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死亡フラグを回避して、元悪役令嬢は今日も穴掘り  作者: 膝関節の痛み
第3章 地下街を作っていたはずなのになぜ私はずっとトンネルを掘ってるんだろう

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第38話

「来たか。すぐ終わるから座って待っていろ」


 侯爵は執務室でまじめに仕事をしていた。   

 書類仕事もやるのね。

 高位貴族のオーラでごり押しするか酒を飲むかする姿しか見たことがなかったから、なんか変な感じがする。

 侯爵といったらこの地方の王様みたいなものだけど、なんか前世の会社の部長みたいに見える。

 これで毛髪量を半分くらいにすれば完璧に部長になれるんだけどな。


 頭の中のお絵描きツールで髪の毛を薄くしていたら、一段落したらしい侯爵が顔を上げた。


「何をニヤニヤしている」

「え? してませんよ?」

「またロクでもないことを考えていたんだろうな。

 まあいい、待たせたな。

 じゃあ、はじめようか」


 侯爵はそう言って、テーブルの上に大判の紙を広げた。


「この形に造ってくれ」


 それはこれから私が拡張するダンジョン地下街の全体図だった。


「うわあ、これはまた大きいですねえ……」

「そりゃそうだろ。冬の間、ここをファガードの中心にするんだから」

「なるほど。

 えーっと、まずここからファガードの中心部まで6キロくらいトンネルを延ばすんですね」

「そうなるな。今の場所からしか入れないのでは、不便でしょうがない。

 この前までの職人が必要なら集めてくれていいぞ?」

「うーん。地盤が固すぎなければひとりでも大丈夫そうですけど」

「ああ、それなら昔に調べてある。

 10m下までは土の層でその下が岩盤だ」

「なるほど。

 地下街の深さはどのくらいを考えてますか?」

「深すぎない方がいい。3mといったところか」

「いいと思います。それなら家の階段とそんなに変わらずに移動できますから。

 掘るのも私一人でいけます」

「ありがたい。では、その方向でいこう」


 そこからは話はサクサク進んだ。


 領都中心部にいくつかの入り口があり、約6キロの直線トンネルが郊外の丘まで3本並行して伸びる形になる。

 全長6キロ×3の巨大商店街である。


 道幅は左右1mずつの歩道も含めて6m。馬車が余裕ですれ違える。

 侯爵はここに乗合馬車まで通すつもりらしい。

 3本の通りをつなぐ1m幅の横道は1キロごとに計7本。


 3本のメインストリートの両側にはびっしりと商店や事務所が並ぶ。

 1店舗の間口は領都標準の5m、奥行きは10mで統一。

 個別の希望なんか聞いていられないので、あとは各店間で調整してくれって感じだ。

 

 区画数は全部で240×3、720にも上る。

 心のライバル梅田ダンジョンの店舗数が600とかのはずだったから、それを超えることになる。

 記憶が合っているならだけど、多分勝った!


 領都側からみた最奥、丘の出口付近はさらに拡張して、大劇場や公共施設が作られる予定だ。

 奥に人の集まる場所を作ることで、場所の格差を小さくするわけだね。


「どうだ? 冬までにはできるか?」


 説明を終え、侯爵は言った。

 「できるか?」ではなく「冬までにできるか?」。

 こんな大規模の施設を3ヶ月で作れと?


