第35話
私はレベルアップ後はじめて魔物画面を開いた。
「えーと、新しい魔物の名前は出てるね。
森狼、スケルトン、ホブゴブリン、レッサートレント。あとは虫系か。
出せそうだけど」
「何回もやってみたけど出ないの!」
「んー。じゃあ私もやってみるね」
無難に森狼を選んで実行ボタンを押す。
『実行条件を満たしていません』
そんだけ。当然のように説明はない。
これに慣れてきたことが悲しい。
「ね?」
「うん、出せないね。調べてみる」
「うん、お願い」
原因特定まで2時間近くかかった。けっこう早く終わった方だと思う。
「ノーラお待たせ。わかったよ」
「何だったの?」
「あのね、レベル3の魔物は第3階層を作らないと召喚できないんだって」
「そうなの? じゃあ第3かいそーを作って?」
「うーん。じゃあ、もう一回調べてみるね」
現状第2層の草原でさえもてあましているのに、さらに第3階層はちょっとなあ……。
でも作らないとノーラがかわいそうだし……。
レベル3では「森」「墓場」が追加され、これまでの「洞窟」「草原」「砂漠」と合わせて選択肢は5つになっていた。
墓場は論外。残り4つの中では森が一番いいかと思ったら、森というだけあって最小でも相当広かった。
草原よりさらにもてあますのが目に見えている。
「ノーラ、砂場とかどう?」
「すなば?」
「うん。農場の牛舎くらいの広さが全部サラサラの砂なの。チビや狼たちと遊ぶのにいいんじゃない?」
「砂漠」はレベル2時点で出ていた選択肢だからか、こっちはサイズ変更の自由度が高かった。
「……楽しそう。うん、それがいい!」
ありがとう! 素直! かわいい!
気が変わらないうちに実行ボタンをタップする。
マップを確認したら、草原の奥に階段ができていて、その先に小さな新階層ができていた。
ノーラは光の速さで転移していった。
私もすぐに向かったが、草原が広すぎる。
サブマスは自由に転移できないので歩くしかない。1キロちょっとのために転移陣を設置するのもアレだし。
草原もレベル2環境なので、今なら砂漠みたいに小さくできるのかもしれない。
暇なときにやってみよう。可能ならもう二回りくらい小さくしたい。
ようやく私が着いたときには、ノーラは大型犬いや狼と砂まみれで戯れていた。チビコボルトはちょっと離れたところで猛烈な勢いで砂を掘っている。
巨大砂場、大型犬、子犬、美少女。
なんと素晴らしい!
そしてすっごいうらやましい。
「ノーラ、私のも出していい?」
「ダメ! お姉ちゃんはお世話できないでしょ?」
おっしゃる通り。
でもすっかり機嫌を直したノーラは優しくて、私の気の済むまで狼をモフらせてくれた。
狼はノーラダンジョンの魔物らしく、すぐにお腹を見せた。
名前はもちろん「モリー」になった。
村での気疲れやUI戦でのダメージもあったが、ワンコに癒された私は完全体で現場に戻った。
現場に転移する直前、ベンがみんなを呼び止めた。
「ひとついいか?
昨日の現場で思いついたんだけどさ」
「ベン、また休みに仕事入れたのか?
まあそっか。村から戻る時に、禁断症状で手ぇ震えてたもんな。
仕事入れなきゃ死ぬんだからしょうがねえよな。
んで、昨日の現場がなんだって?」
クレイグが勝手に話を逸らして勝手に元に戻した。
「あのな、魔法を通した土は魔法の通りがよくなんのよ。
ってことは、探査して俺らが土に魔法を通した後にもう一回探査かけたら、今までより先までわかるんじゃねえか?
そんで俺たちもその先までもう一回魔法かけるだろ?
そしたら一発で掘れる距離伸ばせると思わねえか?」
ん?
つまり、「探査→土魔法→掘削」っていうルーチンを「探査→土魔法→ 探査→土魔法→掘削」にするっていうことだよね。
200m探査して、その範囲を柔らかくしたら、次の探査では精度を落とさずもう少し先まで調べられる。
魔法の通りはよくなっているから、土魔法ももう少し先まで届く。
ゆえに一回で掘れる距離も長くなる。
理屈はわかる。
でもそれで伸ばせる長さが少しだったら意味がない。
それから連続使用になる魔法士の負担も気になる。
「面白い。試す価値はあるな」
コリンが乗り気になった。
「わかった。とりあえず一回やってみっか」
「おう!」
早速切羽前に転移する。
色々あったせいで、左側に見える山への転移部屋はもはや懐かしい。
「やる前に確認だが、ベン、魔法行使は同じやつが2回やるか? それとも分けるか?」
「残滓魔力があるから、多分同じやつの方が通りがいいと思う」
「了解した。じゃあ、最初は俺がやってみる。
アーチー、それいいか?」
「もちろんす!」
コリンが探査し、ベンが土を軟化させる。ここまではいつもどおり。
問題は次だ。
「どこまで届くかやってみる」
魔法を放ったコリンが、目を閉じて静寂に聴き入る。
術者本人にしか聞こえない魔法音波の反射を感知しているのだ。
「――350m。そこまでは精度が保てる。
だが、それは土に限ってだ。
途中の大したことのない岩が想像以上に邪魔になった。
感触としてだが、岩盤では伸ばせてもせいぜい2割だろう」
「それでも、75パー増しか。すげえな……」
ベンがそう呟いて、ソフンを放つ。
探査魔法に比べ、魔法を浸透させる必要がある分時間がかかるが、それでも工事開始当時の半分くらいの時間でできるようになっている。
1回の所要時間は約10分だ。
「よし。こっちも350いけた。
もっと先までいけるが、探査やってねえからそこで止めたといた。
あー、でもあれか。お前たち、発動地点のコントロールできんだっけ?」
「俺は300までいけんぞ?」
「クレイグずりい! 俺なんか場所ズラすと威力落ちちまうのに。
くそー。ベンさん、休みん時にでも教えてくれ」
「俺に休めというのか?」
「あー悪ぃ。じゃあ、ギルドに正式に依頼出すわ。
そんなら仕事だろ?」
「わかった。気が向いたらな」
「そんなあ」
粘るオークリーを軽くあしらって、ベンがこちらを向く。
「ってことで、350m一気に掘れるはずだ。
やってみてくれ」
「了解」
言われた通り350m、350000mmで実行する。
問題なし。
クレイグがヒューと口笛を吹いた。
追加の魔法行使のための時間は15分弱。
追加距離は150m。
「文句なしだな。
あとは魔力消費だが、一日いけそうか?」
「何言ってんだ?
他の現場じゃ、何発も続けて使ってんだぞ?
しかも交代しながらやってんだ。そんなんでヘタるわけねえよ。
小モグラ親方だってさんざんやっただろうが」
ベンが呆れたように言った。
あ、言われてみればそうか。
工事規模のせいで勘違いしてたけど、確かにこの現場の作業量は軽い部類に入るのか。
それなら遠慮なくこき使わせていただきます。
「よし。んじゃこの方法採用すっぞ? 決定でいいか?」
「おう!」
新しい手法は、回数を重ねることで最適化される。
その結果、土の部分は新手順、岩盤部分は従来の手順、と定まった。
そこに親方のキツい指示と職人のスキルアップも加わり、私たちは一日10キロ近いペースで一気にトンネルを延ばしていった。
ダンジョンが指定された侯爵領都ファガード郊外の丘に到達したのは、工事開始から102日の午後のことだった。




