第55話
翌日。
ノーラと「研究のお手伝い」を約束していたので、私は草原に直行した。
ノーラはもふもふスライム「フォスラン」の創造を目指して研究を続けているのだが、どうもうまくいかないらしい。
話を聞いていると、ノックの音がした。
マリアかなと思っていたら全然入ってくる気配がなく、もう一度ドアがノックされた。
出てみたらメガネゴブリンのビリーが立っていた。
ビリーは「ギャ」と言って会釈し、ちょっとズレたメガネをクッと上げると、黙って書類を差し出した。
「私に?」
「ギ」
受け取って表紙を見たら、昨日の議事録だった。
どうみてもノーラの字なんだけど、これビリーが複写したやつだよね?
徹夜で仕上げたのか。
社畜っぽいけど、睡眠不要だからなあ。
「ありがとう」
「ギギ」
ビリーが会釈して帰ろうとすると、ノーラの手が伸びてツルツルの頭を撫でた。
「ビリー、お疲れ様」
「ギャッ!」
ビリーは一瞬ビクッと固まったが、すぐに何ごともなかったかのようにもう一度頭を下げ、自分の小屋に戻っていった。
ちょっとスキップしていて、ギャップ萌えた。
ああ、こりゃランキング入りするわって思った。
ソフィーからの指示を守って、議事録の中身を確認する。
今さらだけど、前世資料作成担当会社員の私から見ても、ものすごくよくまとめられていた。
議事録の前には1枚で要点がわかるサマリーが付けられ、それとは別に個人ごとのフェーズ別ToDoまでリスト化されている。
完璧。
あとはこれに肉付けして、受け入れ側である侯爵の計画と合体させれば、全体像が見えてくる。
侯爵との会議は1週間後だ。最初は11月末の予定だったが、地下街の工事が早く終わったので、日にちを前倒しした。
それまで少し時間はあるので、あとで議事録を読み込んで、私がやることをもう少し細かく書き出しておこうと思う。
私は議事録を収納に入れて、ノーラとの話を再開する。
ノーラから見せてもらった魔物リストには、最初のシマシマスライムの他に3つの「オリジナルモンスター」が登録されていた。
色違いのシマシマスライムが2種と、話にだけ聞いていた半透明のスライムっぽいオークだ。
バグ技を使って一定数出すとこのリストに登録されて、普通の魔物と同じように召喚できるとのことだ。
番号が「オリジナルモンスター1.3.4.9」と歯抜けになっているのは、登録後に削除したものが5種類以上あるためである。リネームできないのほんと不便。
ノーラが知りたいのは、「どうやったらフォスランを作れるのか」なのだが、それには魔物合成のルールを知る必要がある。
そこで、リストから削除した魔物も含め、これまでの成功と失敗の組み合わせを覚えている限り話してもらった。
魔物は、ダンジョンレベルから見ると3種類に分けられる。
最初から作れたスライム、レベル2で可能になったゴブリン、コボルト、オークなど6種、レベル3の森狼、レッサートレント、スケルトンなど7種。
このうちレベル3は、ノーラが一番多くチャレンジしたにも関わらず、一度も合成に成功していない。
つまり、現状では合成できない可能性が大だ。
成功率が高いのは、レベルに関係なく同レベル同士の組み合わせ。
ただシマシマがきれいなスライムと違って、ゴブ×コボ、オーク×コボなどの合成は、キメラみたいなものができるだけで、可愛さも有用性も足りないそうだ。 コボ×コボはただのコボだし。
一方、オーク×スライム、コボ×スライムは、グミ状の体を持つオークやコボルトができる。
ただし、感情も個性もないらしく、作ってもただボーっとして目でノーラを見るだけだということだ。
「命令するとやめるんだけど、そうじゃないとずーっと私を見てるの。怖い」
ではなぜグミオークだけ登録されているかというと、モリーのおもちゃなのだそうだ。
噛んでも引っ掻いても全く反応がなく、しかも傷はできた傍からふさがっていくので、モリーの運動不足解消にちょうどいいらしい。噛み応えも最高なんだって。
話を聞いて、多分こうじゃないかなという魔物合成のルールが見えた。
それはこんな感じ。
・魔物合成は、現在のダンジョンレベル未満の魔物でしかできない。
・同レベル同士の場合は、両者のパーツがキメラ状に合成される。
・ただし、知能や感情面はどちらか一方の魔物の特徴を引き継ぐ。
・上位の魔物に下位の魔物の特徴を付与することはできるが、その逆はできない。
・下位の特徴を付与された魔物は、知能や感情、痛覚、触覚が著しく低下する。ある意味のゾンビ化とも言える。
つまり、この先ダンジョンが進化しても、グミウルフは創れてもモフモフスライムは創れる可能性が極めて低い。
もし創れても、それは感情のないゾンビスライムみたいなやつだ。
「まだ確定じゃないけどね」と前置きして、私はノーラにその推測を伝えた。
目に見えて落ち込んだので、慌ててフォローする。
「でもダンジョンは何が起るかわからないから、進化すれば別の方法が見つかるかも。
だから研究はやめちゃダメだよ?」
「ほんと?」
「わかんないけど諦めないのが大事。進化したら新しい魔物も出せるようになるんだから、色々試せる――」
そこまで言った時、私たちの目の前に突然メッセージが表示された。
『ダンジョン進化条件を満たしました。ダンジョンレベルを上げますか? はい/いいえ』
「……! 進化だっ! やった! お姉ちゃん、進化きたっ!」
速攻ポチ。
……うん、この流れなら押しちゃうよね。
今までで特に危険はないことがわかっているけど、せめて一言確認するように後で注意しておこう。
まあ、いいタイミングだったことは確かだ。
「よかったね。これで新しい研究ができるね」
「うん!」
「でもその前に、危ないことはないか調べるからちょっと待ってね」
「わかったー!」
とりあえず進化条件を確認する。
「累計入場者数……」
「るいけー?」
「……あ、うん。ノーラはまだ行ったことがないけど、オバ太郎が侯爵領に地下街を造ったでしょ?
そこにたくさんお客さんが入ったんだと思う。
で、お客さんがいっぱい来たから、次の階層を造ってもいいよってなったんだね」
「そっかー。じゃあ次の階層を造ろ?」
「え? 今すぐ?」
「だって造らないと新しい魔物を出せないよ?」
「あ、そうだった」
前回はそれでむくれたんだった。
じゃあ、今回も前回みたいな極小エリアを作るかな。
追加された階層環境は「山」と「海岸」。
どっちも魅力的だけど広さを縮められないので、ここは既存の中から選ぶ。
「ノーラ、洞窟と草原と砂漠と森の中でどれがいい?あ、墓場もあるけど」
「森!」
即答だった。まあ他は全部あるからね。
予想通り、森のエリアサイズは変更可能だったので、極小サイズで作成した。
森というか前世の公園にある木が10本くらいの林。
草原を横切って、砂場砂漠の先にできた階段を降りる。
「おお……」
林だけど、雰囲気はまさに森だった。
木は全部大木で、地面には大きな葉っぱが落ちている。
座り心地の良さそうな切り株もあることだし、今日はここでレベル4の調査かな。
ノーラはもう新しい魔物の説明を夢中で読んでいる。




