第40話
メシ食って泊っていけとうるさかったが、「それは予定に入ってません。臨機応変とか無理なので」と振り切って、職人街に戻った。
翌日、私はすぐに頭脳担当の面々に状況を説明し、協力を要請。すぐに会えない人には手紙を書いた。
期限は侯爵領の工事が終わる予定の11月初旬としたから、結構余裕はある。
マリアはいつの間にかゴブリンに複写を教えたハーミッシュさんという文官さんといい感じになっていた。ゴブ好き同士、話が合うのかもしれない。
ハーミッシュさんは穏やかな人だし、世界にゴブ好きはそんなに多くないと思うから、姑が大丈夫ならいい物件なんじゃないかな。
お邪魔になっても申し訳ないので、簡潔に要件を伝え、「頑張ってね」と囁いて帰ってきた。
マリアが「は?」っていう顔をしていたけど、そんなとぼけなくてもねえ。
ふたりでいい避難案を考えてくれることに期待しよう。
その翌日は安息日で、元々ソフィーに色々報告することになっていた。
話すことは増えたけど、他に予定は入れていないので一日中話せばいい。
忘れないうちにと、最初にソフィー父、スタンリー・ターナー男爵宛の手紙を渡した後、トンネル開通前のあたりから溜まっていた報告をした。
山の村に行ってからまだそんなに経っていないのにね、ってソフィーが遠い目をしたけど、ほんとにここ最近の時間は早く流れ過ぎだ。
打ち上げの話を聞いたソフィーが行きたがったので、お昼は骨屋で食べた。
私は日替わりのレッサーコカトリストマト煮とパン、ソフィーはボアのグリルセット。
セットにはボア骨スープがついてきたけど、ソフィーの初酒場なので耐えた。
ソフィーが微妙な顔をしているので「失敗した?」って聞いたら、「美味しいけど、山の村のに比べると……」って答えが返ってきた。
ソフィー、それは比較するものが間違ってます。
トマト煮は美味しかった。
午後もダラダラ喋って、最後の報告は侯爵との会談の話。
ソフィーにも避難計画のアイディア出しをお願いする。
「わかった、私も考えてみるよ。
でもそっか、やっぱり帝国はマンガの通りに攻めてくるのか……」
起こるとがわかっていても、「もしかして」は期待しちゃうよね。
「侯爵も直接王様に言ったんだけどね。無駄だったって」
「だから噂を流したんだね。
あ、でも、その話を聞いて、リリアがどうしてあんなことを言ったのかわかった」
「あんなこと?」
「侯爵様が流した噂と同じことを、新しい取り巻きの子と一緒に学園で広めてる」
「そうなの?」
「うん。そのせいで、第二王子の婚約者さんを見る周りの目が冷たくなってるから嬉しそう。
でも相変わらず『みんな仲良くしましょう』ってばっかり言うの。おかしいよね?」
縛りが消えて、リリアは遠慮がなくなってきたな。
でも、それで危機感を持つ人が増えるならOK。
「まあ、『みんな仲良く』はマンガのセリフだからね。口癖なんじゃない?」
「ああ、強制力だっけ?」
「うんそれ。
あ、強制力さんって言えばさ、侯爵と話ながらすっごいこと思いついちゃった!」
「さん?」
私は、その後さらに設定を詰めた強制力さんのプロフィールを説明した。
ソフィーはお腹を抱えて笑った。特に私の描いたキャラ絵に。
強制力さんどうこうより私の人物画がツボっただけかもしれないけど、久しぶりにふたりで大笑いして、侯爵ストレスが吹っ飛んだので気にしない!
そうこうしているうちにマリアも戻ってきて、夕飯を食べながらまたひと笑いし、楽しい一日は終わった。
翌日はギルドに行く。
侯爵から避難関連の依頼が入ることを、事前にジジイに知らせておくためだ。
職人は冒険者と違い、所属するギルド経由でしか仕事を受けられないので、今回の依頼も侯爵が職人街のギルドに依頼を出す形になる。
依頼の話だから別に悪い話じゃないので、ジジイもあっさり了承する。
「わかった。
しっかしお前、侯爵の専属みてえになってねえか?」
「やりたくてやってるわけじゃねえよ。
あの顔で脅されてみ? しかも侯爵様だぞ?
か弱い娘に断れるか?」
「か弱い娘だ? どの口が言ったんだか。
まあ、報酬の交渉は任せろ。今度はしっかりふんだくってやる」
「任せた」
多少ギルドの手数料は増えるが、チマチマ交渉している余裕なんてない。
帰ろうとしたら、「俺にも話がある」と引き留められた。
「断る」
「いいから聞け。めんどくせえ話じゃねえよ」
「嘘だな。ジジイが振ってきた話でめんどくさくねえのなんて一個もなかった」
「ま、それは置いといて、マジ簡単な話だ。
お前がサインするだけで、すげえ有能でかっけーヤツを雇えるって話だ」
「詐欺だな。断る」
「んなわけあるか! 俺が直々に地下街で働いてやるっつてんだ。そこはお願いしますしかねえだろ!」
は? 何言ってんの?
「そうか、とうとう耄碌したか」
「ぶん殴んぞこの野郎。
いいか? おめーは穴ばっか掘ってて聞いてねえかもしれんが、あと2・3日で侯爵領から来てる文官が帰るんだよ。若えのも育ってはいるが、まだ一人前とは言えねえ。
そこで見るに見かねた親切な俺が入ってやろうっていうありがてえ話だ」
「んで、ほんとのところは?」
「ノーラちゃんが困るだろうが!」
「そこかよ!
ダメだ! うちのノーラに手ぇ出すな! 大人しく自分の孫でも構ってろ!」
「そっちは可愛げがねえんだよ!」
「だろうな‼ てめーの孫だからな‼」
「何だと⁉ もういっぺん言ってみろ‼」
「けっ! 耳まで遠くなってんじゃねえか」
「おし、わかった。表ん出ろ」
表に出たところで、空いている窓口担当のカルロスに引き離され、ジジイと並んで説教を受ける羽目になった。
カルロスによれば、ジジイを地下街に派遣することはギルド内でも了承を得ている案件とのことだった。
言い出したのはもちろんジジイだが、ギルドとしても地下街は新しい商売のネタになると考え、現場でノウハウを仕入れて来いという話になったのだそうだ。
カルロスは地下街を見に来て、何か秘密があることには気付いているようだが、知らないふりをしてくれている。
その彼が、その秘密なしでも他で使えると言うからには、きっと勝算があるのだろう。
確かにダンジョンじゃなくとも、スタート時程度の小規模なものなら土魔法で作れる。
ならば、このあとできるツィードベリー侯爵領のバカでかいものより、農場の地下街に関わった方がノウハウは溜まる。
なるほどね。
動機はともかく、書類と人の扱いに長けたスタッフが増えるのはありがたい。ノウハウもまだまだこっちが教えてもらいたいくらいだ。
私も一応ホプキンス商会の役員なので、下っ端一人くらいなら採用する権限はある。
「わかった。カルロスがそこまで言うなら受け入れてやってもいいよ」
「ありがとうございます。ほらギルド長からもお礼を」
「誰が言うか」
「また説教されたいですか?」
「チッ! あんがとよ」
裏ギルド長の尽力で、能力だけなら最強の新人の採用が決まった。
給料は一般スタッフと同じ。
動機が動機なのでタダでも来るだろうけど、働いてもらうからにはちゃんと払いますよ、ウチは。
なお、採用条件には「ノーラがクビって言ったら問答無用でクビ」という一文を追加した。
カルロスには地下街がダンジョンであることをそろそろ話しておこうと思う。




