第8話
モヤモヤする。
4ヶ月を見込んでいたトンネル掘りが結果的に3ヶ月足らずで終わったことは嬉しい。
でもモヤモヤするのよ。
だってさ、半分以上私が自力で掘ったんだよ?
トンネル工事はもう一生分した気がする。
これはもう自分にご褒美をあげるしかないな。
そうだ、これから作る施設は私の希望を優先してもらおう。
はい決定!文句は言わせない。
その決意を胸に、私は開通翌日の会議に臨んだ。
みんなで決めた計画では、最初の施設として牧場側に小さな地下街を作ることになっている。
イメージとしてはビルの地下に数店舗並んでるやつ。
この世界基準じゃなく、現代日本のクオリティー。
オープン時に一発度肝を抜いてやる予定だ。
当初私が考えていたのはシェルター用のだだっ広い空間で、農場側に直販所がちょこっと付属しているという感じだったのだが、みんなの意見を取り入れた結果そういう形になった。
私が子供の頃にした話をソフィーが思い出して、「ニホンの地下街の話を聞いたことがある」って言って、リクエストに応じて梅田地下街の様子を話したら、全員の目がギラついたのだ。
特に引きこもり少女ノーラ。
「明るくて、お店があって、雨に濡れないで歩けるの?」
「うん。外の天気に関係なく快適なんだよ」
「それがいい! それだったら外に出てもいい!」
「せっかく作るんだったら、あたしもそっちのほうがいいねえ」
「すばらしいです!」
女性陣2名も賛成。デレックさんは流れに身を任せる。
思い出した。あの地下街は「梅田ダンジョン」って呼ばれていたんだった。
でも、本物のダンジョンはこっちの方。異世界だけど、なんかパチモンに負けるのは癪な気がしてきた。
そうよね、どうせ王都は壊滅するんだから今さら気を遣う必要もないか。
よっしゃ。この際徹底的にやろう!
――となって、時代設定を無視した地下街にすることが決まったのだ。
計画では初期の店舗数は5つ。
でも私はそのうちの3つを潰して大浴場を作ることを要求した。
後付けだけど理由もちゃんと考えた。
テキトー中世の『選べよ』ではお風呂の扱いもいい加減だ。
家に浴槽はある。街中にはテルマエっぽいのも存在する。
王城の大浴場では、王子ととりまきのひとりが唐突にBLっぽく見つめあうシーンもあった。キモかった。
でもなぜか宿では桶にお湯を汲んで体を拭く形だった。
そしてそれは、この世界の現実に反映されている。
だから旅行者が臭いんだよ!
なぜ誰も疑問に思わないのか謎だけど、チャンスなのは間違いない。
王都の手前で旅の汚れを落とすというのは、絶対に需要があると思う。
そこに牧場の牛乳とか果実水とか出せば完璧だ。
社長、これは儲かりまっせ!
私は力説し、その変更プランを通した。
農場直売所以外の入居候補が見つかっていないという状況も後押しになった。
すぐにでも作りはじめたいところだけど、ここからの担当はノーラ。
約束を守って休みなしに頑張ってくれたので、数日お休みをとってもらった。
もちろんご褒美もある。
「何がいい?」って訊いたら、「コアに魔力を入れてください!」って食い気味にお願いされた。
気の済むまでスライムを召喚したいそうだ。
マーガレットさんの許可を取って満タンにした。
「あと一色、あと一色で全部揃うの!」
「出るといいね。今日だけは魔力全部つかっていいからね」
休み明け、ノーラはしょぼんとしていた。
知ってる。最後のひとつって気合入れると絶対に出ないのよね。
慰めながら建物構築に入る。
拡張作業をするコア部屋は、現場を直接見られるように、トンネル開通の日に農場側に移動させてある。
私は、準備しておいた建物のイメージ図を広げる。全体図と拡大図。
ノーラはダンマス初心者の上に日本の建物を知らないので 、絵がないと説明できないからだ。
私は人物画は壊滅的だけど、建物の絵ならそこそこちゃんと描ける。
ギルドの講習に半年通った。Bランクとはそういうことだ。
まずは簡単そうな直売所から。
モデルは前世の家の近くにあった青果店だ。
洞窟のままじゃマズいので、壁と床はとりあず白にする。
間口を広く取り、手前には野菜を並べる平台を間口いっぱいに置ける造りだ。
奥はストックスペースと隅っこの方を壁で囲んだ小部屋。乳製品を置く低温室になる。
店番と会計用に、中央に長方形の一段高いスペースを作って全体を見渡せるようにした。
図を指さしながら説明し、ノーラとイメージを共有してゆく。
「できそう?」
「うん。やってみる」
「失敗してもいいから、ひとつずつゆっくりとね」
「わかった」
絵を見ながら、緊張した表情でノーラが私には見えない操作盤に触れる。
私はコア部屋の扉から顔を出して、ゆっくりと拡がってゆく壁を見る。
いい感じ。
「ストップ。ちょっと見てみよっか」
手を止めてノーラが扉の外を確認し、目を輝かせる。
「すごい! 白くなった! お家ができてる!」
「すごいよね。ノーラが作ったんだよ?」
「お姉ちゃん、これ面白い!」
「でしょ?」
ものづくりはね、ガチャより楽しいんだよ。
やっと建築の楽しさに気付きはじめたノーラは、何度も確認しながら無事に直売所の建物部分を作り終えた。
白一色で3Dプリンタで作ったような感じだけど、細かい部分は後からどうとでもなる。
初作品としては満点の出来だと思う。
「できたー!」
部屋を飛び出していったノーラは、そのまま農場の母屋に入ろうとして見えない壁に阻まれ、結局ダンジョン出口から大声でマーガレットさんを呼んだ。
やってきたマーガレットさんの手を引っ張り、初作品の前に連れてくる。
もちろん盛大に褒められ、夜に仕事や授業を終えてやってきたデレックさんとソフィーにも絶賛され、ノーラのダンジョン構築へのモチベは一気に上がった。
翌日の午前中に入居者未定のもう一つのお店の枠組とトイレを作り終え、そのままの勢いで大浴場作りに取りかかった。
トイレはもちろん水洗。浄化槽に送ってダンジョンに吸収させる。
コアの操作のコツがわかったのか、どんどん上手になる。
私の魔法の何倍ものスピードで建物が出来上がってゆくのは、奇跡を見ているみたいだ。
お風呂場は結局男女別にしたので、希望した「大浴場」にはならなかった。
同時入浴15人の中浴場ってところかな。それでも十分広いんだけど。
ノーラがまだ細かな装飾とかは出来ないので、シンプルな四角形。男女共に同じ作りだ。
シャワーも難しいので、その替わりに壁際にお湯が流れる水路を作り、そこから桶で洗い湯を汲む形にした。
出来上がったらすぐに、残った魔力で女湯だけにお湯を張る。
「じゃあノーラ、行くよ?
せーのっ!」
私たちは手をつないで正真正銘の一番風呂に飛び込んだ。
ノーラのキャラキャラはしゃぐ声が、真っ白な浴室に幾重にも反響した。




