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死亡フラグを回避して、元悪役令嬢は今日も穴掘り  作者: 膝関節の痛み
第5章 隠しごとがなくなるのと無茶振りする発注先をぶん殴るのどっちがすっきりするか?

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第61話

「な? 俺の言ったとおりだろ?

 帝国なんか来やしねえじゃねえか」

「だよな。第二王子と向こうの公爵の娘が婚約したっつうのに、攻めてくるはずがねえって。

 ギルドも何ビビってんだか」

「ギルドっつうかパメラのババアだろ。

 俺はな、あれだけ煽って何もなかったじゃ済まさねえよ?」

「お? つるし上げか?」

「そりゃそうだろ。おかげで稼き減ってんだからな。

 あ、おばちゃんエール追加!」


 男たちが朝から飲んだくれている西通りの食堂に、冒険者が駆け込んできた。


「おい、逃げろ!魔物が来る!」


 冒険者の声は切羽詰まっているが、酒が入った男たちの反応は鈍い。


「魔物だあ? 来んのは帝国軍じゃなかったのかよ。

 お前冒険者だろ? 冒険者なら逃げろとか言ってねえで、ちゃんと討伐してこいよ」

「ちげえんだよ! ただの魔物じゃねえ!スタンピードだ!

 ものすげえ数の魔物が西からこっちに向かって来てる。早く逃げねえと飲み込まれんぞ!」


 そう言い残して冒険者は街に駆け出していった。


「どうする?」

「どうすっかなあ……」

「さっさと動きな!」


 危機感なくエールに手を伸ばす男の頭に、店の女将のげんこつが振り下ろされる。


「あんたらは勝手にすりゃいいけど、あたしらは逃げるからね。戸締りするんだからとっとと出ていきな!」


 店主の肩には既に大きな袋が担がれている。

 ギルドの勧めに従い、念のため全財産と当座の着替えを詰め込んでおいたものだ。


 男たちを追い出し店の外に出ると、冒険者が誘導で避難する住民が列をなしていた。

 店のドアに鍵をおろし、店主と女将もその列に加わった。


 スタンピードの情報は平民街を駆け巡った。

 冒険者や下級貴族たちが、いつの間にかできていた地下へ向かう階段に住民を誘導してゆく。

 階段の先は今話題の東の地下街に続いているとのことだ。

 「逃げるなら地下街へ」というのは、このところよく耳にしていたので、進むのをためらう者は少ない。


 まだ魔物の姿が見えないことも良かったのだろう。

 パニックになることもなく、袋やかばんを大事そうに抱え、住民たちは地下へと消えていった。


 王都の外壁に設けられた4つの門は、元々は王都への出入りを厳しく監視する検問所だった。

 だが、門の外側に拡がる街に飲み込まれ、今はもうその役割を果たしていない。

 平民用の一般門は通り抜け自由。門番は高位貴族用の特別門の開閉だけを行う閑職となっていた。


 西門の詰め所では、軍務大臣の領軍から派遣されたふたりの男が今日もだらけていた。


「魔物だ! 魔物が来るぞ⁉」


 門番は一般門を駆け抜けていった声を鼻で笑った。


「おい、魔物だとよ。クソ平民どもは何にでもビビりやがる」

「何を言うか、スライムも立派な魔物ではないか。領民を守らなくてどうする。

 あ、うちの領民じゃなかったわ。じゃあ知ーらね」

「ぎゃははは。俺らは公爵様の兵隊なんだから王都は関係ねえもんな。平民だし。

 それよかそろそろ掃除しとくか。帝国のお偉いさんが来んの今日だっただろ?」

「ああ今日か。めんどくせえな。別の門から来りゃいいのに。

 つーか、表ガタガタうるさくねえか?」

「そうだな。ちょっとぶん殴ってくるわ」

「殺すなよー」


 詰所を出ようとしたところで、門番の兵士は慌てて扉を閉じ、内鍵をおろした。


「どうした?」

「シッ! 声を出すな!」 


 男はゆっくりと後ずさる。


「何かあったのか?」

「……外が魔物で埋まってる。ス、スタンピードだ……。」

「は?」

「マジだ。俺らでどうにかできる数じゃねえ」

「……」


 詰所は古い。時折魔物がぶつかると嫌な音を立ててきしむ。

 門番たちは息をひそめ、震える手で剣を構えながら、祈るようにドアを見つめ続けた。


 ――その後方。


「グミーたち、ちゃんとやること覚えてるかなあ……」

 

 最後の魔物を送り出して、ノーラが心配そうに呟いた。


「大丈夫。忘れたら私がちゃんと教えるから。

 だからノーラはお家に戻っててね?

