第42話
ノーラ研究所を出て、これまた久しぶりにコア部屋に向かう。
ノーラが頑張っているのを見て、私もたまにはサブマスの仕事をちゃんとしなきゃと思ったからだ。
私にはダンジョン内に個室がないので、一番集中できる場所がここになる。
私は薄青く光るコアの前に陣取り、ずっと手を付けていなかったレべル3の機能調べをはじめた。
これまでの経験から背景と同系色で極小のヘルプマークを探せばいいことはわかっていたので、まず書いてある場所がわかっている「レベル3への進化条件」を調べることにした。
書いてあるのはレベル確認画面のヘルプ。
ヘルプマークの位置は前と変わっていたが、多少大きくなっていたのですぐ見つかった。
説明を読んで「うわ、あっぶな」って思わず声が出てしまった。
進化条件はダンジョン内の魔力濃度だった。
コアで吸収しきれずダンジョン内に滞留する魔力の濃度。それは現在、侯爵領へのトンネルを大きく伸ばしたことによって下がっており、トンネル工事開始前のあの時を逃したら、進化条件をクリアすることはできなかったのだ。
新しい魔物見たさにすぐに進化させたがったノーラがいなければ、私は先送りしていた可能性が高い。ということは前回の進化に続き、またもやノーラの大金星ということになる。
うちのダンマスは、じつはとんでもなく持ってる子なのではないだろうか。
実はあの新魔物の研究が次の進化条件だったりすることも十分ある気がしてきた。
期待は高まるばかりだ。
だが、盛り上がった気持ちは次に読んだ「ゲーム機能の更新」っていうので一気にしぼんだ。
今までゲームらしきものなんかなかったよなあと思いながら確認したら、「ヘルプマークをさがせ」っていうタイトルが出た。
レベル3から大きさと表示位置がランダムで変わるそうだ。あれゲームのつもりだったの?
久しぶりに画面に向かってキレた。
そのクソゲーのおかげで残りを調べるのに4時間かかった。半分はヘルプマーク探し。
まあね、割とちゃんと進化していた部分もあったら後半は落ち着いたんだけど、しばらく怒りが収まらなかった。
で、その進化した部分で一番大きかったのはダンジョン運営の部分だ。
サブマスターの登録可能人数がもう一人増えた。
説明によるとサブマスターに想定された役割は「階層責任者」のようなものだった。
ダンマスから権限移譲されてほぼダンマスと同じことができる私は、「代表取締役副社長」って感じかな。前世の家の近所にあった肉屋さんの奥さんだね。
いつも端数をおまけしてくれるいい副社長だった。
もうひとつ、ダンマス直属の新役職として「ダンジョン構築補佐」というのも追加されていた。
これは、ダンマスの認めた既存階層で、許された機能のみを使ってダンジョンの拡張ができるというものだ。
新階層は作れないし、できることは限られるし、ダンジョンコアが壊されると死ぬというちょっと微妙なポジ。
もしうちのダンジョンで導入するとすれば私の下につくことになるだろうが、それなら素直に同格のサブマスになってもらいたい。
サブマス候補としてはホプキンス商会でいえばマリアかソフィーかな。
マリアが適任だけどハーミッシュさんとどうなるかによっては頼めるか微妙。
ソフィーは地下街の広報担当だから、ダンジョンの構築はちょっと違う気もする。
まあ、急ぐ話じゃないから、落ち着いたら本人に聞いてみよう。
機能面はトンネル工事でかなり触ったこともあって、もう知っていることも多かった。
魔物リストにノーラが作ったミックススライムが「オリジナルモンスター1」と登録されているのを見てちょっと凹んだくらいだ。ほんとにリネームできるようにしてほしい。
あとは、砂場を作った時に気付いた第1・第2階層の改造自由度のアップも確認できた。
前に円筒形と半円を組み合わせて作ったドームも、パネル上のサンプルから一回で指定できるようになったし、苦手だった細かい部分の指定もできるようになっていた。コピペもOK。
これで地下街の作り込みもしやすくなるはずだ。
機能調査を終えて、シバシバした目を休めるために草原に戻った。
緑が目に優しい。
「なあエリー、ダンジョンコアってどこで見つけたんだ?」
ボーっとしていたらいきなりジジイに話しかけられた。
今日の引き継ぎは終わったらしい。
「コア? 平民街の古い屋敷を壊したときかな」
「そっか。俺も探してみっかな」
ノーラの真似してダンマスにでもなるつもりか?
「ダンマスになんのか? そしたらノーラに会えなくなるぞ?
ダンマスはダンジョンから出られねえからな」
「マジか? じゃあなしだな。
んでもなあ、ダンジョンはいじってみてえんだよな。ベンから工事の詳しい話を聞いてすげえお前がうらやましくなった」
……あ! ダンジョン構築補佐見っけ!
A級土魔法士の腕があって、こっちで権限を管理できて、ジジイだから死んでも寿命が来たと思えば納得できる。
ぴったりじゃん!
私は何気ない口調で言った。
「じゃあ、やってみっか?」
「マジか!」
食いついてきたジジイに話したら大喜びで了承したので、その場でノーラを呼んでダンマス承認をもらった。
よしよし。私の下で死ぬ気で働いてもらおう。
下っ端の気持ちをたっぷりと味わうがいい。
翌々日、私が久しぶりの完全休日で寝ている間に1日で引継ぎを終わらせたジジイは、早速私の監督の下、地下街の拡張を行った。OJTってやつね。
もちろん拡張してもすぐに稼働できるはずはないので、将来を見越して箱だけ作っておこうという考えである。
出店希望は相変わらず来ているようなので、いいタイミングでテナント募集をはじめればいい。
ジジイはA級土魔法士の腕を発揮し、あっいう間にダンジョン拡張のコツを掴んだ。
銭湯の休憩所の裏側から6キロトンネルと2か所でつながる回廊型の地下街の原型を、初操作からたった1日半で作ってしまった。
細かい部分はこれからだが、このままでも十分使えるクオリティーだ。
後ろで見ていてすごく参考になった。
そこで私は気づいてしまった。
侯爵領の工事もジジイにやらせればいいんじゃね?
大きく心が揺れたが、昨日の今日で大仕事を任せるわけにもいかないので、ひとまず工事の最初は私が行くことにした。あとは様子を見て。
侯爵領への出発前日の夕方、私が各所にあいさつしていると、ハーミッシュさんがやってきた。
ゴブリン使いの人だ。
他の人は今日戻るのだが、彼は明日の朝私を侯爵のお城まで案内するということだった。
私を待たなくともいいのに言ったら、「確実に連れてくるようにツィードベリーから言われております」と返された。
あ、そういうことでしたか。
ジジイに丸投げしなくてよかった。
侯爵を「ツィードベリー」と呼び捨てにしたのが印象的だった。
うん、普通そうだよね。身内に様付けとかどうかと思うもん。
そう言えば『選べよ』では敬称は全部「様」だった。王は「陛下様」で王子は「殿下様」。
アホだなあ。そんなんだから薄っぺらさが増すんだよ。
マニアはネットに「テンプレとバカとガバ設定の絶妙な融合」とか書いてたけど。
まあどうでもいいや。
明日からはまた長期の現場だ。
バタバタだったけど、割といい準備はできたと思う。




