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『序盤で死ぬ最弱悪役に転生したけど、このゲームを一万時間やり込んだ俺には関係ない』  作者: くんくん


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主人公まで予定より早いんだけど

第10章 主人公まで予定より早いんだけど


地下墓地を出た瞬間。


俺は。


ものすごく。


嫌な予感がした。


「……明るい」


「外なんだから当然でしょ?」


隣でリリアが呆れたように言う。


違う。


そういう意味じゃない。


地下墓地の中に何時間いた?


感覚では二時間か、三時間。


入ったのは昼前だった。


なら今は、せいぜい夕方。


のはずなのだが。


空は。


真っ赤だった。


太陽が沈みかけている。


「……そんなに時間経ってたか?」


「何言ってるの?」


リリアが首を傾げた。


「地下に入ったの、朝だったじゃない」


「は?」


「え?」


見つめ合う。


待て。


俺の記憶では。


エルム村を出たのが午前。


地下墓地に着いたのが昼前。


間違いない。


いや。


ゲーム知識とかじゃない。


普通に今日の記憶だ。


「リリア」


「なに?」


「俺たち、地下に何時間いた?」


「七時間くらいじゃない?」


「……マジ?」


「なんで私に聞くのよ」


七時間。


体感の倍以上。


俺は背後を振り返った。


《始まりの地下墓地》。


古びた石造りの入口。


さっきまで。


あの奥には。


ゲームには存在しなかった場所があった。


《第七世界》


《観測継続》


《深淵接続率》


そして。


俺と同じ肉体情報を持つ。


もう一人の存在。


《正規個体:生存》


考えたいことは山ほどある。


だが。


今は。


「ステータス」


半透明のウィンドウを開く。


――――――――――


名前:レオン・アルヴェイン


Lv:20


職業:アビスウォーカー


HP:1840


MP:1260


STR:78


VIT:72


AGI:91


INT:68


DEX:83


LUK:21


未使用SP:60


――――――――――


「…………」


いや。


強くない?


俺。


めちゃくちゃ強くない?


もちろん。


レベル二十として見ればだ。


ゲーム終盤からすれば雑魚である。


だが。


問題はそこじゃない。


普通。


レベル二十の前衛職なら。


主能力が五十前後。


特化型でも六十程度。


それが。


転職しただけで。


全体的におかしい。


特にAGI九十一。


「……バグってない?」


「何が?」


リリアが横から覗き込んできた。


「近い近い近い」


「見せなさいよ」


「嫌だよ」


「なんで?」


「男には見せられないステータスがある」


「意味分かんない」


俺はウィンドウを閉じた。


問題は数値だけではない。


職業欄を意識する。


すぐに別の表示が開いた。


――――――――――


《アビスウォーカー》


深淵を歩み、境界を越える者。


固有能力


《深淵適応》


未知属性・未知環境に対する適応補正。


解析成功率上昇。


状態異常耐性上昇。


《簒奪解析》


交戦した対象の技術・能力・魔力構造を解析する。


一定条件達成時、一部能力の再現が可能。


※完全再現不可


※対象との能力差により効率変動


※解析には実戦経験を必要とする


《境界歩行》


――現在使用不能――


解放条件を満たしていません。


――――――――――


「やっぱりこれか……」


《簒奪解析》。


ゲームのアビスウォーカーに。


こんな能力はなかった。


そもそも。


俺の知っている《アビスウォーカー》は。


高機動型の特殊剣士だ。


闇属性攻撃。


短距離転移。


特殊回避。


そういう。


いかにも隠し職らしい性能だった。


敵の能力を解析?


再現?


知らん。


完全に知らん。


「なに?」


「いや……」


俺はリリアを見る。


蒼い髪。


赤い瞳。


そして。


ゲーム本編では。


最上位火属性魔法使いになる少女。


《炎帝》リリア。


……いや。


待てよ?


交戦した相手。


能力を解析。


一定条件で再現。


俺。


ゴブリンキングとも戦ったよな?


意識を向ける。


すると。


視界の端に。


新しいウィンドウが浮かんだ。


――――――――――


解析履歴


《グレイウルフ》


解析率:42%


《アイアンボア》


解析率:31%


《ゴブリンジェネラル》


解析率:58%


《ゴブリンキング》


解析率:71%


《????》


解析率:12%


――――――――――


「……あるじゃん」


「何が?」


ある。


ゴブリンキング。


七十一パーセント。


俺は項目を開く。


――――――――――


解析可能技術


《剛腕》


《威圧》


《破砕撃》


《王種強化》


――――――――――


そのうち。


《破砕撃》だけが淡く光っていた。


――――――――――


《破砕撃》


武器に瞬間的な魔力と筋力を集中させ、防御を破壊する。


再現可能。


習得しますか?


YES/NO


――――――――――


「…………」


いやいや。


ちょっと待て。


SPは?


習得ポイントは?


金は?


クエストは?


素材は?


ないの?


俺。


戦えば。


敵の技。


覚えられるの?


