第54話
2日後、私はダンジョン側の会議に臨んだ。
参加者は7名。ホプキンス夫妻とソフィー親子、マリアと私、そこに土建ギルド長の立場でジジイが加わる。
ジジイについては、協力してくれる各ギルドの代表として、私が出席を頼んだ。
なんだかんだ頼りになる。
今日会議をリードするのはスタンリーさんだ。
前回は仕事で出席できなかったが、私の手紙を受け取ってから、積極的に壁の内側の情報を集めてくれている。
そこに他の頭脳担当から新しい情報が追加される。
「……ふむ。じゃあ、こういう形じゃどうかな?」
スタンリーさんは全ての情報を整理し、避難実行までを「情報拡散期間、準備期間、当日」という3つのフェーズに分けた。
第1フェーズは、できるだけ多くの人に帝国の脅威を認知してもらう段階。
ただ、侯爵が流した噂が広がりはじめている現在、これ以上詳しい話をすれば貴族側に知られてしまう可能性がある。
それで中央の貴族が危機感を持ってくれればいいが、スタンリーさんの予想では話を否定しその出所を潰しにかかるだろうとのことだ。
下手をすれば王都から出ることを制限する可能性もある。
それはとてもイメージしやすい。
この地下街やホプキンス商会に目をつけられたら、計画は一発で破綻する。
つまり、私たちは情報を広げることにはノータッチでいくしかないということだ。
情報を流すのは侯爵やギルドに任せるしかない。
私たちにできるのは、情報の拡がり具合を確認しつつ王都地下に穴を掘ることのみとなる。
次に第2フェーズ。
これには一昨日のギルド長会議が関わっている。
宴会の席で、東の商店ギルド長の酔った頭が思いついた。
「ターローさーん、さっき東の大通りの地下にメインの避難路を作るって話したでしょ? それなら避難路じゃなくてここみたいな地下街にするってのはどうですかねえ」
すぐに西からクレームがつく。
「ドミニク君ずるーい。そんならこっちにも作ってほしい!」
「パメラちゃん、西からは帝国軍が来るんだから作っちゃだめだよー」
「あそっかー。じゃあそっちが先でいいよー」
「わかった。そんなん3日で作ってやらあ!」
酔っぱらいの打診を、酔っぱらいのオバ太郎がその場で安請け合いしてしまった。
傍で聞いていた私は頭を抱えた。
相手はついさっき協力を快諾してくれたギルドのお偉いさん。下っ端の安請け合いとはいえ、受けちゃったら断れないじゃん。
どれくらいトンネル作るかも決まってないのに何やってくれてんのよ。
って思ってたら、スタンリーさんはそれをあっさり計画に組み込んでしまった。
それどころか大喜びだ。
「オバノンさん、ほんとによくその場で決めてくれた。
これで私の心配がひとつ減ったよ」
「お、おう。エリーには散々嫌味言われたんだが、やってよかったのか?」
「もちろんだとも!
先に地下街ができて住民が一度でもそこに足を運べば、すごくいい訓練になるじゃないか。
作る理由も『侯爵領を参考にした』の一言で済む」
「なるほどな! どこぞのバカには思いつかねえ作戦だな!
副ギルド長もそう思うだろ?」
「うむ、その通りだな」
「……」
いちいち挑発に乗っている暇はないので副ギルド長っぽくスルーした。事実だし。
でも、それは確かに効果的だ。
たとえ行ったことがなくても、そこに地下街があるということを知っていれば、逃げ込む場所として思い浮かべることができる。
「じゃあ、その地下街ができたら、そこに『災害の際は地下街に逃げ込みましょう』っていう張り紙をしたらいいんじゃないかな?」
「それはいいね! さすがソフィー!」
「『災害』なんだから、それはうちの地下街に張ってもいいわよね?」
「おお! さすがマーガレットさん!」
いい意見がどんどん出る。私はどんどん賛成する係だ。
これによって地上には 、第2フェーズまでで、帝国の不穏な噂と、それとは無関係に「地下は逃げ込む先」というイメージが広がることになる。
地下では先行してメインルートが地下街としてオープンしており、私はその裏で他のトンネルを掘り進めればいいわけだ。
噂の膨らみ方によっては、この時点で王都を脱出する人もいるだろう。
どしどし脱出してほしいので、呼び水となるように、知り合いには先行して脱出してもらおう。
そして侵攻当日の第3フェーズだ。
私は、それまでに掘っていたトンネルをメイン避難路となる東の地下街に一斉に接続する。
それまではトンネルと地下街はネズミ穴の空いた壁で仕切られていて、最後にまとめて壁だけを消すというやり方だ。
地上の入り口も当日に開ける。
遠い場所には、地下に降りたところに転移陣を設定しておいて、地下街の先にでも移動できるようにするつもりだ。
「避難路の場所までの誘導は、各ギルドの担当?」
マリアがジジイに確認する。
「いや、基本は冒険者ギルドだ。足りなきゃ鍛冶ギルドが入る」
「そこから貴族に話が漏れる心配はないの?」
「メインは冒険者ギルドの緊急依頼でやるから、当日朝にしか情報は出ねえ。
鍛冶ギルドはそんなに人は要らねえはずだから、ギルド長が厳選する。
まあ、帝国軍が来てるんだから、多少漏れたところで問題ねえだろうがな」
「りょーかい。
じゃあ私はトンネル網完成までの管理をすればいいのね?」
「だな。任せた」
予想してたけど、自由にはさせてくれないのね。
もうマリアが副ギルド長にって、あ、マリアをサブマスにするの忘れてた。
けど、今言うとジジイがそっちの方がいいとか言い出しそうなので、後でこっそり話そう。
大まかな流れが見えた。
デレックさんは、当日の炊き出しを申し出てくれた。
可能性は低いけど、ここにも帝国軍が来るかもしれないから逃げてよって言ったら、「そうなったら余計にコアを守らないとなあ」って笑った。
そっか。万一コアを壊されたらノーラは死んじゃうんだ。ついでに私も。
なんか気合を入れらてた気がした。
危機感が足りなかった。
住民を逃がして終わりじゃない。
大切な人たちは守り切れるつもりでいたけど、強制力がなくなった後の帝国軍がどう動くかは全然わかってないのだ。
私は急いでそのことをみんなに伝えた。
なんかみんなポカンとしてるんですが。
「エリー、帝国軍が来るのは午後って言ったよね?
じゃあその日も営業中だから、避難マニュアルどおりにするだけでしょ?」
「マニュアル?」
「読んでないの? 2か月前に配ったんだけど」
「はい……」
長めのため息をついた後、ソフィーが説明してくれた。
「地上が危険になったら、ノーラが入口を消して、お客さんを外に出さないようにします。そのあと50人くらいのグループに分けて、ゆっくり草原に誘導します。
草原なら1000人くらい、しばらく楽にかくまえます」
地下街の避難計画はとっくにでき上っていた。
確かに入口を無くしてしまえば、帝国軍に侵入される心配はない。
よかった。草原シェルター、ちゃんと役に立ったんだな。
胸をなでおろしていたら、ソフィーが紙の束を差し出してきた。
「何?」
「マニュアルです。今読んでください」
「……はい」
ソフィーの敬語久しぶりに聞いた。
おばあちゃんになったら薬師ギルドのジンジャーさんみたいになるのかもって思った。