 戻ったら今日はずっとお家の人と一緒にいるんだよ?」

「うん、わかった」

「じゃあマリア、後はよろしく」

「了解。気を付けてね」

「もちろん。危なくなったら逃げるから」


 最後にマリアと段取りを確認し、西街道に出る。

 目の前で今通った出口が消える。

 これで戻ることはできなくなった。


 私は駆け足で魔物の後を追う。歩幅があるので意外と先に進んでいる。

 やっと追いつくと、魔物は西通りとの合流地点でぎゅうぎゅう詰めになっていた。

 ノーラはちゃんとできるか心配していたが、「大きな通りで待機」という指示はちゃんと守ってくれたようだ。


 私は団子になっているところを適当にバラけさせながら魔物の群れの前に立つ。。

 目に前に並ぶのは約千人のグミオーク。やっと「グミー」という種族名がついた。

 何を考えているかわからない目で私を見つめている。多分何も考えていないんだけど。


 居心地の悪さを振り払って、私は声を張り上げる。


「はいちゅうもーく!

 一番右の子、そうです君です。君を先頭にこの道をあっちの方向にまっすぐ歩いて行ってください。

 行きどまりになったら、右を向いてまたまっすぐ歩いてください。歩くのは道ですよ?建物を壊してはいけません。

 ここまでわかりましたか? わかった人は手を上げてください」


 20秒くらい後、のろのろと魔物たちが万歳をする。

 あ、「右手を上げて」って言わないとこうなるのか。

 

「はーい、じゃあしゅっぱーつ!」


 また20秒ほど後、グミーたちは一列になって歩き出した。やはり歩き出せば結構速い。

 

 その背中を見送っていると、ポンと肩を叩かれた。


「お疲れエリー、すっかり魔物使いだな」

「あ、セオドアさん。お疲れ様です。

 魔物使いですか。ちっとも手応えないんですけど」

「ははっ。確かにあいつらすげえトロいもんな。

 でもまあ、そんでも千体だ。スタンピードには違いねえ。

 わかってなきゃ俺でも腰ぬかすぞ?」

「確かに。

 で、セオドアさんがいるということは、避難は完了ですか?」

「ああ、朝から冒険者どもが走り回って9割方は終わった。

 あとは魔物の通り道沿いだけだ」

「ありがとうございます。

 なんとか間に合いましたね」

「ああ。でもまさかこんな手を使うとはなあ……。

 長いこと冒険者をやってきたが、スタンピードにこんな使い方があるとは全く予想もつかんかったわ」


 セオドアさんが苦笑する。


「私もですよ」


 私も苦笑を返す。


 帝国軍が来る前に、残った住人をなるべく早く避難させる。

 そのための方法がこの疑似スタンピードだ。

 「スタンピード発生」と聞けば、人々は嫌でも避難する。

 ギルドからの緊急依頼を受けた冒険者が、その情報を触れ回りながら住民を避難路に誘導した。


 実際に「スタンピード」が起きたのはその3時間後。

 避難の終了間際、誰かに「災厄」を目撃させるためと、平民街から住民が消えた理由を王城に理解させるためである。

 

 西街道から王都に侵入したことで、魔物の情報は門番か見張りかが必ず王城に知らせる。

 その場合、中央は平民を切り捨てて、貴族街から内側の守りを固めるはずである。


 それがスタンリーさんの予想だった。

 貴族街から兵士が出てくる気配はないので、予想は当たったようだ。


 すぐに討伐の兵を向けられることだけは避けたかったので、正直ホッとした。


 これで帝国が略奪できるものはグンと少なくなったはずだ。


 ふう。まずは一山超えたかな。


「じゃあ、さっさとずらかりましょうか」

「おう」


 私たちは一番近くの入口から避難路に入り、東通りの商店ギルド事務所に跳んだ。

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