第6話
「ねえソフィー、帝国が攻めてくるっていう話って覚えてる?」
私は今日の本題を切り出した。
「うん、もちろん」
「そんでね、やっと自由になれたから、そろそろその対策に動こうと思うんだよね」
「避難所を作るんだっけ?」
「そうそう、それ。
王城を攻めた後で街を狙うかもしれないでしょ?
私が無事生き残れたら話すつもりで、実は準備だけは進めていたんだ」
「まあ、カティ、じゃなくてエリーのことだから何かやってるだろうとは思ってたけど、やっと教えてくれるわけね」
「うん。
というわけでこれ」
私は空間収納から計画のキーアイテムを取り出しテーブルに置いた。
布に包んだ白くて丸い石だ。サイズは大人の拳より少し大きいくらい。うっすら発光している。
「これは?」
「ダンジョンコア」
「え?」
さすがに驚くよね。
「いいでしょ。本物だよ?」
ソフィが身を乗り出す。
「……触っても大丈夫?」
「いいよ。危なくないから」
ソフィーがおずおずと手を伸ばしてコアに触れる。
「うわっ!」
慌てて手を引っ込めるけどもう遅いんだな。
「何これ、文字が出てるんだけど!」
私には見えないけど、視線からソフィーの目の前に何かがあることがわかる。
「コアからのメッセージだね。
読んでみて。あ、読むだけね。触っちゃダメ」
「えと、『ダンジョン生成にはダンジョンマスターの登録が必要です。あなたをダンジョンマスターとして登録しますか?はい/いいえ』」
「<いいえ>にタッチして。
あ、ダンジョンマスターになりたいなら<はい>でもいいけど」
ソフィーはブルブルと首を振って、中空のメッセージに指を伸ばした。
「消えた……」
「うん。
そういうわけで、ダンジョンを作ってそこを避難所にしようと思う」
「……ちゃんと説明して。
なんでこんなものを持ってるの? あとダンジョンマスターって何? それになるとどうなるの?」
ちゃんと説明した。
ダンジョンコアを見つけたのは偶然だ。
4年前、解体工事の瓦礫を捨てるときに見つけた。
真ん丸で珍しいから売れるかもしれないと思い、磨いて露天の鑑定師に見てもらった。
鑑定もせず見ただけで「死んだダンジョンコアだな」って鼻で笑われて、色が悪いからって買い取ってもらえなかった。
鑑定料だけ取られた。高くはなかったけどムカついたことを覚えている。
悔しいので何か起こるかもって時々魔力を送っていたら、ある日突然魔力を吸収はじめた。
死んだんじゃなくて眠ってたわけだ。
学園の図書館で調べたら、ごく稀にそういうこともあるらしい。
あの鑑定士でよかった。ちゃんとした鑑定士なら見破ったと思うから。
「そこから育てたのよ」
「育てた?」
「うん。毎日魔力を送って磨いてたら、こんな美人さんになったの。
もう我が子みたいなものね」
「そう……」
なにその呆れた視線は?
共感が得られないので、先に進む。
図書館で調べたところによると、過去にも何人かダンマスになった冒険者が存在したらしい。
で、ダンマスになるとコアを壊されない限り死ななくなって、その代わりにダンジョンから出れなくなるとのことだ。
別の国の話では、次期エースと期待された若い冒険者が好奇心からダンマスになってしまい、その後の冒険者人生を棒に振った例もあるそうだ。
その後、そのダンジョンは彼のパーティーメンバーだった男に攻略されたんだって。
かわいそすぎる。
つまり、今私がダンマスになるのは無理なのだ。
ダンジョンシェルター化計画のためには、外で動かなきゃいけないからね。
「……じゃあ誰かにダンジョンマスターになってもらわなきゃなんだね」
「そういうことだね」
「そんな人いる?」
「ふふふ。いるんだなこれが。
まだ話してないけど、ぴったりな友達がいるのよ」
「あ、職人のおじさんだ!」
「違いますう!」
確かにおっさん友達がほとんどだけど、ちゃんと女の子もいるんだからね。
「で、明日その子のところに行く予定。
ソフィーも来る?」
「行きたいけど、明日は学園」
「あ、そか。ソフィーは死んでないもんね」
「そういう冗談はやめた方がいいと思います」
「あ、はい」
翌日、私は王都の北にあるその友達の家に向かった。
王都から離れるにつれて空気が変わる。土と草の匂いが強くなる。
ホプキンス家。5年前に牛舎の建築工事を請け負った農場である。
家族全員が人懐っこくて真っ直ぐで、当時9歳の私にすごく優しくしてくれた。
奥さんのマーガレットさんは、孤児設定を話すと「王都のお母さんだと思ってくれていいからね」と涙くんで抱きしめてくれた。
設定だけど私も泣いてしまった。
実際ネグレクトされて孤児みたいなものだったので、お母さんみたいに接してもらえたのがほんとに嬉しかったのだ。
それ以来、寂しくなると時々帰っている。
「ただいまー!」
徒歩で1時間半。農場の母屋の前で叫ぶと窓から少女が顔を出す。
「あ! エリーお姉ちゃんだ! お母さん、お姉ちゃん来た!」
ノーラだ。
私の5つ下の華奢な女の子。ほぼ妹であり貴重な年下の友達でもある。
ノーラはずっと部屋にいる。
心臓に病気を抱えており、医者からは長くは生きられないと言われているからだ。
ただ、今はまだ症状はそんなにひどくはなっておらず、強い運動さえしなければ日常生活には支障はない。
そのせいか本人には悲壮感はなく、むしろ働かなくていいことを喜んでいるほどだ。
お父さんのデレックさんが帰るのを待って、ホプキンス一家と食卓を囲む。
デレックさんとマーガレットさんは 例えるなら優しい熊の夫婦。大きくてあったかい。
すごく安心できる。遠慮もない。
私が帰ってきたので、メインは自家製チーズたっぷりのポテトグラタンだ。大好物!
食後、私はちょっと改まって話を切り出す。
「あのね、ノーラが長生きできる方法が見つかったんだけど」
「何ですって!」
大騒ぎになった。
まだ何も話してないのに。
落ち着くのを待って、私はダンジョンコアの話を打ち明ける。
隠し事は一切せず、メリットとリスクを説明した。
王家がらみになるマンガの話は自重した。
しばらく考え込んでいたデレックさんがのんびりした声で言った。
「なるほどー。
つまり俺たちの方が早く死ぬってことだよなあ。
それはすごく嬉しいなあ。
子供が先に死ぬのはほんと勘弁だからなあ」
マーガレットさんが大きくうなずく。
「ノーラが長生きできるんだったら、あたしも嬉しいよ。
でも、一番大事なのは本人の気持ちさね。
ノーラがそのダンジョンマスターとやらになりたくないのなら、あたしはそれでいいと思う」
両親の視線を受けて、ノーラがにっこりと笑う。
「そんなのなるに決まってる!
だって、働かないでお家でゴロゴロしてるだけで長生きできるんだよ?
それに、ペットも創れるんでしょ?
スライムいっぱい作って、その中に埋もれられるんだよ?
もう考えただけで嬉しい!」
ダンマスはあっさり決定した。
ニート宣言には目をつぶらざるを得なかった。




