第48話
侯爵家の馬車で丘の入り口まで送ってもらった後、改めて今日の成果を眺めた。
多少やらかしたことは認める。
明日からはもうちょっと大人しくした方がいいだろう。
ってことでやらかし納めしまーす。
私はまず、追加された3本のトンネルへの通路を分厚い壁で塞ぎ、「なかったこと」状態を作り出した。もちろん壁を消せば元どおりなんだけど、その権限を持つのは私とノーラだけに設定した。
つまり、4本目以降は私なしでは使えないのだ。
馬車の中で気付いたんだけど、ダンジョンってダンマスから所有権は動かないんだから、どれだけお金を払おうが侯爵のものには絶対にならないんだよね。
お金で買えるのはせいぜい使用権まで。
そのあたりは今までしっかり話したことはなかったから、近々ちゃんと契約を結んでおこう。
壁はその保険。
立ち合い人はまたカラムさん、じゃなくてナントカ牛子爵にお願いしたい。
ダンジョンの主はノーラだ。
ダンマスみたいなことができても、私はサブマスでしかない。
最優先はダンマス。そこは間違えちゃいけない。
でもまあ、そこまでひどいことにはならないとは思う。
今日の諸々で、信頼関係は固まったはず。
強引なところはあるが、侯爵が貴族としても人としてもまともであることは確かだ。
ダンジョンに危害を加えないことを約束するなら、使用料は侯爵が死ぬまで無料でもいいと思う。
「敵対しなければほとんど自分のもの」となるなら侯爵もNOとは言わないはずだ。
なんせ私は怒るとスタンピードを起こすらしいからね。
さて、では今日の〆といこうかな。
やるのは残った3本のトンネルの拡張である。
3m角のトンネルは出来上っているから、あとはその横幅を6mに拡げるだけだ。
こっちは地上の距離を考える必要はなく、単純な亜空間の拡張なのですぐできる。
操作盤で横サイズを指定してポン。
あっけなく終わったので、道の中央4mをちょっと凹ませて、黒い石畳柄の車道にする。両脇の1mは浅い茶色の煉瓦柄にした。
他の2本はこれを繰り返すだけ。
「できたー」
なかなかいいんじゃないでしょうか。
黒と薄茶のコントラストが美しい。
これ、ジジイがやりたがっていたからね。
ま、軽い嫌がらせだ。
もちろんこれで終わりではない。
7才の時とはいえ、現場で蝙蝠に驚いてチビッったのを暴露された女子が、そう簡単に許すと思ったら大間違いだ。
翌日、朝起きて昨日のことを思い出す。
大丈夫、全部覚えてる。
多少酔っていたのかもしれないけど、やったことに後悔もない。
少しだけ頭が重いけど、ヘドバンでもしない限り問題ないので、現場に向かう。
着いたら昨日の3人組がボーっと突っ立って完成した道路を見ていたので、ジジイの背後に忍び寄る。
お酒臭いのを我慢して、私の頭に響かない最大音量で元気に挨拶する。
「おはようございまーす!」
「うっ……」
ジジイは頭を押さえてうずくまった。
お貴族様ふたりは高級酒に慣れているのか、割と平気そうだ。
「おう、おはようさん。
これ、お前がやったのか?」
「はい、昨日帰る途中で。
下っ端が飲み過ぎで使い物にならない気がしたので、それを見越してってとこですね。
あと2本もできてますよ?」
それっぽい理由を言っておく。
「そうか、ご苦労。
それで、追加で掘った3本ってのはどこにあるんだ?」
「あ、それならあの壁の向こう側です。
当面使わないのなら、封鎖しとかないとですよね。
誰かが迷い込んだりしたら困りますから」
それっぽい理由R。
「わかった。
で、もうここまでできてるってことは、完成は早まりそうだな。
どのくらいでいけそうだ?」
「そうですねえ、そこで死んでる新人次第ですけど、細かいところの構築は私より上手いですから、トンネル一本あたり1週間あればなんとかなると思いますよ?」
「全部で3週間か。お前が言った半分じゃねえか」
「まあふたりになりましたらね。
嫌なら間に休み入れて調整しますけど」
「お前、ほんとに遠慮しなくなったな」
「やだなあ、それだけ信頼してるってことですよ」
「そういうとこな?
カラム、笑ってねえでなんか言え」
カラムさんは引き続き機嫌が良さそうだ。
「じゃあよ、でき上った順に入居を解禁したらどうだ?
その分オープンも早まんだろ」
「うん、有りだな。
今年は雪が早そうだから、領民にも早めに慣れてもらった方がいい」
「それにオバ太郎がいるうちなら、使ってみての意見とかも反映できるしな」
「そりゃいいな。
よし、んじゃ工事はじめてくれ」
私はすぐに担当に振る。
「かしこまりました。ほら新人、さっさと動け。
昨日渡した図面どおりだから、問題ねえよな?」
「ううう……」
「うううじぇねえんだよ。前の日に飲み過ぎたとか仕事を休む理由になんねえって土建ギルドのギルド長が言ってたぞ?」
呻きながら立ち上がった新人は、そのままトイレに直行した。
ちなみにここから最短のトイレは500キロ先の工事事務所にある。1分で着く。
戻るかどうか3人で賭けたが、ジジイは20分後根性で帰還した。私とカラムさんは銅貨一枚ずつ儲かった。
20分の間にポーションか何かを飲んだようで、ジジイはだいぶしゃんとしていた。
「お前、勝手に道作りやがって」とかブツブツ言うので、「いいから早く仕事しろ」と尻を蹴とばしてやった。
ジジイはダンジョンをいじりだしたら一瞬でヲタモードになった。
笑顔が若干キモいが、図面を見ながらサクサクと壁を変形させてゆく。
手際の良さに侯爵たちも目を奪われている。
問題なさそうだ。
「んじゃ、私は帰ります」
「え? 帰んのか?」
侯爵がびっくりしてるけど、私の仕事はもう終わってるからね。
「はい。私は昨日の夜に道路作りましたんで。
こっから先はオバ太郎の担当です。
ちょこちょこ見に来ますが、急ぎの案件が出たらオバ太郎に言ってください。直接事務所に来てもらってもいいです」
「わかった。
見てる限りそんな緊急事態は起こりそうもねえが、なんかあったら呼ぶわ」
「よろしくお願いします」
ダンジョンの亜空間の拡張は自然相手の土魔法ではない。
つまりUIの使いにくさ以外の問題など起こりようがないのだ。
ノーギャラでもダンジョンで働きたい腕利きの新人は、定時退勤などガン無視で工事を進めた。
1本目の地下街、約220区画をわずか5日で完成させると、「すっげえ面白え!」と休みを拒否して残り2本も9日で仕上げてしまった。
工事完了までの時間は計2週間だった。
オバ太郎の勢いはそれでも衰えず、今度は入居のはじまった店舗や事務所を一軒ずつ回って、個別対応まではじめた。
入居者からの驚きと感謝の声を浴びて、ジジイのやる気はさらに上がる。
どんどん街並みのクオリティーが上がるので、侯爵と私は呆れながらも放置した。
侯爵の機嫌のいい時を見計らって、例の所有権がらみの話もできた。
侯爵の反応は拍子抜けするほどあっさりしたものだった。
「言われてみればそうだな」の一言。取り込むつもりは完全になくなったようだ。
「ダンジョンへの敵対行為の禁止」を盛り込んだ魔法契約も無事結ばれた。
こちらの言い分を受け入れてくれたお礼に使用料は100年間無料とした。
魔法契約は絶対。
これでノーラの安全が一世紀保証されると思えば安いものである。




