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死亡フラグを回避して、元悪役令嬢は今日も穴掘り  作者: 膝関節の痛み
第4章 マスタープランを考えろって言われても無理だからとりあえず掘る場所だけ教えてくれる?

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第58話

「あーほら、アレだよ、僕の集めた情報から考えると、アレは3千人くらい来ると思うな」

「ああ。俺もそのくらいだと踏んでる。王都の兵力は2千で、寝込みを襲われるようなもんだから太刀打ちできんな」

「そう、兵士! しかも農民兵じゃなく正規兵だ。集めた農民兵を向こうのアレに回して、侵攻軍は正規兵で構成する。しかも増税して武器まで新調している。

 君が出ていかないとほんとにこの国には負けるよ? いいのかい?」

「いいも何も、こっちは出禁くらってんだからどうしようもねえんだよ。

 俺が領兵を連れて王都に行ったら、逆に攻撃されるわ。

 まあ北に来たらぶっ潰すがな」

「そうかあ、それはアレだね」

「ああ、アレだな」


 会議の席に現れたポトラ王国辺境公、オットマー・ブレヒトさんはぽっちゃり体型の優しそうなおじさんだった。

 ギャル友クーちゃんの息子さんという意識もあって、すごく親しみが持てる。

 ツィードベリー侯爵とは長年の友人らしく、フランクな会話が続いている。


「ということでエリンちゃん、そっちの王都は相当荒らされるよ?帝国軍の大将は兵士への褒章はアレでみたいなことを言っているらしいから、住民を逃がすだけと言っても相当アレだよ?

 おじさんは、無理することないんじゃないかなって思うんだけどな」


 オットマーさんは困ったような顔でそう言った。

 心遣いが嬉しい。でもそれはそれとしてアレが多すぎる。


「ありがとうございます。

 ひとつ質問させていただきたいんですが、褒章のアレとはなんでしょう?」

「あー、なんだっけなあ、ここまで出てきてるんだけど……」

「略奪だな」


 侯爵が短く翻訳する。


「そう、略奪!

 ごめんねえエリンちゃん、おじさん単語がなかなか出てこないんだ。トシだね」

「いえ、大丈夫です。あと、申し上げにくいのですが私の名前はエリーです」

「あ、ごめんねえ。

 エリーエリー……。よし、覚えた!

 で、エリーちゃん、話を戻すけど、これは国のアレだよ?

 ヴィンセントは侯爵だからやらなきゃならないけど、エリーちゃんはやらなくていいんだ。

 ここまででも十分すぎるんだから。

 さっきの計画もよくできていた。でもそれは、エリーちゃんじゃなくヴィンセントがやればいいんだよ。

 ねえ、ヴィンセント。貴族ってそういうものだよね?」


 オットマーさんの視線を受けて、侯爵が頷く。


「その通りだな。

 先に言われちまったが、俺も今日その話をするつもりでいた」

「え? 中止ですか? オバ太郎がもう掘り始めてますよ?」

「いや、トンネルは掘ってもらわんと困る。

 そっちはダンジョン魔法士ギルドに出した仕事だからな。

 俺が言ってんのはトンネルができてからの話だ」

「避難誘導とか?」

「うむ。

 アッシャーの息子がお前んとこに行ったろう?

 あいつら以外にも実働部隊は用意する。

 それでも人が足りねえと思っていたが、お前たちが王都のギルドの協力を取り付けてくれたおかげで当てができた。

 だから、帝国が来る前にお前らは逃げろ。

 当日は俺ら大人でなんとかする」

「なるほど……」


 確かに、私がやろうとしているのは平民数人が背負うようなことではない。

 国や貴族がやるべきことだというのも侯爵の言うとおりだ。

 私に逃げろと言ってくれたのもありがたい。


 でもね、違うんだよ。


「お断りします。

 私はダンジョンの住人ですよ?

 そして、避難路はダンジョンの一部なんですよ?