「悪役が持っていい能力じゃねぇだろ……」


「また一人で何か言ってる」


「気にするな」


「気になるんだけど」


俺は。


YESを押した。


――――――――――


《破砕撃》を習得しました。


――――――――――


身体の奥に。


何かが。


落ちてきた。


知識。


いや。


感覚。


足の踏み込み。


腰の捻り。


肩から腕。


武器へ力を流すタイミング。


知っている。


一度も使ったことがないのに。


使い方が分かる。


「……怖っ」


「レオン?」


「ちょっと離れて」


「は?」


近くに。


ちょうどいい岩がある。


高さ一メートルほど。


俺は。


地下墓地で拾った鉄剣を握った。


構える。


息を吐く。


踏み込む。


剣へ。


力を集中させる。


「《破砕撃》」


ズンッ!


鈍い音。


次の瞬間。


岩の中央に亀裂が走った。


バキン!


真っ二つ。


「…………」


「…………」


沈黙。


リリアが。


割れた岩を見る。


次に。


俺を見る。


また岩を見る。


「……ノービスじゃなかったの?」


「転職した」


「いつ?」


「さっき」


「何に?」


「秘密」


「なんでよ!」


言えるか。


《アビスウォーカー》なんて。


ゲームでも。


存在を知る人間自体ほとんどいなかった職業だぞ。


というか。


この世界で。


その名前を誰が知っているのかすら分からない。


下手に喋れば。


どこから情報が漏れるか。


「とりあえず帰るぞ」


「誤魔化した!」


「日が暮れる」


「誤魔化した!」


「晩飯」


「……帰る」


勝った。


食欲に。


俺たちは街道へ向かった。


アルバートとは。


地下墓地から少し離れた場所で待ち合わせている。


馬車まで戻れば。


今日は終わり。


そのはずだった。


だが。


森を抜けて。


街道へ出た瞬間。


俺は足を止めた。


「……嘘だろ」


そこに。


少年がいた。


歳は。


俺より少し下。


十七。


いや。


十八くらい。


茶色の髪。


腰には。


使い込まれた片手剣。


身につけているのは。


旅人用の安い革装備。


どこにでもいそうな。


冒険者志望の少年。


だが。


俺は知っている。


その顔を。


見間違えるはずがない。


ゲーム《ECLIPSE ONLINE》。


パッケージ。


公式サイト。


オープニングムービー。


そして。


プレイヤーが最初に操作する。


物語の中心人物。


《勇者候補》。


カイル・アストレア。


本来。


レオン・アルヴェインが死ぬ。


その事件をきっかけに。


王都へ向かう男。


つまり。


俺が。


半年後に。


初めて出会うはずの。


ゲームの主人公。


「なんで……」


早い。


早すぎる。


半年どころじゃない。


まだ。


物語は。


始まってすらいない。


少年。


カイルが。


こちらを見る。


そして。


なぜか。


明らかに驚いた顔をした。


「…………」


俺も止まる。


カイルも止まる。


リリアだけが。


何も分からず俺たちを交互に見る。


「知り合い?」


「いや」


即答する。


知り合いなわけがない。


今日が。


初対面だ。


そのはずだ。


なのに。


カイルの顔は。


明らかに。


俺を知っている人間の顔だった。


「……レオン?」


「っ」


背筋が冷えた。


リリアが振り返る。


「知り合いじゃないの?」


「いや」


俺は。


カイルを見る。


「なんで俺の名前を知ってる?」


カイルの表情が。


変わった。


驚き。


困惑。


そして。


警戒。


ゆっくり。


剣の柄へ。


右手を伸ばす。


「……やっぱり」


「何がだ」


「生きてる」


ぞわっ。


皮膚が粟立つ。


何だ。


その言い方。


まるで。


俺が。


死ぬことを。


知っていたみたいじゃないか。


「カイル」


思わず。


名前が出た。


今度は。


向こうが固まった。


「あ……」


しまった。


カイルが。


俺を見る。


完全に。


お互い同じ顔だ。


お前。


なんで。


俺を知っている?


そんな顔。


最悪だ。


一番。


やってはいけないやつ。


沈黙。


夕暮れの街道。


風が吹く。


そして。


カイルが。


低い声で言った。


「……なんで」


剣を。


半分。


鞘から抜く。


「俺の名前を知ってる?」


俺は。


自分の口元が。


引きつるのを感じた。


いや。


待て。


これ。


まさか。


お前まで。


――――――――――


《世界補正対象を確認》


《対象個体との接触を検知》


《シナリオ同期率:38%》


《警告》


《複数の外部記憶保持個体を検出しました》


――――――――――


「…………は?」


カイルの目が。


見開かれる。


つまり。


こいつにも。


見えている。


俺と。


カイル。


二人同時に。


同じウィンドウを見上げた。


そして。


ほぼ同時に。


口を開く。


「「お前――」」


一瞬。


間が空いた。


「「プレイヤーか?」」


――最悪だ。


主人公まで。


転生者だった。

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