第5話
とはいっても、一日くらいは家でダラダラしたい。ちょうど安息日だし。
お昼近くまで寝て、まだ覚め切らない頭でボーっとしていると、玄関をノックする音が聞こえた。
誰だろ?
「ほーい」
声がガサガサ。疲れてたから口呼吸睡眠してたのかも。
扉を開けると小柄な少女がいた。
地味な外套に丸メガネ。緊張してるのかうつむいて小さく震えている。
まあ知ってる人物ではある。
向こうはまだ気づいていないようなので、親方を続ける。
「どこの嬢ちゃんだ? うちに何か用か?」
「え? ソ、ソフィ・ターナーと申します。突然申し訳ありません。
あの、カタリナ・リンドブール様をご存じでしょうか?」
知ってるも何も。
まあわかんないか。
髪はド短髪になってるし、部屋着ボロボロだし、声はかすれてるし。そもそもビクついてこっち見てないし。
「とりあえず入んな。お茶くらい出してやっから」
「え? あの……」
「何もしねえって。
そのカタリナとかいうヤツの話が聞きてえんだろ? 教えてやるよ」
「は、はい……」
少女は意を決したようにドアをくぐる。
よし、今だ!
「ぐへへへ」
私はドアを閉めその背中に抱きつく。
「ひいっ!」
次の瞬間、私は腕を取られてきれいに投げ飛ばされていた。
忘れてた。ソフィって体術強いんだった。
そして10分後、私は床に正座してソフィーのお説教を聞いているわけである。
正体バラシの瞬間は抱き合って再会を喜び合ったのに、どうしてこうなった。
「聞いてる?
私は死刑が発表されてから毎日ここに来てたんだよ?
来いって言ったの誰か覚えてる?」
「私です……」
「だよね? なのに誰もいないし、そのうち死刑じゃなくて呪いで白骨になったとかいう話が聞こえてきて、ほんとに心配してたんだからね?」
「呪い? そこんとこ詳しく」
「詳しくじゃありません!
それよりさっきの変態みたいなのはなんですか! 胸触ったでしょ!
ふざけていい場面じゃないと思うんですけど!」
ああ、敬語になっちゃった……。こうなると長いんだよなあ。
文学少女のお説教は理詰めなので、言い返すのは悪手だ。
ここはじっと耐えるしかない。悪いの私だし。
ソフィーは私の数少ない幼馴染。代々農業技官を務めるターナー男爵の一人娘だ。
母親同士が親友で、母が生きている頃はよく一緒に遊んだ。
ソフィーの母親は私の母と同時期に同じ流行り病で他界している。似たような境遇である。
母の死後は一時会う機会はなくなったが、私がネグレクトされ勝手に家を抜け出して会いに行ってからは前より頻繁に顔を合わせるようになった。
まあ、私が押しかけていただけだが、その結果娘同士も親友になった。
男爵が珍しい貴族の土魔法士で、私を差別せずにかわいがってくれたおかげでもある。
子供の頃に、前世のこともマンガのことも考えなしに喋っちゃったので、ソフィーは私の秘密を知っている。
学園入学までは信じていなかったけど、「予言」つまりマンガのあらすじ説明が当たるので、今ではちゃんと事実として受け止めてくれている。
ただ、断罪される私に巻き込まれないように、学園では完全な他人を貫いたため、色々話せなかったこともある。
ギルドでBランクになって家まで買っちゃったこと。
入学直後に仕事のために髪を切って、それからズラ生活をしていたこと。
もちろん、空間収納に入れていた白骨死体のことも。
それをひとつずつ説明するたびに、ソフィーが怒るのだ。
「だって巻き込むわけにはいけないじゃない」
「私が黙っていればいいだけですよね?
そもそも学園で私に話しかける人なんて誰もいないんだから、漏れる心配はないですよね?
ボッチを舐めないでください。
それとも、私が信用できないですか?
私がカティの前世のこと誰かに言いましたか?」
だからごめんて。あと怖いから敬語やめて。
許してくれるまで1時間近くかかった。
なんとか怒りを納めたソフィーとテーブルにつく。ようやくである。
ここに来てもらったのは諸々相談するためなのに、その前のお説教長すぎ。
まあ、全部ゲロったおかげで、細かい前提を話す手間が省けたので良しとしよう。
「あ、ソフィー。お茶淹れてくれる? キッチンの右下の引き出しになんか高級そうな包み紙のやつあるから」
「ええ? お客さんに淹れさせるの?」
「痺れて立てないの!」
「あ、なるほど。それは良かった」
「良くない!」
ソフィーはクスクス笑いながらキッチンに向かった。
「すごい!ホニャララ産のホニャララリーフ!」
なんか魔法の詠唱みたいなのを叫んだ。産とリーフだけ理解できた。
でも感激してるってことは、「要らねえからやる」と大工のローガンから渡された「すっげえ高えっつうお茶」はちゃんと名品だったみたいだ。
仕事ぶりを評価したどこぞの商会長から貰ったらしい。
酒以外の飲み物に興味を示さないローガンに、そんな高級茶葉を上げても意味ないのに。
まあ私としてはラッキーなので、今度モツ煮パンでもおごってあげよう。
超絶いい香りのするお茶を飲みながら、その後の学園の話を聞く。
断罪の場にいた生徒たちの反応はさまざまだったらしい。
王子一派とその支持者はドヤ顔で騒ぎ、それ以外の約半数は困惑していたそうだ。
それからひと月後にカタリナの死刑が発表されると、学園では一日だけ話題になり、すぐに学園がそのことを話すのを禁止した。
でも、噂は水面下でささやかれ続ける。
ほどなく生徒たちの間に地下牢の呪いと白骨死体という怪談が広がった。
どうやら地下牢はしっかり調査されたようで、怪談の発信元、近衛兵長令嬢がクラスで披露した説明によれば、私らしき白骨死体は石壁の撤去後に無事発見されていた。
白骨死体の周りには土が散らばっていたそうだ。
ヤバい。その土、固めきれずに一時的に外に出してたやつ。最後に戻すの忘れてた。
現場を確認した第三王子は、ドレスと腕輪の番号からその白骨がカタリナであると断定した。
王子によれば、カタリナは昔地下牢で死んだ黒魔導師の呪いで魔力を暴走させ、石壁で自らを地下牢に閉じ込めて死んだのだそうだ。
完全に魔力の枯渇した体は黒魔導師の呪いの力であっという間に干からびて土になり、白骨だけが残ったのである。
黒魔導士の呪いの話は割と有名ではある。
王子はその都市伝説を真相解明の根拠としたのだ。
すごい。他にも突っ込みどころ満載だが、特にすごい。
だが、王族が断言したからにはそれが真実となる。
リリア及び取り巻きは名推理を絶賛したらしい。
白骨と牢内に散らばった土は、リリアの聖魔法よる浄化後、教会の無縁墓に埋められた。
ほんと助かった。
脱出トンネルを疑われるようなミスなのに、さすが王子殿下、斜め上の推理できっちりカバーしてくださった。
おまけに証拠隠滅まで。
強制力のせいかもしれないけど、ともかく探偵が君でよかった。
悪役令嬢を排除したリリアは、絶好調で6股を続けているみたいだ。
それどころか、断罪シーンで私を気遣ったことで、これまで鬼門だった女子の評価が高まっているらしい。
そのうち学園に君臨するつもりなのかもしれない。
結局爆発に巻き込まれるんだけどね。
まあ頑張ってください。
安全確認完了。
次はこれからの相談だ。




