第62話
ギルド事務所は避難指令本部となっている。
そのトップ、スタンリーさんが笑顔で出迎えてくれた。
「セオドアさん、エリーちゃん、お帰り。
こちらは順調だよ。残りはあと8千人ってとこだ」
スタンリーさんは、侯爵から今回協力してくれる侯爵派貴族のまとめ役に指名された。
避難計画の立案メンバーであり、ギルド長たちともやり取りをしてきているので、貴族と平民にまたがる人員をまとめるのは彼以外にいない。
「ただいまです。何かトラブルはありましたか?」
「いや、冒険者ギルドと鍛冶ギルドの強面が見てくれているのでみんな大人しくしてる。
メイヴィスさんもいるから何も起こらないと思うよ」
「そりゃそうだ。あのババアはほぼオーガだからな。あ、黙っとけよ?」
セオドアさん、それなら最初から言わなきゃいいのに。
メイヴィスさんがいてくれるなら安心。最強ビキニアーマーに逆らえる人類など存在しない。
「わかりました。じゃあスタンリーさん、北側以外入口は塞いじゃいますね?」
「頼む」
私は手早くパネルを操作し、入口の8割を塞いだ。
これで侵入される危険性は大きく減った。
「終わりました。
あ、帝国軍の情報は入ってますか?」
「うん。
冒険者ギルドが斥候を張り付かせてくれているから、動きは掴めているよ。
数は侯爵様の予想通り約3千。そこに500人くらいの軍務卿の領兵が加わっている。
両国友好を叫びながら堂々と行進しているようだ。
王都まであと3時間ってところだね」
「よかった。じゃあ、来る前に避難は終わりそうですね。
じゃあ、グミーたちが着くまであと1時間半くらいあるので、ファガードの様子を見てきます」
「わかった。こっちは落ち着いてきたから必要なら人を送るよ」
「わかりました。聞いてきます」
避難路の転位駅は使用中なので、農場の地下街経由になる。
「あ、ついでに農場も確認してきます」
「助かる」
「じゃあ、ひとっ跳び行って来まーす」
農場地下街はいつもと変わらなかった。
屋台村は全店が営業しており、いつもよりは少ないものの、お客さんもそこそこ入っている。
今日の朝、馬車ギルドが何台もの直行馬車を出したからである。
帝国軍に馬を奪われないように農場に避難するついでに、激安料金で客を運んだのだ。
「おーい、エリーちゃーん」
呼ばれて振り向くと、顔見知りの御者さんが手を振っていた。
「ウェインさん、いらっしゃい」
「いやあ、久しぶりに来れたぜ。馬車で入口までは来てんだけど、仕事中だから全然中に入れねえんだよ」
「あらま、そうだったんですか。
じゃあ楽しんでいってください。
帝国が来たら別の場所に移動してもらいますけど、この中にいる限りは絶対に安全ですから」
ウェインさんは頷いて、少し声を潜めた。
「んで、帝国は来んのか?」
「今、西街道を進んでいるみたいですよ。
もう少しで王都に入るでしょうね」
「そっかあ。みんな逃げたか?」
「はい。もうすぐ避難完了です」
「そいつは良かった。
じゃあ、帝国がいなくなるまでここでのんびりさせてもらうわ」
「ごゆっくり」
パタパタと地下街を見て回り、みんなの無事を確認した後、侯爵領に転移した。
農場地下街からの転移陣は、ファガード地下街のダンジョン魔法士ギルドの出張所にある。
街造りにはまったジジイに設置させられたものだ。
混雑に関係なく使えるので、結果的に作っておいて良かった。
出張所を出ると、避難所改め新興住宅街は人で溢れていた。
王都から転移したと思われる人が、あたりをキョロキョロ見回しながら、ド派手な作業着を来た人の案内で真新しいに家に入ってゆく。
ショッキングピンクと紫を組み合わせた受け入れボランティアの作業服は、クーちゃんたちのギャルおばあの店、『pinkUnicorn』から提供されている。
ものすごく目立つ。
背中にはお店のロゴがドーンと縫い付けられているので宣伝効果も抜群だ。
案内を終えた人を捕まえて状況を聞く。
王都から先に避難して、転移陣通勤をしていた雑貨屋のおばさんだった。
「うん。全然問題ないわ。
あたしたち先に来てた組が準備してたからねー。
そんでこの『ピンクニ』の制服っしょ? 困ってる人は自分から話しかけてくれるから、案内する方もちょー楽って感じ?」
うっすらギャル化してるのが気になったが、とりあえず受け入れ側にも大きなトラブルはなさそうだ。お店の略称『ピンクニ』っていうのね。
ギルド出張所のとなりには侯爵領の事務所なので、立ち寄って顔見知りの文官さんに王都側の状況を伝える。
事務所の奥では、バートたちゴブリンが仕事をしている。すっかりなじんでいて嬉しくなる。
「エリーさん、わざわざありがとうございます。
あと数千人ですね?
