第46話
「クソッ、なんで指定できねえんだよ!」
ネズミ穴工法がうまくいかなかったので、新人ダンジョン魔法士オバ太郎君がご立腹である。
全然ダメだったわけではなく、中途半端な長さまでしか距離を伸ばせなかったのだ。
指定できたのは「999999mm」まで。7桁入力はできなかった。
ノーラが発見したバグ技といい、こういうレトロゲーっぽいのが好きなのかな。
「な? だから言っただろ?
言っとくけど、これでもだいぶマシになったんだかんな?」
「そうなのか? クソだな!」
「そのうち慣れる」
でもまあ距離が約1キロ掘れるならいいか、っていう話でもない。
新しい掘削のためには切羽に行く必要がある。始点の座標指定なんかできないからだ。
ということは、ネズミ穴を拡張しないと次のトンネルが掘れないことになる。
では「約1キロのネズミ穴を掘って拡張する」と「350mの完成形を3回掘る」のどっちが効率的かというと、圧倒的に後者の方が楽なのだ。
途中で工具を持ち替えるより同じ工具でちゃっちゃと進めた方がいい、って感じ。
しかも、350mは初日だから控えめにしていただけで、別に500mにしても問題ないし、街の地下の短距離掘削ならば、なおさらネズミ穴を作る意味はなくなる。
ちなみに地盤が固いと指定できる距離は短くなることは、これまでの工事でわかっている。
感覚的なものだが、昨日掘ってみた感じでは、今回□3mで掘れる距離は600mくらいが限界な気がする。
調べてみてもいいけど。
「どこまで伸ばせるかやってみっか?」
「意味ねえだろ。そこ調べんなら500でさっさと掘っちまった方がいい」
うん。私もそう思う。
というわけで、2本目のトンネルを掘る。
昨日のトンネルの入り口から左に横穴を30m伸ばしたところがスタート地点だ。
トンネルの両側には奥行き10mのテナントが並ぶので、トンネル同士の距離は多少余裕を持って30mとした。
横穴で角度の調整はできているので、あとは0度指定で2.8キロまっすぐ掘るだけ。
「指定これでいいな?」
「ん。OK」
コマンドの数値を確認し、ジジイが実行ボタンをタップする。
まず500m。
転移陣を切羽に設置して移動。
あとはそれを4回繰り返して、最後に300m。
「すげえ! 20分かよ!」
別にチェックをおろそかにしてるとかもないのに、昨日よりさらにスピードが上がっている。
トンネルができた直後に私が転移陣を置いて切羽を確認。そこにオバ太郎が転移してきて次の準備にかかる。このルーチンが流れるように繰り返される。
土魔法士として何回も同じ現場に出ているので、話も「方向ズレは?」「ねえ」くらいの短いやり取りで済んでしまう。
つまり、タイムロスがほとんど発生しないのだ。
「魔力の心配しねえでいいっつうのは最高だな!
よし、最速記録狙うぞ。
昨日は2時間っつったっけか?」
「うん。そんくれえだな」
「んじゃ1時間だな!」
いや、そういう競技じゃないから。
でもまあ、やる気になってるのに水を差すのもなんなので好きにやらせた。
その結果。
「くそっ! 14分オーバーか!」
新記録74分達成しました。
「やっぱ、アレだな。
最後の道が細かく折れ曲がってるところで確認に時間食っちまったのが敗因だな」
「だな。掘る前にいちいち地図見てたからその分遅くなっちまった」
「んじゃ、まずはじめる前に地図頭に叩きこんでおこうぜ」
「おう。んで俺が着いたと同時に、お前が次の数値を伝えろ。そんで確認したらすぐ掘る。
そしたら地図見てる時間分、まるっとタイム縮められる」
「おっしゃ。地図見んぞ」
地図を頭に叩きこんだ私たちは、気合も新たに次の穴掘りに取りかかった。
もうね、すっごい楽しい!
世界記録55分を打ち立てて、私たちが意気揚々と侯爵の元を訪ねたのはその日の夕方だった。
「……。で、6本掘ったと。
カラム、どう思う?」
「バカだな」
お久しぶりのカラムさんが、クツクツ笑いながら言った。
私たちが来た時には、騎士っぽい服を着てソファでグデっとしたけど、ちょっと元気になった。
それはよかったけど、世界記録保持者に対してバカとは何ですかバカとは。
何か言ってやんなさいって横を見たら、ジジイは神妙な顔で縮こまっていた。
沸き立っていたアスリートの血がスーッと引いてゆき、脳が現実を認識しはじめる。
「で、エリー。責任者はお前だったよな?」
侯爵が平坦な声で尋ねる。逆に怖い。
「そうです……」
これはジジイが悪い。私も悪いけど、主にジジイが悪いと思う。
「で、どうすんだ?」
「早急に埋め戻してきます!」
「ブフォ!」
立ち上がったとたん、カラムさんが吹いた。
「自分から嬉しそうに報告に来といて、なかったことにしようとすんのか!
すげーな!」
「いや、それが一番後腐れないし」
「あと腐れ!」
カラムさんがなんかツボってるけど、じゃあどうすればいいわけ?
「座れ。埋め戻さなくていい」
侯爵がそう言ってこめかみを揉んだ。
なんか言った方がいい?
「えと……、お疲れですか?」
「てめえのせいでな‼」
カラムさんがまたツボった。
うん、今のはわかった。私が悪い。
でも口が勝手に喋るんだよ。きっと強制力さんのせいに違いない。
その後、侯爵から延々と説教された。
それだけ早く進んでいるなら、昨日の時点で報告しろ。
一本掘れたなら俺に確認を求めるのが筋だ。
もっと掘りたいなら掘りたいで事前に許可を取れ。
ごもっともでございます。
追加で掘った3本のトンネルは、問答無用で没収された。
地下街は将来的に拡張を考えていたので、それに使うそうだ。
埋め戻して新規工事を受注した方がよかったじゃん!
「俺が交渉してやる」とか豪語してたオバ太郎君は使い物にならなかった。
そのオバ太郎は侯爵から話を振られてやっと動き出した。
「しかし、オバノンはさすがっちゃさすがだな。
6キロトンネルを1日で5本掘るかよ、普通」
「……普通じゃねえですよ。普通じゃねえから年甲斐もなくはしゃいじまったんですわ」
「Aランクでもそうなるのか。
すげえなダンジョンは」
「あ、そういうわけで、俺とエリーともう一人でギルド作りましたんで、今度から依頼はそっちに頼んます」
あ、ギルドの話もまだだった。オバ太郎ナイス。
「ギルド?」
侯爵の頬が一瞬ピクッとした。
「はい。さっき侯爵様Aランクって言いましたけど、土魔法士のAランクでもダンジョンは理解できねえんです。
そりゃ使える知識は多いですが、ダンジョンをいじるのは土魔法とは全く別のものなんすわ。
独自の『ダンジョン魔法』っつうわけですな」
「なるほど」
「で、ギルド名は『ダンジョン魔法士ギルド』。これからよろしくお願いしますわ。
俺が一番下っ端なんで、細けえことは俺に言ってください
今回たっぷりサービスしたんで、次からはしっかり儲けさせてくださいよ?」
復活したジジイはそう言ってわざとらしい笑みを浮かべた。




