第65話
「小屋撤去よーし、グミー配置よーし、入口拡張よーし、トンネルよーし……」
私は指差し確認しながら、地上からトンネルの終わりまで歩く。
「あ、そうだ。矢印あった方がわかりやすいよね。
えーと、細いの3本並べてえ……、『この先脱出用転移陣』っと」
グミーの並べ替えはすぐ終わったし、余った子は帰しちゃったし、今トンネルの地面に路面標示を書き足した。
1時間でスタンバイって言われたけど、準備は整えてあったのでこれでもうすることがない。
じっと待つのって苦手なのよね。
なんかしてないとどんどん余計なこと考えちゃう。
でもこの場を離れられないからじっと待つしかない。
予定時間の7分過ぎ、ようやく森の中にリリアの姿が見えた。
「お待たせ! もうちょっとで来るよ? 500人くらい。
準備OK?」
「OK」
「いいね。じゃあ、仕上げといこうじゃないか」
リリアが手のひらを掲げる。
パチンとハイタッチして、リリアは再び森の中に、私は地下へと駆け出した。
トンネルはさっき南エリアの人が使ったもの。
入口は小屋を撤去して拡張した階段。森の中からグミーたちの花道が続いているので、初見の帝国軍のみなさんでも迷うことはない。
リリアがトンネルに駆け込んでくる。
300mくらい遅れて帝国軍の兵士たちがなだれ込んでくる。
「どうして仲良くできないのですかっ!」
リリアが後方に向けて叫ぶ。
「笑わせないでくださいませっ! ゲホッ。わ、わたくしに恥をかかせた罪はその命で償っていただきますわ!」
先頭を走る公爵令嬢が叫び返す。
いいセリフだけど、息が上がっているのが残念。
相手は丸腰女子なんだから鎧脱げばいいのに。
次は私の番かな?
大きく息を吸い込んで思いっきり叫ぶ。
「リリあー! コっちニ転移陣がアルわー! 地面ニも書いてあるワー! 王都ノ外に逃げラレるわー!」
「ブフォ!
だ、脱出用の転移陣ですね! ありがとうございますっ!」
なぜ笑った?
リリアが走る速度を上げて角を曲がり、私と合流して転移陣前に到着する。
「エ、エリー」
「何よ」
「君さ、ほんとに演技下手だよね」
「は?」
「正直、幼稚園児以下だった。ブフッ……」
「ひどくない?」
「いや、褒めてるんだよ?
! 来た!」
帝国軍が角を曲がるのを待って、私たちは転移陣に飛び込む。
地面に足がつくと同時に、私は即座に今出てきた転移陣の場所をずらす。
「OK!」
私たちがいるのは砂漠の中に立つテーブルマウンテンみたいな岩の上。
その下では、砂丘の斜面に移動させた転移陣から出てきた帝国兵が、次々に坂を滑り落ちていく。
一ヵ所に固まらないように適当に陣を動かしているとやがて転移が終わったので、転移陣を撤去する。
「ふう。監禁完了」
「ご、ご苦労様、ブッ!」
横を見たらリリアはまだ笑っていた。
「リリア、しつこい」
「いや、そっちじゃない。アレは君の作品だよね?」
リリアが指差す先には私渾身のスフィンクスが横たわっている。
となりには当然ピラミッド。周りはずっと遠くまで一面の砂漠だ。
ここはダンジョンの元第3階層。最大まで拡張した砂場砂漠である。
ミニ森と入れ替えて今は第4階層、つまり最下層になっている。
「私の作品じゃなくてただのレプリカだよ」
砂漠と言えばピラミッド。その横にはスフィンクスが必須だ。得意のストーンキューブを駆使して作り上げた。
私は、前世で実現しなかったエジプト旅行で見たかった景色を再現したのだ。
誰にも迷惑かけてないんだからいいじゃんそのくらい。
「え? レプリカ?
どう見てもレプリカじゃないよね?