先ほど受けた報告だと、先行分も合わせて3万8千人が到着しています。追加のトンネルのおかげで、全員を地下街で受け入れられそうです」
「よかった。掘った甲斐がありました。
ところで侯爵様に連絡は取れますか?」
「申し訳ありません。只今領外に出ております。
お約束でしたか?」
「いえ。大丈夫です。
お忙しいところ失礼しました」
私と話している間も、外から次々に報告が入ってきている。
明らかに仕事の邪魔なので、急いで退散する。
「おう、エリー」
建物を出たとことろで声をかけられた。
「カラムさん」
「どした? 向こうで何かあったか?」
「いえ順調です。今、経過報告してきたところです」
「そりゃよかった。
ま、基本ここにいるから、何かあったら俺に言ってくれ。
一応領主代行だからよ」
「え? じゃあ今は、カラムさんじゃなくて紋別牛子爵様ですか?」
「モンタギューな? ヴィンセントの野郎、俺に丸投げして出ていきやがった。
ま、領兵10人くらい連れて帝国に行ったんだけどよ」
「え? 帝国に?
ヘルプに回る話は?」
全然聞いてないんですけど。
「それが終わったら王都に向かうってよ」
「間に合わなかったらヤバくないですか?」
「それまではお前さんに任せたって言ってたぞ?」
「何ですかその要らない信頼は」
「そりゃスタンピード起こすとか聞かされりゃそうなんだろ?
魔物を好きなだけ出せんだから、俺らんとこが領兵出す必要なんてねえじゃん」
「まあ数だけは。攻撃力はないですけどね。
で、侯爵様は帝国に逆侵攻ですか?」
そこは政治の話だから私が口を出すことじゃないけど、物価が上がるから戦火拡大はやめてほしい。
「兵10人でか? 面白えな。残念ながら辺境公と一緒に元を断つ相談だ」
「元を断つ?」
「ああ。今攻め込んできてるあっちの大将は皇帝の叔父でな、すげえやっかいなヤツらしいんだよ。
侵攻の理由を作るために色々やってたらしいが、ここんとこさらに手に負えなくなって、勝手に出兵したらしい。成功したら帝位を譲れとか言ってるってよ」
「むちゃくちゃですね」
「だな。
そんで向こうの皇帝が、金払うからなんとかしてくれって泣きついてきた」
「なさけな……」
「ほんとにな。てめーでやれっつう話だよな。
そんでもまあ、それが一番丸く収まるみてえだから、ヴィンセントたちが出向いたってわけよ。
ついでに向こうに残った大将一派の掃除も手伝うみてえだ」
「なるほど……」
一番平和的な解決方法がそれか……。
中世ってやっぱ脳筋だよね。
カラムさんはため息をつく私を見ながら、思い出したように付け加えた。
「そういうわけだから、お前さんは王都の帝国軍をきっちり全滅させるんだぞ?」




