第44話
とりあえず工事を進めてしまおう。
私が先にトンネルを掘っておいて、ジジイをこき使う場所を作るのだ。
掘るのは6キロのトンネルが3本。
1本のトンネルの幅は6mでその両側に奥行き10mのテナントが並ぶので、横幅は26mとなる。
まず中央の一本を通し、その左右に同じものを1本ずつ掘る計画となっている。
今回、トンネルは遠慮なく地上の道の真下を通る。
領主公認だし、道は平坦で直線だし、地盤は調査済みだしで、気を遣う必要がないので楽だ。
早速道となる部分を掘りはじめる。
道は高さ3m幅6mだけど長方形は指定できないので、まず3m×3mのトンネルを通しそれを横に拡げることになる。
上下方向の指定が必要ないので、最初に道と同じ角度を指定したら、その後はひたすらまっすぐ進めばいい。
入力するコマンドは「□3500mm,14°,350000mm,straight」。
軟化担当がいないので長さはちょっと控えめ。
でも私一人なので掘る前の準備時間がなくなるので、連続して進められる。
私の魔力を使っているわけでもないので、魔力切れを心配する必要もない。
8回連発して2.8キロ完了。
この先からは街の地下に入り、一直線というわけにはいかなくなる地上の道に合わせて、長さの指定が細かくなる。
でも、侯爵からもらった詳細な地図があるので、地上を確認することなく淡々と進めるだけだ。
残りの3.2キロを掘るのには16回。
……どうしよう。終わっちゃった。
2時間かかってないんですけど。
もっとチマチマ進めるつもりだったのに、あんまりサクサクいくもんだから調子乗っちった。
困ったなあ。
これ今報告すると、じゃあ一日で全部掘れとか言われるよね?
うーん。夕方に「一本目の半分くらいまで掘れました」とか報告するかな……。
いや、ダメだ。「じゃあ確認する」って見に来られたら終わりだ。
埋め戻すのも違うし……。
……バックレよう。
そうそう。やることやったんだから問題なし!
別に毎日進捗を報告する約束なんかしてないんだし。
あ、帰ってジジイを働かせる段取りをつければいいんだ。
このペースだとあっという間にテナント部分の作り込みになるから、そこでオバ太郎投入だ。
つまり、私はサボるんじゃなく仕事をどんどん先に進めているのである!
完璧! 私、今日頭いい!
ついでに中抜きの件もゴリゴリ問い詰めるですよ!
「そんじゃ、お先に失礼しまーす!」
私は無人のトンネル先端でそう宣言して、お昼前に地下街へ戻った。
屋台村で昼ごはんを食べて、オバ太郎がいるはずの草原に向かう。
オバ太郎は水耕栽培施設の前でデレックさんと話していた。
熱く語るデレックさんに、感心したように頷いている。
「なるほどなあ。そういうダンジョンの使い方もあんのか」
「そうなんだよ!
商会のみんなとも話してるんだけど、来年には近所の農家にも声をかけて、生産量を増やせたらなあって考えてる」
帝国の問題が片付いたら、ダンジョンの情報は公開する方向だ。
そうなればこのダンジョンは、この王都郊外にしっかり根付いてくれるだろう。
今までの実験結果を踏まえて、地上での収穫が終わったこの秋から、農場の野菜は本格的にダンジョン栽培となることが決まっている。
「お?お前なんで居んだ?
なんか問題でもあったか?」
私に気付いたオバ太郎が、ちょっと驚いたような顔で言った。
「いや、予定より工事が進んだから上がってきた」
「上がってきたって午前中しかやってねえじゃねえか」
「そんでも6キロ掘ったんだから十分だろ」
「6キロだあ?
ああ、でも3か月ちょいで500キロ以上掘ってんだからいけんのか」
「そういうこった」
あの時より条件整ってるしね。
「そんじゃこの後暇だよな?
ちっと話があんだよ」
「そか。こっちも話があっからちょうど良かった」
「んじゃ、とっととやっちまうか」
元文官事務所、現オバ太郎事務所では、ゴブリンたちが仕事をしていた。
書き写しているのは水耕栽培のマニュアルのようだ。
近くで見るのははじめただけど、イラストまできっちり写している。
元の書類の上から、文字も絵も関係なく進めているので変な感じだが、前世のコピー機と同じだって気付いた。
これはもう特殊技能だよね。なんか感動した。
「そんでよ、ここ2日ダンジョンいじってみて思ったんだけどよ、これギルドで扱う仕事じゃねえや」
会議室の椅子に座りなり、ジジイはそんなことを言い出した。
「だってよ、ギルドは仕事の中身がわかってっから、依頼のランクが決められるわけだろ?
そんで、その仕事が失敗しねように職人と一緒に責任を持つわけだ。
だけどこのダンジョンの工事は、なんでそうなるのかギルドでわかってるやつがひとりもいねえんだよ。
同じ穴掘りだし、エリーはうちの所属だからってことでギルドが間に入ったが、ギルドの出る幕じゃねえ。
てなわけで仲介料は返したから、あとで口座確認しとけ」
私が何も言ってないのに、もう返したとか意味がわかんない。
「おかしくない?
せっかくたっぷり中抜きできたのに、それを自分から返すとか。
あ、もしかして侯爵から圧力がかかったとか?」
「違えよ」
ジジイそう言って、呆れたようにため息をついた。
「あのなあ、仲介料は中抜きじゃねえからな。
依頼を受けんのは職人個人だけど、仲介するギルドもちゃんと仕事してんだ。
さっき言ったよな、ギルドは責任持つって」
「うん」
「受けた依頼が失敗したらギルドでケツを拭くし、依頼主が難癖つけるようならぶん殴ってでも金を回収する。
職人が仕事中に足の骨でも折ってしばらく依頼が受けられねえってなったら、何ヶ月か生活の面倒を見る。
仲介料はそのための金だ。
ランクが上がればその割合も高くなる。
お前がBランクの試験受ける前に説明しただろうが」
んー……。覚えてないなあ。
まあどうでもよかったんだろうな。何せ子供だったから。
でも仲介料の意味はわかった。
だから、所属ギルド以外から仕事を受けられなかったんだ。
「ま、今覚えたから」
「ったく……。
まあいいや。ともかく、土建ギルドはもう関係ねえ」
「わかった」
話を聞いたら別にこのままでいいやと思ったけど、ギルドで工事技術を理解できないのならしょうがないね。
となると、金額交渉も私がするのか……。
「めんどくせえって顔だな」
「そりゃそうでしょ。
さっきの中抜きの話だって、侯爵から聞いたんだよ?
完全に私を取り込もうとしてるよね?」
「なるほどな。まあ頑張れ。
口出ししねえ」
「薄情だな」
「まあ土建ギルドとしてはな」
ジジイは私に意味ありげな視線を投げた。
「そこでだ。新しいギルドを作るってのはどうだ?」
話は斜め上に拡がった。




