第52話
「み、みなさん、今日はお集まりいただきましてありがとうございましゅ。……ございます!
ダンジョン魔法士ギルドのギルド長をはいめーしましたノーラです!」
公演終了後の地下街の劇場で、カチコチに緊張したギルド長の挨拶がはじまった。
私は舞台袖でそれをハラハラしながら見ている。
観客は最前列に並ぶ13人だけしかいない。
その全員がギルド長。王都の平民街に一定以上の影響力をもつ老人たちである。
南の商会ギルドなど、貴族や大商会の傘下に入っているいくつかのギルドは除外してあるので、彼らは言ってみれば王都の平民代表。
仲間に引き込めるかどうかが、避難計画の大きなポイントとなる。
もし上手く協力を取り付けられたのなら、帝国軍が来る前にかなりの人たちを王都外に避難させられるだろうし、当日避難を進める際の強力な助っ人になってくれるはずだ。
数の上でも緊急対応への経験の面でも一番重要なのはふたつの冒険者ギルドだが、そのうち北の冒険者ギルドのセオドアギルド長はすでにある程度の事情は知っている。
侯爵領までのトンネル工事の時にジョスリン・ライラ夫婦を紹介してもらった時に魔法契約も結んでいるため、協力を得るのは問題ないはずだ。
ノーラは用意した原稿を一生懸命読み上げる。
体が弱く、長くは生きられないと医者から言われていたこと。
でも発現した魔法の力で、健康を取り戻したこと。
両親が作った地下街で働いていること。
魔法の影響で外には出られないけど、魔物たちやお客さんがいるから寂しくないこと。
大人たちの手によって多少脚色されてはいるが、ノーラの生い立ちとまっすぐな言葉は、肝心の「ダンジョン魔法」の中身をほとんど話していないにも関わらず、ジジババの心を掴んだ。
言葉がつかえるたびに「頑張れ」と拳をにぎる老人たちには、耳慣れない魔法ジャンルと新ギルドへの警戒心は見当たらない。
「ギルド長になりたいって言ったのはノーラなんだから、最初のご挨拶はノーラがしなさい」
ノーラの開会挨拶は、マーガレットさんの一言で決まった。
私やジジイはノーラをつい甘やかしてしまうのだが、マーガレットさんは締めるところはビシっと締める。
そしてそれは、一筋縄ではいかないギルド長たちへの見事な先制攻撃につながった。
お母さんはさすがである。
腹黒い大人に毒されて心がすっかり汚れてしまった私がやったら、絶対こうはいかなかっただろう。
「みじゅきゅではありますががんばりますのでみなさまごしどーのほどよろしくお願いいたしますっ!」
挨拶を終えたノーラに、ジジババが大きな拍手を送る。
うんうん。最後もちょっと噛んだけどちゃんとできたね。
偉い! お姉ちゃんは誇らしいよ。
結果は12人の顔を見ればわかる。
全員既にメロメロである。
服飾ギルドのおばあちゃんなんか泣いちゃってるよ。
こうしてみると、ノーラの存在は本当に大きい。
特にジジババキラーの力は、魅了魔法でも使ってるんじゃないかなと思うくらいに圧倒的だ。
しかもダンマスは年を取らないので、この姿が永遠に続くのだ。
そこに魔物たちのパワーも加わるわけで、10年くらいしたらある意味世界最強になってるんじゃないかと思う。
ノーラはもうお店出ることはなくなったけど、地下街を魔物を連れて普通に歩いている。
地下街がオープンした当初は、お客さんが冒険者ばかりだったこともあって、魔物は何度かトラブルの種となった。
でもいつの間にかいて当たり前の存在になっているのは、ノーラの啓蒙活動のおかげだ。
お風呂上がりに差し出される冷たくてプルプルしたスライムは、魔物への恐怖なんか一瞬で消し去ってしまった。
やがてスライム以外の魔物も増えたが、ダンマスの気質を受け継いだのんびりしたやつばかりなので、怖がられるどころかファンを増やすだけだった。
屋台村の焼き菓子屋さんは、とうとうスライム型のクッキーを売り出した。
お店のメニューのとなりには、独自のアンケートを元にした魔物ランキングトップテンが張り出されていて、魔物推し活中の常連さんを一喜一憂させている。
ちなみに第1位は森狼のモリー。コボルト幼体のチビが時々それを逆転する。不動の3位はペールターコイズスライムのペタだ。
4位以下は色んな色のスライムの混戦状態だが、なぜかたまにコブリンのビリーが10位に顔を出す。
時々書類を届けに地下街を歩いているだけなのに、商店主のお客さんの間で「礼儀正しいし賢そう」と人気が上がっているのだ。
多分、文官っぽい制服と最近マリアに買ってもらったメガネの効果だと思う。
私としては古参のオー君にも頑張ってほしいのだが、彼は農場勤務なので残念ながらなかなか知名度が上がらないのである。
モリーは早くも冒険者ギルド長にもふられている。膝の上に大きな頭を乗せて幸せそうだ。
チビにこれができれば今の差はすぐに埋められると思うのだが、なんせ人見知りだからなあ。今日も出てきてないし。
こうして新ギルドへの警戒心を取り払ったギルマスは、役目を終えてステージを降りた。
続いて登場するのはジジイである。
「まあ、てなわけで俺はノーラちゃんを盛り立てていくことになったわけだ」
「ずりーぞ!」「俺も!」とか上がる声を制して、ジジイは続ける。
「そう言うと思って、お前らにもこのダンジョン魔法士ギルドに参加するチャンスをやろうと思う」
「参加するっ‼」
「コーニー、話を最後まで聞け。
ダンジョン魔法っつうのはかなり特殊で、現在俺を含めて使えるやつは3人しかいねえ。しかも、当分その人数が増える見込みもねえ。
でも、別に使えなくともノーラちゃんを支えることはできるだろ?
つうわけで、今から募集すんのは魔法の使えねえサポートメンバーだ。もちろんギルドが公式に認めたもんだからギルドカードは発行する。
ただし、会員になる際には魔法契約を結んでもらうことになる」
ギルド長たちの空気がスッと冷える。
まあ当然だよね。
ノーラファンクラブに入ろうと思ったら、いきなり魔法契約の話だもん。
なにかヤバいことに巻き込まれるんじゃないかって思うのはしょうがない。
ジジイもそれは予想していたようで、動揺することなく話を進める。
「なぜなら、ノーラちゃんの魔法を貴族どもに知られるわけにはいかねえからだ。
酔っぱらっても喋っちゃいけねえ。そのくれえすげえもんだと思ってくれ。
魔法契約はそれを守るためのもんであって、他に含みがねえってことは俺が保証する。
当然契約料もこっち持ちだから安心してくれ。
そんで、魔法契約を結んだやつにはこの後ノーラちゃんの魔法をその目で見てもらおうと思う」
熱が戻ってくる。
ジジイはニヤリと笑って、決め台詞を口にした。
「ギルドカードは契約と同時にギルマスから手渡しする。今日限定で歓迎の握手付きだ!」
ガタンと音を立てて、ジジババが一斉に立ち上がった。
私たちは13人の頼もしい援軍を手に入れた。




