第37話
炭酸はなかったけど、話は盛り上がった。
工事での誰かのやらかしを引っぱり出して、ゲラゲラ笑いあう。
仕事が完了したのでチームは自動的に解散になるけど、別に誰も湿っぽくなんてならない。
職人は現場を渡り歩く生き物だ。いちいち泣いてちゃ仕事になんかならない。
顔を赤くしたベンが、急に私をビシっと指さした。
「小モグラ!
あんたもう親方じゃねえから言わしてもらう!
俺の扱いが雑なんだよ! 特に最後の方! なんであんなに魔法連発させんだよ!」
「そりゃお前が仕事大好きだからだろ。親切心だ親切心」
「バカかおめえ、限度っつうもんがあんだろ!」
「だってお前、自分で楽勝だって言ったじゃねえか」
「言ってねえ!」
「いや、俺は確かに聞いたよ?
君が考えた手順を採用するときにエリーが魔力の確認をして、君は『そんなんでヘタるわけねえ』って鼻で笑ったんだ」
「……それは、言ったかもしんねえ」
プシューッと勢いがなくなった。
コリン先生、証言ありがとうございます。さすが、声の説得力が違いますね。
ベンもその時に言えばいいのに。
まあ意地になってたんだろうな。
「まあ、お前は頼りになっからな。
今度現場が同じになったら気ぃつけるわ」
「……わかりゃいいんだわかりゃ」
ブツブツ言いながらベンは寝た。
「あーあ、寝ちまったよ。しょうがねえなあ。
送ってくしかねえか」
オークリーがそう言ってため息をついた。
彼はこのあと正式にベンに弟子入りすることになった。
せっかくできた縁だから、うまく活かすといいね。
依存症の感染にだけは気をつけてほしい。
もう一組の師弟は、コリンが南ギルドに戻り、アーチーがそれについてゆく形だ。
ただアーチーはCランクになったら職人街に戻ってくるそうで、それはそんなに遠くはないだろう。
4時間近く飲んで、打ち上げは終わった。
それぞれがそれぞれの場所に帰ってゆく。
「そんじゃ、小モグ姐さん、ありがとございやした! すっげえ面白かったっす!」
クレイグが深々と頭を下げる。
彼は明日隣町に帰る。
「おう。私も世話んなった。
元気でな。儲かったからって、ダラダラすんじゃねえぞ」
「しねっすよ。来年春のBランクの試験受けっから、現場少な目にして講習ガンガン入れるっす」
「いいじゃねえか。受かったら顔見せに来い。地下街でなんかおごってやる」
「うす!
んじゃ!」
パン! とハイタッチして別れる。
来年春。王都は壊滅してるかもしんないけど、地下街はしっかり守って、冷えたエールをおごらなければ。
翌日はお休み。
地下街に顔を出し、ホプキンス家にトンネル開通を報告した。
「おめでとう」って言ってくれたけど、侯爵領まで行ったわけでもないので、イメージがわかない感じだった。実感するのは案内した時かな。
地下街はさらに賑わっていた。
夏になって、涼しい地下街に逃げ込む人が増えたためだ。
でも、屋台が増えたおかげでちゃんとお客さんはさばけている。
侯爵領から来た文官さんに教わって、管理系の人手も増えたようだ。
彼らはトンネルが開通したら侯爵領に戻ることになっている。
いなくなると厳しくなるの確実だが、それを見越して、ひとりの文官さんがものすごい手を考えてくれた。
もしかしたらトンネル開通よりすごいことかもしれない。
彼は、家具生産が終わってやることがなくなったゴブリンを書類作成スタッフに組み込んだのだ。
ニヤニヤするマリアに、私が作った空き物件で机に向かうゴブを見せられた時には、ほんとに目を疑った。
もちろんゴブは書類の内容はわからない。
でも、見たものを根気よく書き写すことはできたのだ。それも忠実に。
文字がわからないから、誤字は発生しない。
計算ミスを指摘できないけど、誤記はしない。
時間はかかるけど、コピー機がない世界でこの能力は大きい。
教え込むのには1ヶ月かかるらしいが、1ヶ月で戦力になるならむしろ最短だと言っていい。
文官さんは、侯爵領に地下街ができたらぜひゴブを採用したいと熱く語った。
弟子としてかわいくなってきたらしい。
ダンジョンに転職して派遣部門を立ち上げませんか、と言いそうになって我慢した。
焦るな。まず侯爵に話してからだ。
ソフィーと話すのは3日後の安息日になる。
その前にツィードベリー侯爵との会議でダメージを食らうはずだから、ちょうどいいタイミングかもしれない。ぜひ私の荒んだ心を癒してください。
締めにノーラとワンコたちと砂場で遊んで、充実した休日が終わった。
砂場からの帰りに、草原の建物エリアの別荘地感が上がっていた。
しばらく見ていて、街路樹が数本追加されていることに気付いた。
ノーラに聞いたら何を今さらみたいな顔で、「トレントだよ」って教えてくれた。名前はなかった。
一番近くのヤツに話しかけてみたら、一回だけ枝を小さく振った。
ノーラの翻訳によると「あっち行け」ということらしいのであっち行った。別に木に邪険にされてもなんてことないし。
「エリーちゃんおはよー!」
「おはよー。ライラさん、朝から元気だね」
「そりゃそうよ、朝なんだから。
さ、早く行きましょ?」
手を引かれて庭に新しく作ったダンジョン直通出入り口のドアをくぐる。
専用口は前回の三連休中に新設した。
トンネルが通れば王都に来る人も増えるはずで、その人たちが毎回私の家の中を通るのはさすがにやだ。
転移陣の手前でトンネルを分岐させるだけなので、工事は半日で終わった。
今のところ、魔力鍵にはトンネル工事のメンバーが登録されている。
工事は終わったけど勝手に使ってくれていい。そのくらいの信用は残った。
なお、ソフィーも通勤にはこちらの方が多少楽なのだが、私が拉致できなくなるので登録していない。
いや、もう「ぐへへへ」とかやんないし、ソフィーにとっても、学園と職場をひらすら往復するだけじゃなくて、強制的にでも私とお茶した方がいいと思うのよ。
学生なのに仕事しすぎなんだから。
ジョスリンとライラは普通にお仕事だ。
パーティーの席で侯爵から薬草関連の調査依頼を受けたのだ。
土建ギルドとは異なり、冒険者はどの街のギルドからでも依頼を受けられる。
ファガードの冒険者ギルド長はカラムさんなので、極秘扱いにするのも簡単だ。
山の村のことは北部の盟主である侯爵の耳にも入っており、侯爵領でもなんとか栽培できないかと考えているらしい。
その好適地を探すのが今回の依頼内容である。出身地の環境に近い場所を探すのだから、これ以上の適任はないだろう。
そんな話をしながら、3人でツィードベリー侯爵領に跳んだ。
侯爵領の転移陣があるのは、領都ファガードの郊外。中心地からは3キロほど離れている。
空気が気持ちがいいのでのんびり歩きたいところが、迎えの馬車が待っていたので大人しく乗り込む。
街の門をフリーパスで抜け、ツィードベリー城に着く。
冒険者ギルドに向かうジョスリンたちと別れて、私は案内のメガネ兄さんに連れられて城門をくぐった。
土魔法士エリー・スミスの次の仕事がはじまる。




