見える。


いや。


それだけじゃない。


《深淵解析》が。


敵の動きを。


少しずつ分解している。


踏み込み。


肩。


腰。


重心。


次に何をするか。


情報が積み重なっていく。


《解析率 18%》


《解析率 24%》


《解析率 31%》


団長が吼えた。


「調子に乗るなぁっ!」


巨大な剣が黒い光を纏う。


来た。


《黒狼牙》。


団長の必殺技。


まともに受ければ。


今の俺でも死ぬ。


だから。


受けない。


「リリア!」


「はい!」


俺の声に。


リリアが即座に反応した。


遠くから。


蒼い炎が飛んでくる。


団長の視線が一瞬だけ逸れた。


それで十分。


「《残響模倣》」


右手。


蒼い火が灯る。


本物には。


まだ遠い。


解析率三%。


模倣できるのは、ごく一部。


それでも。


使い方次第だ。


俺は蒼炎を。


団長ではなく。


足元へ叩きつけた。


ぼっ!


「なっ!?」


蒼い炎が爆ぜる。


視界が塞がる。


団長の踏み込みが止まった。


必殺技が。


崩れる。


「お前の負けだ」


煙の中。


懐へ。


一歩。


剣を。


振り抜いた。


ざんっ!


団長の巨大な剣が。


宙を舞った。


続けて。


柄頭を腹へ叩き込む。


「がっ――」


膝が落ちる。


俺は首筋へ剣を突きつけた。


「終わりだ」


**********


団長が倒れると。


残った黒狼団は早かった。


逃げた。


いや。


逃げようとした。


「一人も逃がすな」


アルバートの声。


怖っ。


数分後。


中庭には。


黒狼団の団員がきれいに並べられていた。


全員。


縄付きで。


「……殺してないよな?」


「尋問が必要ですので」


アルバートが涼しい顔で答える。


その足元で。


団員の一人が白目を剥いている。


尋問前に死なない?


大丈夫?


「レオン様!」


「ん?」


振り返る。


リリアが走ってきた。


「お怪我は!?」


「頬だけ」


「見せてください!」


「いや、これくらい――」


「駄目です!」


近い近い。


顔が近い。


リリアが俺の頬を確認していると。


「……お兄様」


背後。


ものすごく静かな声。


振り返る。


エリシアが立っていた。


笑顔で。


「そちらの方は?」


「あ」


そういえば。


初対面か。


「リリア。エルム村の――」


「リリアと申します!」


リリアが慌てて頭を下げる。


「レオン様には命を救っていただきまして、その、ご一緒させていただいています!」


「ご一緒」


エリシアが。


その言葉だけ拾った。


「はい!」


「そうですか」


にこっ。


笑ってる。


笑ってるんだけど。


なんだろう。


ちょっと怖い。


「……レオン様」


今度はリリアが小声で聞く。


「こちらの方は?」


「妹」


「え?」


分かる。


その反応。


俺も同じだから。


「エリシア。俺の妹……らしい」


「らしい!?」


「お兄様?」


「いや何でもない」


危ない。


また変なこと言った。


俺は咳払いして。


倒れている黒狼団を見る。


とりあえず。


今はこっちだ。


そして。


その瞬間。


目の前に。


文字が浮かんだ。


《特殊イベントを達成しました》


……ん?


《死亡イベント》


《『黒狼の夜』》


《発生条件が消失しました》


俺は。


息を止めた。


死亡イベント。


黒狼の夜。


それは。


俺が知っている。


レオン・アルヴェインが死ぬイベントの名前。


本来なら。


半年後。


黒狼団の襲撃を受け。


レオンは死亡する。


そして。


物語から退場する。


だが。


《イベント対象組織の壊滅を確認》


《主要実行者の無力化を確認》


文字が。


続く。


《イベント進行不能》


《死亡フラグを削除します》


「……は」


思わず。


声が漏れた。


削除。


消えた。


半年後。


俺を殺すはずだった未来が。


なくなった。


完全に。


「レオン様?」


リリアが俺を見る。


「どうされました?」


「いや」


俺は。


空を見上げた。


転生してから。


ずっと頭のどこかにあった。


半年。


たった半年。


それまでに。


死なない方法を探さなきゃいけない。


そう思っていた。


死者の森へ行った。


レベルを上げた。


墓守に会った。


地下墓地へ潜った。


アビスウォーカーになった。


世界がおかしいことも知った。


ゲームに存在しない妹まで出てきた。


それでも。


一つだけ。


確かなことがある。


俺は。


ゲーム通りには死ななかった。


「……よし」


拳を握る。


死亡フラグ。


一本目。


破壊。


だったら。


この先も同じだ。


ゲームのシナリオ?


知るか。


世界補正?


勝手にしろ。


観測者?


知らん。


俺は。


俺が生き残るために。


全部ぶっ壊す。


「お兄様」


エリシアが俺を見ている。


「随分と……変わられましたね」


「そうか?」


「はい」


少しだけ。


寂しそうに。


でも。


嬉しそうに。


彼女は笑った。


「以前のお兄様なら、自分から誰かを守るために戦ったりはしませんでした」


「……」


やっぱり。


そうか。


エリシアは。


俺になる前のレオンを知っている。


ゲームにはいない。


なのに。


この世界にはいる。


聞きたいことは。


山ほどある。


本当のレオン。


正規個体。


二人のレオン。


第七世界。


観測者。


そして。


エリシア。


だが。


今日は。


もういい。


少しくらい。


勝った気分に浸っても。


罰は当たらないだろ。


そう思った。


そのときだった。


「――へぇ」


知らない声。


屋敷の屋根の上。


俺たちは一斉に振り返った。


男がいた。


いつから。


そこにいた?


分からない。


黒い外套。


年齢は二十代くらい。


腰には細身の剣。


そして。


見覚えのない顔。


《深淵解析》


反射的に発動する。


《解析不能》


「……は?」


初めてだった。


レベルすら。


見えない。


アルバートが剣を抜く。


「何者だ!」


男は答えない。


ただ。


俺を見ていた。


そして。


笑った。


「いやぁ」


「まさか本当にいるとは思わなかった」


背中に。


冷たいものが走る。


男は。


ある名前を口にした。


それは。


レオン・アルヴェインという名前じゃない。


この世界で。


俺が一度も名乗ったことのない名前。


前世で。


《ECLIPSE ONLINE》を遊んでいた頃。


俺が使っていた。


プレイヤーネーム。


「――」


思考が。


止まった。


なんで。


なんでこいつが。


それを知ってる。


男の笑みが。


深くなる。


そして。


言った。


「やっぱりお前も――」


「“プレイヤー”か」


――第12章 終

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