モチーフはスフィンクスだろうなとは思うけど、あれだけ徹底的にカクカクさせればもう完全にオリジナルだ。キュビズムの巨大彫刻だね」
「よくわかんないけどさっきからひどくない? 一生懸命やったのに!」
「だから褒めてるんだってば!
見なよ。ほんとにいい風景だから。
この全部がエリーの作品なんだよ?」
そう言われてあたりを見渡す。
うん。落ち着いてみるのはじめてだけど、スフィンクスがちょっと違っても私が見たかった景色だ。
ただねえ……。
「帝国兵が邪魔」
「そりゃそうだね。
じゃあ、さっさと殺しちゃうかい?」
「やだよ。そんなの私の仕事じゃないもん」
ここが普通のダンジョンで、攻略を目指す冒険者と日々戦っているのならそういうのも有りだと思うけど、うちは暴力禁止の商業施設だからなあ。
でも無罪放免にする気は全くない。
ネグレクトも地下牢も経験している私が、心を折って差し上げるつもりだ。
それも「全滅」の一種だと思う。
眺めていたら誰かがこちらに気付いた。
私たちを指差して何か叫んでいるみたいだけど聞こえない。
一言ご挨拶しておこうかな。
立ち上がると、リリアが手をかざして魔法をかけてくれた。
「お説教の魔法。拡声魔法と弱い沈静魔法が合わさったみたいなものだね。沈静効果は気休めだけどね」
「ありがとう」
拡声があるだけで十分。
私は岩の上に立って話しはじめる。
「みなさんこんにちはー」
なんかグミーたちに指示するみたいになって自分でもびっくりした。
これじゃ煽ってるみたいなので軌道修正。
「えーと、もうお気づきかと思いますが、ここはダンジョンです。
みなさんはサブダンジョンマスターの私の罠にはまって、この最下層に飛ばされたわけです。
つまりここから脱出するには、この砂漠のどこかにある上への階段を見つけて、さらにいくつもの階層をクリアしなければならないことになります」
上には3階層しかないけど「いくつも」には違いない。
ちなみに階段はこの岩山の奥にあるので到達不可能。
見下ろすと、みんな大人しく話を聞いている。
お説教魔法、効果あるじゃん。
「ひとつ嬉しいお知らせがあります。
この階層には魔物はいません。ピラミッド、そこの三角の建物の中には泉が湧き出ていますので、水に困ることもありません。
一日2回、食事も提供します。泉の脇にある台の上に送ります
あ、基本みなさんのことはどうでもいいので、たまに忘れるかもしれませんが、その時はごめんなさい」
どうでもいい人間には時々食事を出すのを忘れる。
これは私が幼少期を過ごしたリンドブール伯爵家の由緒正しい流儀である。
出す食事も伯爵家と同じクオリティー。いわゆる地下牢定食だ。
ちゃんと栄養があることは、それで育った私が保証する。
「あとは、水も食事もここだけでしか出ませんので、遠出するときには気をつけてください。
砂漠の中で倒れても私は助けません。つまりお亡くなりになっても自己責任ということですね。
以上でーす!
何かご質問はありますかあ?」
何人かが剣を振り上げて叫んでいるけど聞こえない。
「はーい。何もないようなので終わりまーす!
みなさん頑張ってくださーい!」
最後もグミー対応になちゃったけど、まあ言いたいことは言えた。
なんか自分で思ってたより怒ってたみたい。
下がってリリアの隣に腰を下ろす。
「無関心を装った的確な煽り! 実に素晴らしかった!」
拍手は嬉しいけど分析しなくていいから。
「じゃ、帰ろうか。
スタンリーさんに終了報告しなきゃ。
そんでリリアをみんなに紹介しないと」
「やっとみんなに会えると思うとワクワクするね」
「はしゃぎ過ぎないでね?」
「善処する」
私たちは砂漠階層から転移した。
早速みなさんに晩ごはんを出すのを忘れた。




