第57話
先に帰宅してまったりしていたら、遅くに帰ってきたマリアに、階層を明るくする方法を教えずに帰ったって文句を言われた。
知らんがな。飛び出していったの自分のくせに。
ノーラに教わって無事に入浴できたんならいいじゃん。
森のお風呂はすごくよかったらしい。
あえて夜明けみたいな薄明りにして、マーガレットさんと長湯をしたそうだ。
角熊のツーさんがお風呂の傍で丸くなり、いつもは草原で眠る森狼のモリーもやってきて、夢みたいな空間だったって言ってた。
羨ましいので今度マネしようと思う。
マリアは管理の仕事をしてきたけど、土魔法士としての腕も悪くない。得意分野は内装。
ただ魔力量が少なくて、思うような仕事ができないでいた。
でも、ダンジョン構築では個人の魔力量関係ない。
既に基本部分ができ上っている回廊型のエリアなら、オープンの時期も決まっていないから、時間もたっぷりある。
というわけで、サブマスマリアには、派遣用の魔物の訓練と研究に加え、回廊の造り込み全てを任せることになった。
私やジジイよりもセンスがいいのは明らかなので、将来の農場地下街の目玉してくれるじゃないかと思っている。
翌日はレベル4の情報をジジイと共有した後、土建ギルド門外不出の王都の詳細地図を見ながら、避難トンネル工事のルートと工法を決めていった。
王都は中央になる王城を中心に、台形の外壁に囲まれている。
南北は15キロ、東西は南が8キロで北が5キロ、貴族も平民も富裕層は王城から南側に住む。
つまり私たちがカバーするのは東西と北の地域となる。
まずメインの避難路で地下街化する東大通りを掘る。
通りの北側は私の家からそんなに離れていないのだが、直通はちょっと怖いので、侯爵領行きトンに分岐を作り、そこから大通り地下までトンネルを伸ばすことにした。
通りの北の端まで8キロくらいあるけど、ここはネズミ穴でいいので2日もあればできるはずだ。
地下街の作り方はファガードと同じ。道路直下なので地盤もわかっている。
工事は安請け合いしたジジイひとりでやってもらう。難しい作業ではないし、レベル4になって操作性も多少は良くなったので問題ないはずだ。
その間に私は反対側の西大通り下を掘る。ただし、帝国軍の侵攻ルートとなるはずの街道があるので、掘るのはその手前1キロあたりまで。
ここは地下街ではないのでトンネルのサイズはいつもの□3mだ。
これら東西2本のトンネルができたら、あとはその間を横道でつないでいくわけだ。
計画したトンネルを線で書くと、横長のいびつなはしごみたいな形になる。
結局、街中のトンネルは全部人が通れる大きさにした。
昨日思いついた「ネズミ穴+転移陣」という方法を使いたかったが、ジジイに却下された。
「転移陣使うとトンネルの長さが足りねえ。順番待ちで地上に人が溢れる。
あと、王都内の移動なのに何万人も転移させてコアの魔力は足りんのか?侯爵領に転移させんのを優先させねえとダメだろが」
と言われて何も反論できなかった。
おっしゃる通り。
電気が止まるかもしれない時は、エレベーターを使わない計画を立てなくちゃだよね。
工事のスケジュールを決め、ルートを記入した地図といっしょにマリアに届ける。
「なるほど、無理はなさそうね。
もうちょっと細かくスケジュールを切っておくから来週取りに来て。
ざっと見た感じ、3日くらいは詰められそうじゃない?」
昨日サブマスの仕事が増えたんだけど、鬼は元気だった。
ジジイは翌日から工事にかかった。
私は地下街の会議室を借りて、侯爵との会議に向けて資料のおさらい。
あのおっさんは、もう脅すことはなくなったけど、ちゃんと頭に入れておかないと嬉しそうにバカにしてくるのだ。
目がシバシバしてきたころに受付のお兄さんが来客を告げた。
侯爵からの紹介だと言って、私を名指ししてきたそうだ。
その侯爵対策の最中だというのに追加案件ですか。
まあ、今日来たってことは会議前に会っておけということなんだろうから、会うしかない。
会議室に入ってきたのは何回か見たことのある顔だった。
学園の一般生徒。
もちろん話したことはないし、「エリー」としての私を訪ねてくるくらいなので、カタリナバレは気にしなくていい。
印象も全く違っているはず。強制力さんに操られた悪役令嬢はもういないのだ。
私はエリー・スミス親方として彼と向かい合う。
「はじめまして。突然申し訳ありません。ライナス・アッシャーと申します」
まずこちらを。と言って、彼は侯爵からの紹介状を差し出した。
その場で読む。確かに侯爵の字だ。
ライナス・アッシャー。やはり私の元同級生だった。
王都の男爵の息子で、男爵は前に侯爵が言っていた「王都の侯爵シンパ」のひとりだそうだ。
ライナスは学園で侯爵派の工作員みたいなことをしているらしい。
反王室の生徒のリーダーっぽい立場なので、避難時のスタッフとして使ってほしいとのことだった。
うーん。下級とはいっても貴族だからなあ。
「なるほど。
だが、侯爵様から聞いてるかも知んねえけど学園は今回の計画に入ってねえぞ?
そこんとこはわかってるよな?」
「はい。もちろんです」
ライナスは生真面目な顔で頷いた。
「僕らは今、侯爵様からの指示で、平民街に帝国の噂をばらまいています」
「ああ、兄ちゃんたちがやってたのか」
「はい。学園で少し動いた後は、仲間それぞれの家の近辺で動いています」
「学園でもやったのか。王子とかに目ぇ付けられなかったのか?」
「はい。そっちは最初だけです。リリアの耳に入れたら勝手にばらまいてくれましたので」
「ああそうか。……確か、王子の取り巻きだよな?うちにいる学園の生徒から聞いたが」
簡単に納得しそうになって、慌てて修正した。危なかった。
「はい。取り巻きというか、お気に入りというか。
噂を使って邪魔な公爵令嬢を追い落として、今は学園の女王を気取ってますよ」
ライナスは皮肉っぽく笑った。
リリアはだいぶ嫌われているらしく、ライナスは小馬鹿にした口調で彼女の現状を教えてくれた。
どうやら第二王子の婚約者の公爵令嬢は退学したらしい。
その後リリアはさらに派閥を拡大して、一軍である王子一派の他に、王子公認で下級貴族からなる二軍まで組織化したようだ。150人くらいいるんだって!
「下級貴族の方には週一回顔を出して何やら演説をしていますね。一度見に行きましたが、宗教みたいな感じになっていて逃げてきました」
「教祖様かよ。すげえな」
「ある意味そうですね。
自分が噂を広めたのに、今じゃ白々しく『帝国の方とも心を込めて話合えば仲良くなれます』とか言ってます。
でも僕は、帝国が攻めてきたら信者を盾にして王子たちと逃げると思いますけどね」
爆発で退場するんだけどね。
ライナスチームは21名。下級貴族なのでメンバーの実家は平民街の中。南の住民もいない。
貴族だけど平民側の人たち。
具体的な配置は計画が詰まってからになるけど、誘導人員としては戦力にはなりそうだ。
引き続き連絡を取り合うことにして、顔合わせは終了した。
「じゃな」って軽く別れたけど、ジジババ以外の助っ人がいっぱいできて実はかなり嬉しかった。




