第36話
「俺が頼んだ2ヶ月の倍まではかからなかったか。まあ合格といったところだな」
「いや、そこは手放しで褒めるところじゃないんですかね⁉」
トンネル出口に待機していたツィードベリー侯爵と私の最初の会話である。
面白いのう、侯爵ジョークは!
頭に来たので職人たちと開通を祝う輪の中に、侯爵は入れてあげなかった。
近寄ってきたけど、「侯爵は掘ってないですよね?」って拒否してやった。
いつもの護衛のおじさん、侯爵の冒険者時代の仲間で現侯爵領冒険者ギルド長であるカラムさんが大笑いしてた。
その後シュンとして謝ってきたので「以後気をつけるように!」って言ったら、「俺、侯爵だぞ?」とか権力者ムーブを出しかけて、またカラムさんに叩かれていた。
カラムさんはわかってるね。
侯爵領に地下街を造るには私がいないと無理なんだからね?
まあ、開通後のハイテンションでみんなはしゃいでいただけだ。
そのあと、侯爵とカラムさんを連れて地下街まで往復し、依頼完了のサインをもらった。
用意されていたホテルで一旦休んだ後、私たち穴掘りチームは侯爵邸での豪華なパーティーに招待された。
ホテルは領地一の高級ホテルとのことだったが、山の村の宿でリハーサルをしていたのでそこまではビビんなかった。
侯爵は、パーティーではフランクな元冒険者のおっさんとしてふるまい、職人たちにも無事受け入れられた。
酔ったアーチーが「侯爵様、貴族ってあんまおっかなくないんすね。ビビって損したっす!」って腕をバシバシ叩いたら、「お前、殺されたいのか?」と剣をカチャってして脅していた。
「と、王都貴族だったら言うだろうな。気をつけろよアーチー」
「……侯爵さまあ、お願いしますよぉ。ほんとに殺されるかと思ったじゃないすかあ」
「そこは授業料ってことだな」
「王都じゃお貴族様と会うことなんてねえっすから、そんな授業いらねっすよお」
「それはそうか、ワハハハ……」
侯爵がまた「ノースバウンド」で劇場に出たいとか絡んできて、「恥をさらすな!」とカラムさんに引きずられていったところでパーティーはお開きとなった。
惜しい。「恥をさらすな!」じゃなくて「いいかげんにしろ!」だったら出演を考えたのに。
笑い声に溢れたいいパーティーだった。
一泊して、初秋のファガードの街を少し見て回ったあと、私たちは王都に戻った。
転移陣を使ったので、戻るのは一日の工事終わりと同じで一瞬だった。
「500キロも掘ったのに、転移陣を設置してしまえば使うのは両端だけか」
到着した工事事務所でコリンがボソっと呟いた。呟きもイケボだった。
「確かになあ。便利なんだかもったいないんだかわかんねえな」
「んでも通さなきゃ転移陣も置けねえんだから、やっぱ俺たちのおかげってことで間違いはねえってこった」
オークリーとクレイグがそう言ってトンネルを振り返った。
「おし! そんじゃ親方、さっさとギルドに顔出して金もらおうぜ?」
「だな」
アーチーの言葉で、俺たちは隣の転移陣に乗り、職人街に向かった。
さっきまで侯爵領にいたのに、1時間も経たないうちにもう職人街のギルドだ。
冒険者ギルドに向かうジョスリンたちと別れ、ぞろぞろと土建ギルドの扉をくぐる。
そのままギルド長室に入り、私は侯爵の完了サインの入った依頼書をギルド長に提出した。
「お疲れ」
一言だけ言って、ジジイは重そうな袋を5つ、ドンとテーブルの上に並べた。
「やった!」
アーチーが早速袋を引き寄せ、中身を確認する。
「すっげえ!」
「当たり前だ。500キロのトンネルをお前ら5人で掘ったんだ。そんでも少ねえくれえだ。
侯爵の野郎の顔見たら、ケチ臭えぞって文句言ってやれ」
「それ先に言ってくださいよお。宴会ですっげえペコペコお礼言っちまったじゃないすか」
その後酔っぱらって絡んでたけどな。
渡された報酬はそれぞれの年収4年分くらい。
ランク差があるので金額は違うが、それはギルドの規定なので特に不満はない。
年収4年分。確かにやったことに比べれば安いのかもしれない。
でも、日銭で生きる職人にとっては、この報酬は既に想像の外にある「すげえいっぱい」なのだ。
これ以上もらったって「すげえいっぱい」が変わることはない。
ひとしきり大量の金貨を眺めた後、報酬はその場で口座に入れてもらった。
ギルドの事務員の兄ちゃんは、大量の金貨を見ても顔色ひとつ変えなかった。
「エリー、お前には細けえ話を聞きてえところだが、まあ今日は勘弁しといてやる。
昨日工事が終わったばっかなら、まだ侯爵との話も済んでねえだろ?
それが終わったら一日時間作れ」
「了解」
「そんじゃ出てけ。ギルド長様は忙しいんだ」
「へーい」
ジジイに部屋を追い出され、私たちはギルドを後にする。
まだ昼前。
「どうする? まっすぐ帰るか?」
「いや、嫁は仕事に行ってるから帰ってもしょうがねえ。
飲みいこうぜ」
「いいぜ、おめえが言ったんだからおめえのおごりな」
「なんだよそれ。まあ俺は金持ちだからな。おごってやるよ」
「店どこ?」
「今飲めんのは『骨屋』しかねえだろ」
「んじゃそこで」
職人どもがガヤガヤと話し合い、あっという間に打ち上げ昼飲みの開催が決まった。
ジョスリンとライラがいないのが残念だけど、近々会うことになっているからまあその時改めてお疲れ会をしよう。
元々地下街の常連だから、職人連中ともすぐ会えるだろうしね。
それにしても骨屋かあ。
骨屋、正式名「ボーン・クラッシャー」は、その名の通り親の仇のように叩き割ったボア骨のスープが自慢の食堂兼酒場。早朝から深夜まで営業している職人街の繁盛店だ。
トンコツスープは前世から匂いがあんまり好きじゃないんだよなあ。パンと合わないし。
けど、他に選択肢がないなら仕方ない。まあ、隣の人がスープを頼まなければ気にならないからいっか。それ以外のメニューは普通に美味しいしね。
店に着いて、エールで乾杯する。
私もトンネルを掘っているうちに15歳になったので、アルコール解禁である。
掘り終わるまで自重していたので、これが日本でも有名な異世界エールの一杯目だ。
感想。
すっぱい。あと冷やせよ。
もういいや。
地下街のエールなら冷えてるから多少はマシかもだけど、キンキンじゃないし冷やしてもそもそもの味がね。
まあそんなに期待してなかったからいいんだけど。
残りをクレイグに渡して、あとは果実酒の水割りにした。
こっちはぬるかったけど飲めた。飲めたっていうだけ。
あ、お姉さん、炭酸ないですか?