 普通ならテーブルをひっくり返して帰るところだが、ダンジョンの拡張なら問題ない。

 追加で掘るトンネルは6キロ。地盤もOKだし、今なら3日で掘れる。

 そうなってしまえば、あとは現実の距離のことを考える必要なく、亜空間を改造するだけだ。

 しかも、同サイズの区画をずらっと並べるだけ。


「仕上げにちょっと時間はかかると思いますが、1ヶ月もあればできるんじゃないですか?」

「マジか!」

「いや、だって冬に使うものが冬にできたら準備が間に合わないでしょ?」

「そりゃそうだな。

 よし。1ヶ月だな。

 自分で言ったんだから遅れは許さんからな!」

「あ、やっぱし2ヶ月で」

「ダメだ」


 粘って1ヶ月半にしてもらった。

 鬼のマリアが「工期は余裕を持って。決めたら厳守」って言ってましたもん。

 工事入りは1週間後になった。


 仕事の話が片付いて、話は避難計画に移る。


「そういえば、王様と会えたんですか?」

「その話はまだしていなかったか」


 侯爵は1ヶ月少し前、王都を訪れている。 

 トンネル工事の進捗を確認するためでもあったが、メインの目的は、工事視察後王城に赴き帝国の動向を伝えることだった。


 それまでの調べで、西の帝国は軍需物資を集めたり、新たに徴兵したりと、侵攻の準備を進めていることが判明していた。

 侯爵は、高位貴族の責務として、それを王に知らせに行ったのだ。


「……まあ、会うことは会った。

 あまりに愚かで呆れただけだったがな」


 王は侯爵の言葉に耳を貸さなかった。

 第二王子と帝国の公爵令嬢との婚約が決まったばかりなのに、そのようなことがあるはずがないと断言したのだそうだ。

 それどころか、両国の分断を狙っているのかとあらぬ疑いまでかけられ、王都への立ち入りを自重するように言われたそうだ。


「なんというか、お疲れさまでした」

「ああ、疲れたな。

 だが、あの馬鹿どもに任せてはおれんから、自分で動くしかないことはわかった。

 手始めに『帝国に気をつけろ』という噂を王都に広める手を打った」

「おお」


 実に政治家っぽい。


「その後も情報を集めている。

 だが、どうもおかしいのだ」


 ん?


「何がですか?」

「侵攻してくる理由がよくわからんのだ」

「理由ですか。よく聞くのは領土拡大とか、食料不足とか、王室の侮辱とか、そんなのですよね?

 でも、そういうのじゃないと」

「いや、そういう類ではある」

「どういうことですか?」

「全部だ」

「え?」

「領土拡大と食料不足と王室の侮辱、全部耳に入ってきた。だがその決め手がないのだ」


 侯爵はそう言ってこめかみを押さえた。


「決め手がないとは?」

「急に領土拡大を言いはじめたのは軍の大将だな。

 だがこの近隣で一番力のあるのは南の王国。次に我が国と東の王国が同じくらい。西の国は偉そうに帝国と名乗っているもがその下。金もない。大国と呼ばれる4つの中で最弱なのだ。

 そこが覇権を唱えても現実味など皆無だ」


 出た四天王最弱。


「で、農務大臣が麦の不作で食料不足になるとわめいているそうだが、調べたところによると帝国では春の小麦の収穫は平年並みだった。まあ一部ではやや不作だったらしいが、騒ぐほどではない」

「は?」

「で、皇帝は去年の我が国の王との会談の席で、体型をバカにされたと激怒しているそうだ。

 これを皇室の侮辱と呼べるか?」

「さあ……」


 首を捻る侯爵を見ながら、私も考える。


 ……ああ。なんとなくわかったかも。


 多分、そのグダグダは『選べよ』のせいと思う。


 想像してみる。


 打ち切りに怒った作者の思い付きでイケメン全員死亡の「37564END」がこの世界の決定事項となった。

 その直前まで何も情報のない1年間がある。

 

 ここでやることがなくなった強制力さんが気付く。


「あ、これなんか理由作っとかないとヤバくね?」


 で、必死に侵攻の理由を考えるけど、なんせ『選べよ』クオリティーなのでテンプレしか出てこない。


「えーと、侵略っていえば領土拡大か食料不足か王室の侮辱かに決まってるから、そのどれかってことか。

 うーん、選べないなあ。選べる気がしない。

 あ、そうだ! 全部入れときゃいいんじゃね⁉

 うわ、俺頭いい! 完璧!」


 脳内で擬人化された強制力さん(男性・38歳独身)は、設定を詰めることもせず、そのままスマホで動画を見はじめた。だから選べよってば。


 なさけない……。私はこんなやつに運命を握られていたのか。

 なんかガックリして、ため息が出た。


「どうした。何か思いついたか?」


 侯爵が少し投げやりな視線を向けた。


「いえ。理由なんかどうでもいい気がしてきました」

「理由などなくても、来るものは来るってことか」

「……まあ、そんな感じです」


 私たちは顔を見合わせ、再びため息をついた。

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