 逃げる場所なんてどこにあるっていうんですか」

「そこは避難路と農場の地下街を隔離させるとかできるだろう?」

「できますけど、それなら避難が終わった後に入口を塞いだ方が良くないですか?」

「避難が終わるのを帝国軍が待つとでも言うつもりか?」

「でも、先に王城に行きますよね?」

「そんなことは決まっていない。確かに最大の狙いは王城だろうが、略奪を許された3千人の兵が街を襲わぬわけがないだろうが」

「え……?」


 侯爵の言葉を反芻し、私はようやく自分の勘違いに気付いた。

 私は、『選べよ』の最終3話を読んで、侵攻してきた帝国軍は街を無視して王城になだれ込むものと思っていた。

 そして、市街地を襲うことは、マンガに描かれた時間が終了した後の可能性としか考えていなかった。


 そうじゃなかった。

 マンガに描かれていたことは起こる。

 そして、マンガに描かれていないことも起こり得るのだ。

 現にマンガの登場人物である私は、マンガが終わっていない時間の中で、マンガに描かれていないことをたくさんしてきたじゃないか。


「……少し考えさせてください」


 そう言うのが精一杯だった。


「わかった。

 忘れているようだが、ここの地下街もダンジョン内だぞ?

 身の安全は保証するから、ちゃんと逃げてこい」


「ありがとうございます。

 ……ともかく、話を進めましょう」


 ショックだけど、だからこそしゃんとしなきゃ。

 今日の話はまだ途中なのだ。


「おう、いい心がけだ。じゃあ早速追加依頼だな」


 侯爵はニヤリと笑った。

 嫌な予感がするけど、今は逆にありがたい。


 オットマーさんが呆れる横で、侯爵はまたとんでもない依頼を出してきた。

 それは未使用のトンネル3本を避難民の受け入れ空間として改造するというものだった。

 そう、以前私とジジイが穴掘りタイムアタックをしたアレである。


 内容は、そこ全てを簡易居住スペースにすること。

 6キロトンネルの片側に約1200戸。一戸あたりの広さは50㎡くらいで、前世風に言えば一般的な2DKサイズだ。4・5人家族の避難場所としてなら十分である。

 それが道の両側だから2400戸、トンネル3本分で7200戸。受け入れられる人数は3万人以上となる。


「王都の人口20万のうち、貴族街と南側の住人が約9万。そいつらは当面放置な?

 そんでこれから裏で危機感を煽って残りの半分を早めに避難させるとすれば、当日残ってるのは5.5万。地方の実家とかに逃げるヤツを除いて、こっちに来るのは4万ちょっとくらい。

 ちょっと狭えが、とりあえず全員の寝場所はなんとかなるって計算だ。

 溢れたら街で受け入れる。宿を取れる金のあるやつはそっちでもいいし、そんでも足りなきゃ野営すりゃいい。

 春先だから雪が多少残ってるかもしれねえけど、凍死することはねえ」

「物資は僕の方からも出すよ。

 帝国軍が居座るようならヴィンセントと僕が兵を出すから、そんなに長くはかからないと思うよ?

 農民兵しかいない帝都をアレするって手もあるしね」

「というわけで、2月までにやってくれ。

 金は後払いになるが、この国と帝国の金庫から言い値で払う」


 つまり、3ヶ月で2DK7200戸作れと。

 ……なんだ、前世の感覚で一瞬ビビったけど、考えてみたらそんなでもないじゃん。

 1ユニットを作って、操作パネル上で「これをここからここまでびっちり並べて」って指定すれば楽勝。

 ――うん、気合が戻ってきた。落ち込んだら掘ればいいのだ。


「わかりました。ギルドで相談しますが、いけると思います。

 王都のトンネル工事完了後になるけど、年内着工で多分2週間くらいでできると思います」

「2週間だと?」

「はい、壁を掘るだけですから」

「……」


 お前ら、ダンジョン土建屋舐めんなよ?


「おじさん思うんだけどさ、エリーちゃんもたいがいアレだよね?」


 オットマーさん、そのアレは意味がはっきりわかります。

 遺憾です。

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