第63話
何だよ全滅って。
言いたいことはたくさんあるけど、問い詰めている時間がない。
「OKしてませんから!」とだけ言って、避難指令本部に戻る。
「戻りました。農場もファガードも異常なしです」
「ありがとう。こちらもまもなく送り出し完了だ。
残った北エリアの住民もみんな逃げ込んできた」
「よかったです。帝国軍は?」
「あと2時間以内だね」
「じゃあ急いでグミーたち回収しなきゃですね」
「大丈夫かい?」
「問題なしです。いざとなればその場で転移陣作って逃げますから」」
「わかった。無理しないように」
「ありがとうございます」
私は消さないでおいた通りへの階段を上る。
北の道沿いに少し進むと、こちらに向かってくるグミーの姿が見えた。
隊列はもう崩れているけど、それが却ってスタンピードっぽい。確かに見たら逃げるわね。
私はその群れを東通りを超えた所にある公園まで誘導する。
公園の隅には土魔法で作った小屋。そのカギを開けると、地下へ続く階段が現れる。
「はーい、みなさんここから中に入ってそこで待機してくださーい。
後ろから来る人がつっかえるので、立ち止まらないで奥まで進みましょー!」
グミーたちがゆっくりと再起動し、階段を下りていく。
最後の子の後ろについて私も地下に入る。
階段下はだだっ広い体育館みたいな空間だ。
ネズミ穴で東通りの地下街と繋がっているけど、直接の出入りはできない。
その前半分にグミーたちがギューギューになっている。
「はい、お疲れさまでしたー。
あとで迎えに来ますから、それまでここで休憩していてくださいねー。
わかった人は手を上げてくださーい」
はいばんざーい。
ちょっと和んだ。
グミーたちはここで一旦待機&回復。
事前検証の結果、グミーたちはダンジョンを離れると12時間くらいで動けなくなることがわかっている。
朝8時から活動しているので、この後の帝国軍に対応するのには、時間が足りなくなる危険性があるのだ。
帝国軍対応が長引くようなら再登場してもらおうと思っている。
これで私の避難ミッションは終わり。
休憩なしで防衛ミッションに入る。
まずは、転移陣を作って自宅と農場の間のトンネルに跳ぶ。
ゴブリン家具工場が操業停止してから使い道がなかった場所だ。
「お疲れ様。予定よりちょっと早いわね」
「うん。余裕ないと怖いから」
マリアが待っていてくれた。
その後ろに並ぶのは別のグミー約3千。
待機中の千人を合わせれば帝国軍+軍務卿軍の3500より多い。
実は今回の準備の中で一番大変だったのが、このグミーたちだった。
それでもマリアが見つけたバグのおかげでだいぶ楽にはなった。
「生産数0」で実行すると90人出てくることがわかった時には、ノーラとマリアと3人で抱き合って大喜びした。
最初は千人くらいのつもりだったんだけど、だんだん怖くなってきてこの数になってしまった。
ここまで多いとコアの魔力が心配だったので、3日かけて90×45=4050人を創った。
グミーはほんとに単純な指示しか理解できない。でも私も指揮官のスキルなど全くないので、なんかちょうどいい感じだった。
で、この3千のプルプルを連れて、私はこれから帝国軍を迎え撃つわけだ。
ちびりそう。
まず、新しい転移陣を設置する。
向かう先は西通りの避難トンネルの南端。
そこに再び地上への出口を作り、送り出したグミーを並ばせて、帝国軍が平民街に入れないようにする予定だ。
レベル4で少し詳しくなった解説によると、グミーを殺すには体内を動き回る小さなスライム核とオークの心臓を同時に破壊する必要があるらしい。
グミーはうちのダンジョンのオリジナルなので、帝国兵がそんなことを知るはずもない。
しかも切られても再生するし痛みも感じない。
つまりグミー3千人は最強の肉壁なのだ。
多分大丈夫。なはず。
「そんじゃ出陣しまーす」
「ほーい。いってらー」
マリアが能天気に返してくれた。助かる。
西に跳んですぐに地上への出口を作る。
階段を駆け上がって到着するグミーを待つ。
少しすると、マリアの指示を受けたグミーたちが次々と階段を上ってくる。
私は西から順にグミーたちを並べてゆく。
水堀を渡って貴族街に続く道を残して、とりあえず平民街側の道を全部塞ぐ。
あとは帝国軍が来るまでひたすら肉壁の補強だ。
一列目の後ろにグミーを何重にも並ばせてゆく。隙間があると気になるので、もうミッチミチに並べる。
グミーは動き出しが遅いので時間がかかる。
3列並べてたあたりで貴族街から鐘の音が聞こえた。
学園の鐘。卒業式が終わった合図だ。
貴族たちは祝賀会のために王城に集まっているだろう。
やばい。もうすぐ来ちゃう。
私は焦りながら壁を厚くしてゆく。
グミーは半透明だけど、重なったら街道は見えなくなる。
進軍の音が聞こえたのは、6列目にとりかかった時だった。
「前方に魔物の群れ!」
「構わん、進め! 突き破れ!」
叫び声と靴音が近づいてくる。
私の姿は見えないはずだけど、思わずしゃがみこんで後方のグミーの中に隠れる。
「くそっ! 何だこれは⁉ 手応えがない!」
「気をつけろ、再生能力を持っているぞ!」
切りかかったらしい兵士の声が聞こえてくる。
よかった。押し留めているみたいだ。
しばらくじっとしていたが、グミーたちの列が崩れる気配はない。
「くそっ! 進めん ! どうなっているんだ!」
「もういい! 攻撃中止! どうせこの先は貧乏人の家しかない。構うだけ時間の無駄だ!」
俺たちも城に向かうぞ!」
「はっ!」
その声とともに、靴音が貴族街の方に消えてゆく。
音がしなくなったのを確認し、私はグミーの間をかき分けて前に出る。
誰もいない。全員王城に向かったようだ。
「みんなはそのまま待機」
私は100mほど先にある貴族街へ繋がる石橋に走る。
橋に触れて魔法を唱える。
「クラッシュ」
体の中からフッと魔力の抜ける感覚がして、橋が水堀の中に崩れ落ちる。
久しぶりに土魔法を使ったけど、やっぱりこれはこれでいい。
「よし!」
急いでグミーの所に駆け戻る。
「はーいお疲れ様ー。
えーと、怪我してる子はいませんかー?
いたら手を上げてくださーい」
反応なし。
「では移動しまーす!
このお堀沿いの道をまっすぐ進んでくださーい。
なるべく急いでくださいねー。でも転ばないようにー」
少しの間があって、グミーたちが動き出す。
私はそれを置き去りにして、その道を走り出す。
10分ほどで貴族街北側の橋に着く。
すぐに落とす。
少し休んでいるとグミーたちが追いついてきたので、一緒に進む。
3本目の橋にたどり着く手間で、王城の方から大きな爆発音が聞こえた。
見ると城の北側の窓から黒い煙が立ち上っている。
城の中では『選べよ』のラストシーンがはじまったようだ。
私は橋の手前で動きを待つ。
この橋を壊す前にひとり渡らせなければならないのだ。
その後爆発が2回続いた。
王城からは火の手が上がった。
私がじりじりしながら待っていると、人影がひとつ貴族街から飛び出してきた。
橋の先に群れる魔物を気にすることもなく、そのまま橋を駆け渡ってくる。
彼女は私の前で立ち止まり、爽やかに笑った。
「やあ、悪役令嬢」
私はホッと息をつきながらジト目を返した。
「遅いよリリア 。死んだかと思ったじゃん」




