表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死亡フラグを回避して、元悪役令嬢は今日も穴掘り  作者: 膝関節の痛み
第2章 梅田の地下街をダンジョンと言うなら異世界のダンジョンが地下街でも良くない?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/29

第7話

「お姉ちゃーん、なんかね、コアの魔力なくなっちゃった」


 ダンマス部屋で、色とりどりの眷属スライムをつつきながらノーラが言う。


「え? 昨日満タンにしたよね?拡張進んでないのにどうして?」

「金色のスライムが出なかったからいっぱい創ったの」

「課金ガチャやめようね!」

「ガチャ?」

「なんでもない!」


 私は人選をミスったのかもしれない。


 ノーラは体が弱くて動けなかったんじゃなかった。

 そもそも動くのも働くのも嫌いだったのだ。


 確かにそんなことは言ってたけど、まさかここまでガチだとは思わなかった。

 最適環境を手に入れて素質が完全に覚醒してしまった感じだ。


「いらない子はコアに返したんだけど、全然魔力が戻らないの」

「言ったでしょ? スライムはコアに再吸収させても1割しか魔力が戻らないって」

「あ、そうだった! えへへ」


 うん、とってもかわいい。

 でもね、かわいいだけじゃダメなの。

 せめて私が頑張って注いだ魔力を片っ端から溶かすのだけはやめてほしい。

 現状、ガチャ回さない分だけスライムの方がマシかもしんない。


 ああ。前世のバイト先の横山さん。今ならあなたの気持ちがよくわかるよ。

 息子さん、ちゃんと就職できましたか?


 こんなはずじゃなかった。


 ダンマスが決まって、1ヶ月間じっくりとみんなで構想を練って、自宅の地下室にダンジョンを造って、それから2ヶ月。


 ある程度形になったら一般の人も呼び込みたい。ただ、マンガの登場人物に知られるのは避けたいので、対象は貴族以外にしたい。

 その一方で、王都が戦場になった時にはシェルターとして機能させたい。

 さらに準備ができるまでは存在自体を秘密にしたい。


 ダンジョンは亜空間だから、本来なら地上の距離は関係ない。

 でも、条件を満たそうとするなら王都から少し離れた入口がもうひとつ必要になるのだ。

 そしてその入口の場所は、広大な私有地を持つホプキンス農場となる。


 自宅地下と農場をつなぐダンジョンという名のただのトンネル。

 それが会議で決まった第一弾の構造物だった。


 想定距離6キロ。長くはあるけど、空間を延ばすだけなので難しくはない。

 実際、ノーラは初日で20m掘ったので、一日の想定延伸距離を50mとした。

 2ヵ月経過した今頃は、中間地点あたりまで拡張できているはずだった。

 でも進んだのは1キロ弱。

 もちろんノーラが悪いんだけど、そうなった原因は最初に私が甘やかしたせいだ。

 だって、かわいいんだもん。リンドブール伯爵似の実弟とは全然違う。


 ただ、そろそろちゃんと軌道修正しとかないとまずい。

 そして私は、ボーントゥビーニートを洗濯する自信がない。

 ということで、ここはみんなにガツンと言ってもらうことにした。


 ホプキンス夫妻にはもうここがダンジョンだと打ち明けてあるので突っ込んだ話ができる。

 夫妻が王都に納品に来るタイミングで、ソフィーにも自宅に来てもらった。

 地下に降りる前に現状を報告し、ノーラへの集団指導をお願いする。


「ごめんなさいねえ。叱るのは親の責任なのに。

 うん、あたしに任せて!」

「私も言うべきことは言います!」

 

