第56話
レベル3の時の教訓を活かして、今回は先に変更点を把握しておく。
工事当日の朝にUIの変更なんてのはもう二度とやだからね。
ちょっと薄暗いので階層全体の光量を上げると、木漏れ日がいい感じで手元に落ちてきた。
森の読書とかちょっと素敵かも。 読んでるのが取説じゃなきゃだけど。
まずホッとしたのは、操作性が大きく変わらなかったことだ。
これならいちいち調べないと先に進めないなんてことにはならない。
しっかり機能アップしている所もあった。
レベル3で苦労したトンネル掘る際の上下の角度の指定は、やっとここで実装された。
王都の場合、ほとんど平坦だからあまり出番はないってことを考えなければ嬉しくはある。
あとは登録できるオリジナルアイテムが増えるらしい。
説明によれば「より複雑な構造のものも登録できます」とのことなので、草原で使っている家具くらいなら、パーツ分けしなくてもいけるんじゃないかと思う。検証はあとでいいや。
だって、休業中の家具工場に昔ビリーたちが組み立てた在庫がたっぷりあるんだもん。
このふたつが、「あの時これがあったら」グループ。
魔物関連では、新しい魔物が7種追加された。
ノーラは早速角熊を召喚して、その背中に寝転がっている。
その他の魔物は結構微妙で、剣鹿は角が危険だし、海の魔物3種は海岸を作ってないから出せないし、虫と植物はそもそもノーラに興味がない。
まあ、熊は気に入ったみたいだから機嫌は悪くならないだろう。
もうひとつ、同一魔物を9体まで同時召喚できるようになった。
4層になれば普通は多くの冒険者がやってくるので、その対策なんだと思う。
でもうちのダンマスは、一種につき1体しか魔物を創らないのであんまし意味がない。
冒険者はたくさん来るけど、劇場で笑って、ごはん食べて、お風呂に入って帰るだけだし。
あ、森の中に露天風呂あったら気持ちいいだろうなあ。
まあそれは後で考えよう。
なんかどれもイマイチだなって思っていたら、ひとつだけこれからすごく役に立ちそうな機能を見つけた。
それは、マップ上で転移陣を設置できるようになったこと。
今まで転移陣が設置できたのは、立っている位置から500mまでだった。
侯爵領のトンネル工事では、一回掘るごとに切羽の後ろまで転移陣の片方を動かさなきゃならなかった。
でも今回の進化で、設置場所までの距離を考える必要がなくなったのだ。
例えばネズミ穴を長く伸ばした先に小部屋を作り、そこに離れた場所から転移陣を置くなどということもできる。
拡張は後でできるので、ネズミ穴でもなんでもとりあえず距離を掘ることを優先させた方が効率がいいのはわかっていた。
でも転移陣設置の手間がネックになっていたのだ。
それが解消されたのは大きい。
明日オバ太郎に相談するけど、工期が短縮できるのは確実だと思う。
これだけでも進化させた意味はあったと言える。
一通りチェックが済んだところで露天風呂を作って、ノーラと角熊と一緒に入った。
なんか熊ってお風呂に入っているイメージあるのよね。多分熊本の有名熊の影響なんだけど。
気持ちよかった。温泉じゃないけどこれで十分。
ノーラは、魔物合成のバグ技は使えなくなっていたとがっかりしていた。
そこ対処してきたのか。
まあできるのキメラかゾンビだからなくてもいいんだけど、ノーラの研究分野だからそのままでよかったのに。
でも、まだどこかにバグがありそうなんだよね。
進化条件に「累計入場者約33万3333人」とか書いてくるシステムだから。約とは?
なので「また新しい方法を探せばいいよ」って言っておいた。
ノーラの新しい研究テーマだ。
角熊の名前は「ツーさん」になった。角の先輩には兎がいるけど、ほんとに穴から出てこず存在しているのかすら不明なので、かぶる心配はない。
ノーラ一行と草原に戻り、私はマリアの事務所に顔を出す。
昨日の夜もサブマスの話をするのを忘れたから、思い出した今がチャンスだ。
じゃないと多分また忘れる。
マリアは、侯爵領に貸し出すゴブリンを訓練中だった。
「お邪魔?」
「大丈夫。見ての通り今はいっぱい複写して慣れてもらう段階だから、お茶を飲む時間くらいあるわ」
確かにビリーたち3人に比べると新人ゴブ2人のスピードは遅い。
でも、でき上る書類はカッチリしてるので侯爵領では即戦力になるだろう。
ちなみに侯爵領には先輩ゴブリンのバートも行くことになっているそうだ。
ハーミッシュさんに抱きついて泣いてた子。
「マリア、バートを向こうに送ったら、ハーミッシュさんを完全に取られるよ?いいの?」
「用がないなら帰ってくれる?」
「ノリが悪いなあ。
用事はあるよ? 重要なのが」
「何?」
「あのさ、ダンジョンのサブマスやんない?」
「は? サブマスはエリーでしょ? まさか辞めたいの?」
「違う違う、もう一人のサブマス。
レベル3になった時に枠ができたんだけど、話すの忘れてた。
あれ?でもレベル4になったのになんで枠増えないんだろ?」
「レベル4?」
「あ、そっちも言ってなかった。今日進化したのよね。あははは」
「アハハじゃないわよ。ちゃんと説明して」
「はーい。まず、サブマスからね」
私はサブマスの本来の役割が「階層責任者」であること、何ができるかはダンマスが決めること、レべル3で階層を増やした時に追加された枠が現在空席であることを伝えた。もちろんコアと一連托生になることも。
「じゃあノーラみたいに年を取らなくなるの?」
「そこは違うみたい。永遠のアラサーになりたかった?」
「なにその中途半端な呪い。まあ、ちゃんと年を取れるならなら断る理由はないわね」
「おけー」
マリアらしい。「かっこいいおばあさんになる」って言ってたもんね。
ダンマス承認案件なので、早速ノーラの研究所に行ってマリアをサブマスにしてもらう。
角熊に驚いたけど、レベル4の新モンスターだとわかると安心して毛並みを堪能した。
ツーさんは登場した時からほぼ寝てる。お風呂でも寝てた。
その隣ではモリーがお腹を見せている。
これがうちのモンスターのツートップである。
ダンジョンとしてこれでいいのかってちょっと思った。
「これで何人でも新しいゴブを呼び出せるのね。
他の魔物も何ができるのか調べてみたいのよね」
マリアがモリーの毛質をチェックしながらそんなことを言ってるので、役に立つ場所を見つけてくれることに期待しよう。
マリアがサブマスになったらまた新しいサブマス枠ができた。
前が埋まらないと出てこない仕様だったようだ。
まあ今増やしたばっかなので、しばらく保留。
ジジイを見て、ダンジョン操作と土魔法の相性がいいのがよくわかったから、ベンくらいの腕を持つ人がなったらいいなとも思うんだけど、それは今じゃない。
ノーラのことを考えれば、次に進化するのを待って、デレックさんとマーガレットさんにお願いする方が先かもしんない。
夜になったので草原を出て、マリアと農場の母屋に立ち寄り、ホプキンス夫妻に進化とマリアのサブマス就任を報告した。
森に露天風呂を作ったと言ったら、マリアが聞いてないと騒ぎ出し、話の途中でマーガレットさんといっしょに突撃していった。
あーあ。今真っ暗なんだけど。
ま、サブマスになったんだから自分でなんとかしなさいね。




