第59話
翌朝、モヤモヤした気持ちを抱えたまま工事事務所に行くと、待ち構えていたジジイが私の顔を見るなりハイテンションでまくし立てた。
「いやあ、やっぱ俺ってすげえ! もうダンジョンを掘るために生まれてきたと言っても過言じゃねえな!」
「そうか。よかったな。じゃあさっさと仕事してくれ」
「その仕事がねえんだよ! 東通りの工事は全部終わらせちまったからな!」
「は?」
「全部終わってんだって! それよか新記録の話だ。6キロトンネル39分!すげえだろ!自分で言うのもなんだが、俺やっぱ天才だよな?」
「……ん?」
何言ってるかよくわかんないので現場に行ってみたら、工事はほんとに終わっていた。
「ほら、侯爵領まで掘る時に、お前ら掘る前に土を軟化させてだろ。それ思い出して俺もやってみたわけだ。俺の魔法なら1キロ先まで届くからな。
1キロ軟化させて、掘削の長さ指定はMAXの999999mな。そしたら1キロのトンネル6分でできた。これは記録を狙うしかねえってピンと来たね。
軟化魔法6発連続はちっとキツかったが、思った通り新記録だ。
今までの記録は6キロ55分だろ?39分っつうことは16分短縮! しかも俺の単独記録! 悔しかったら破ってみやがれってんだ!」
要するにジジイは穴掘りタイムアタックで勝手に盛り上がっていたと。
私のブームはあの日で終わっているので全く悔しくない。
ジジイは完全にアスリート化していて、「記録は最初から狙っていた」だの「まだ記録を伸ばせる」だの、どこかで聞いたようなセリフをベラベラ喋り続けているが、そんなことより2日でトンネル計15キロと7キロ分の地下街の店舗スペースを作ったことをアピールした方がいいと思う。
てか、お前はいったいどこ向かっているんだ。
「すげえな。こりゃ私じゃ追いつけなさそうだ」
「おお、わかってんじゃねえか!」
わざわざ水を差すこともないので素直に敗北宣言をしたら、ジジイの機嫌はさらに良くなった。
絶好の機会なので、そのまま相談に乗ってもらうことにする。
事務所に戻ってお茶を淹れ、侯爵からの追加依頼と帝国軍の略奪について、わかっていることをできるだけ詳しく説明した。
「なるほどなあ」
話を聞いているうちに落ち着きを取り戻したジジイは、顎に手を当てて少し考え込んだ。
「まず、追加依頼の方からやっつけるか。
ヴィンセントの野郎、上手いこと考えやがったな。
それならいちいち地面の上に住むとこ作る必要ねえもんな。
まあ、工期も余裕だな。つか長すぎんな。
同じの並べるだけならトンネル1本につき1日でいける。全部で3日だな」
「マジかよ」
「お前、さっき東通りの地下街見ただろ? あれ、一日だぞ?
一回やってみろ。レベル4になって、作るスピードすげえ上がってんのわかっからよ」
「あ、そういうことか」
確かにレベルが上がってからまだ触ってなかった。
「そういうこった。
そんで帝国の方だがな、侯爵が正しい。
んでもやめたくねえんだろ? 途中で取り上げられんのが納得できねえってわけよ。元々はお前が考えたことだしな。
ま、俺でもそうなる。よく言う職人の意地ってやつだ」
「……そっか」
ジジイは私のモヤモヤの正体をあっさりと見破った。
侯爵の言うことが正しいのはわかってもうまく納得できなかったのは、そういうことか。
私は自分の仕事を取り上げられてムカついていたのだ。
「な?
だったらトンネルできましたはいさようならじゃなくて、その後もお前が勝手にやりてえことやりゃあいいだけだろ?」
「……だな」
「んじゃそうしろ。
そんでな、どうすりゃいいかわかるか?」
「んな急にわかるかよ」
「かーっ! お前、何年土魔法士やってんだよ?
いいか、そんなもん貴族街との境目に壁作っちまえば終わりだろうが」
「……すげえなジジイ!」
もちろん、土魔法で貴族街を囲む壁を作ることなどできない。
手を付けたとしても、貴族に見つかって壊され、魔法士が投獄されるのが目に見えている。
ジジイが言ったのは例えだ。
貴族街と平民街を物理的に分断する。
侵入されたら終わりなのだから、侵入させない方法を考えるしかないのだ。
「やってみねえとわかんねえんだけどさ、例えばトンネルを掘った後でそこをダンジョンから切り離して天井を崩落させるとかどうだ? 空堀になると思わねえか?」
「焦んなバカ!」
勢い込んで詰め寄ったら久しぶりに頭をひっぱたかれた。
「そんなんゆっくり考えりゃいいんだよ。
ダンジョントンネルならギリギリまで考えられんだろが」
「っす」
「他にもなんか方法があっかもだろ?
今の工事をとっとと進めて、レベル4を徹底的に解析するこったな。
下っ端の俺じゃ見れねえところもあっから、気合入れて行け」
「うす!」
「どうでもいいけどよ、そうやって下手に出んのやめろ。キモいんだよ」
「ひでえな! 弟子らしくしてやったのに!」
「キシシシ。今はお前が上だろうが。ちゃんと下のもんを育てろ」
「おしわかった! んじゃキリキリ働いてもらおうか」
方針は決まった。
ギリギリまでやれることをやってダメだったら逃げる。
超シンプル。わかりやすくていい。
私たちは本格的に王都地下のトンネル掘りに取りかかった。
2日後にはマリアから工程表と新しいスケジュールが届いた。
「3日は縮められる」とか言っていたのに、出てきたスケジュールは6日短縮されていた。
入り組んだ道路に合わせて掘る上に、地上からの入口の場所をマーキングするので、さすがにそれは無理じゃないかなと思っていたのだが、マリアはそれを見越して道路地図をもとにトンネルの方向と長さを細かく書き出してくれていた。
おかげで一番時間を取られる現場での確認作業が半分くらいになり、工事はマリアの設定どおりに進んだ。
ジジイが出しゃばってくるのが見えていたように作業の割り振りまで指示されていたので、どっちがやるかで揉めることもなかった。
サブマスになったばかりなのに、なんでそこまでわかるのか謎だ。
まあ土建ギルドの時もそうだったら驚かないんだけど。
おかげさまでこの頃は定時退社になった。
そして、なぜか私が家でごはんを作っている。
「うん。普通」
「悪かったわね。確かに普通だけど。
てか、最初はマリアが全部作るって言ったよね?」
「しばらく頑張ったでしょ?
でもね、違うのよ。私の料理ってさ、たまに本気出して作るものなのよ」
「じゃあ、明日本気出して作って?」
「うーん。作りたい気持ちはあるんだけどしばらく無理。
今、ゴブリン90人の訓練中だから」
「90?」
「そ。侯爵領から頼まれてひとり出そうと思ったら90人出てきたの。
最大9人しか指定できないのにおかしくない?」
「おかしいね」
間違いなくバグ。しかも全然面白くない。ノーラのバグ技みたいなのならちょっとは夢があったのに。
「で、その90人どうすんの?」
「創っちゃったんだから使うわよ」
「派遣先は?」
「ポトラ王国の辺境公を考えてる。ハーミッシュさんに紹介をお願いするつもり。
あ、決まったら侯爵領のトンネルをポトラに伸ばしてね?」
「え?」
ポカンとする私に、マリアは近所にお使いを頼むみたいな顔で言った。
「すぐできるでしょ? 280キロしかないんだから」