 マーガレットさんとソフィーが頼もしい。

 ニコニコしてるデレックさんと甘い私は基本相槌担当ということで。


 地下に降りて配置につく。

 ノーラの正面にメインのマーガレットさん。ソフィーが右で私が左、デレックさんが後だ。

 さあニートよ。サラウンドお説教を堪能するがいい。


 マーガレットさんが腕組みをしてノーラを見つめる。

 何も言わずただ見つめる。

 スライムが膝の上から逃げ出し、部屋の隅で固まる。

 ノーラもだんだんと縮こまり、うつむいて動かなくなる。


「……ごめんなさい」

「何がごめんなさいなんだい?」

「……魔力を無駄遣いしてごめんなさい」

「そこはわかってるんだね。じゃあ、ノーラはどうすればいいんだい?」

「……お仕事がんばる……」

「言ったね? 言ったからにはちゃんとやるんだよ?」


 突然背後からデレックさんの低音念押し。そりゃビクッとなるって。

 ノーラが半べそでこくこく頷く。


「約束だからね。

 これはね、エリーお姉ちゃんが命がけで逃げ出してここまで作った計画なんだよ?

 引き受けたっていうことは、ノーラも命がけでやんなくちゃいけないの。

 できないんだったら、お母さんがそこのコアを壊すからね」

「はい……」


 声を荒らげないのにお説教の内容がものすごく怖い。驚きの洗浄効果だ。

 なるほど、達人はこうやって叱るのか。


「じゃあ、現状確認をします」


 ソフィーがキュッと丸眼鏡を上げて話を引き継ぐ。

 アシスタントの私は手書きの計画図をテーブルに広げた。


「目標はここ、ホプキンス農場の地下まで繋げること。距離にして約6キロだね。

 計画通りなら4ヶ月で開通できる予定だった。でも2ヶ月経った今、まだ1キロも進んでいません。

 ノーラちゃん、どうしてでしょう?」

「……スライムを創りすぎました」

「はい、正解です。ではこれからはどうしたらいいでしょう?」

「……スライムを創りすぎません」

「ノーラ、それは不正解だな」


 実質「まだ作ります」宣言に、デレックさんがやんわりと釘を刺す。


 ソフィーが手帳を開く。


「先ほどみんなで相談して決まりごとを作りました。

 ノーラちゃんにはこれを守ってもらいます」


 読み上げる。


「1.ノーラちゃんは毎日50m以上トンネルを延ばします。

 2.50mを達成した日だけ、スライムを1匹だしてもいいです。

 3.これを破ったら次の日はごはん抜きで、スライムを創るのも禁止します。マーガレットさんにも報告して叱ってもらいます」

 

 ダンマスは食べなくても死なないので虐待ではない。

 ソフィーはそこで手帳を閉じ、私を見ながら続ける。


「ここからは先ほど私が考えた追加の決まりです。

 4.エリーは魔力の補充をしてはいけません。私がやります。一応水魔法が使えるので、スライム1回分だけなら魔力を注げます。あとは自然回復に任せます」

「え?でも、それだと時間がかかりすぎない?」


 慌てて口を出す私に、ソフィーはニコッと笑った。

 

「いえ、計算では自然回復分だけで50mは進められます。

 でも確かに、それでは遅れを取り戻すことはできません。

 そこで私は画期的な方法を考えました」

「おお! さすがソフィー!」

「ありがとうエリー。では、掘削作業をよろしくお願いします!」

「……え?」

「エリーも、トンネルを、掘るの。得意でしょ?」


 何を言ってんだこの内弁慶メガネっ娘は。


「いや、でもダンジョンの中は魔法で掘れないでしょ」

「やってみようか」


 ……できてしまった。

 私の魔力でコアを育てたせいか、むしろ普段よりやりやすい。


「じゃあ決まりだね」


 とソフィーが手帳にスラスラと書き込む。


「1日のノルマはノーラちゃんが50m、エリーが120m。

 うん。合計170m進むから、残り5キロとして30日以内に完成する計算ね」

「なんか私だけ増えてない?」

「魔力の通りがいいんでしょ?」

「そうだけど、私の方が重労働だよね?」

「あれ? 出来ないの?Bランクのプロなのに?」

「くっ……」


 そう言われちゃ職人として引き下がれないじゃないか!


 約束を守って徐々に腕を上げたノーラと、逆ギレして残業をぶち込んだ私によって、トンネルは23日後にホプキンス農場の地下10mに到達した。


 まっすぐにしか掘れないので、標高差のせいで深くなってしまったが、ともかくできた。

 最後に斜めに階段を掘って、農場の母屋と繋がった時には泣きそうになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