第34話
「うめえ! なんすかこれ!
マジで歯ぁ要らねえ!
ジョスさん、話盛ってたんじゃなかったんすね!」
「……まあ、そうだね」
ボアの泥包み焼きは確かに超絶柔らかくて美味しかった。
フレンチっぽく皿に散らされたベリーのソースとの相性も抜群だった。
みんな絶賛するだけのことはあるし、ライラも「今までで一番!」と喜んでいる。
私は微妙な表情のジョスリンと顔を見合わせる。
うん、わかるよ。私も同じ気持ち。
言いたいこと色々あるけど、まとめればこの一言になる。
コレじゃないんだよ!
泥なんか使ってないし、そもそも包んでないじゃん!
私が求めていたのは、素朴な、炭火でじっくりあぶったりした、味付けは塩だけ!的なやつ。
3種のベリーソースなんか必要ないの!
「昔は泥に包んでたき火の下に埋めてたんだけどね、出来上がりがバラついちゃうのよ。
でも、魔道具を使うようになってから、完璧に熱を入れられるようになったのよね。
あ、今見せてあげるわね!」
オークリーを捕まえて機嫌よく話していたライラ母、セルマさんがバタバタと調理魔道具を抱えてくる。
「こっち魔道具がスライムの皮でお肉を密閉する道具ね。
密閉したらそのお肉をお湯の中に入れて、63度を保って2時間40分。こっちの魔道具を使えばお湯の温度を見る必要がないの。すっごい楽なのよ!」
……真空パック器と低温調理器だね。
王都にもあるのかもしれないけど、私は聞いたことがない。
「ほええ、今そんなになってんですね」
「あ、この前の型、もう使わないからあげる。温度が5段階でしか調整できないけど、3ヶ月しか使ってないから新品同様よ?
密閉魔道具もつけてあげる。2個セットで安かったから買っちゃったけど、あたしはひとつあれば間に合うから」
「マジですか⁉ 嫁に作ってもらいます!」
いるよね。この前買ったばっかしなのに、新製品が出るとまたすぐ買っちゃう人。
まあ、お金余ってるみたいだし、うちの新婚の嫁が喜ぶならいいか。
オークリー、奥さんに作ってもらって「村で食べた方が美味かった」とか間違っても言わないように。
その日は村を案内してもらった後、新しくできた宿に宿泊した。
元々は男女に分かれてジョスリンとライラの実家に泊まらせてもらう話になっていたのだが、宿があるなら、久しぶりの里帰りを邪魔するのは避けたい。
でも、その宿が高級すぎた。
この宿に泊まるのは領主の子爵かその許可を得た大商人だけらしく、平民の職人には不釣り合いだが、宿は村に一軒だけなので他に泊まれる場所がないのだ。
職人どもは完全に腰が引けていた。
さらに冒険者夫婦の雇い主と紹介された私とそのご友人のお貴族様ご令嬢は、問答無用で最上階の子爵様用スイートに通されてしまった。
その上、セルマさんが「お代はこっちで持つわ! 払わせないわよ!」って譲らないので、私とソフィーはビー玉サイズまで恐縮するしかなかった。
料金が書いてなくてビビっていた職人どもは胸をなでおろしていたけど。
最上階の窓からソフィーと見た山の夕焼けは夢みたいだった。
翌日、「倉庫整理」の名のもとに追加されたほぼ新品の魔道具たちとともに、私たちは村を後にした。
転生者なのに、村の危機を救うでもなく、森に出現した恐ろしい魔物を倒すでもなく、ただ分不相応な接待を受けただけだった。
「なんというか……、申し訳ありませんでした」
「いえいえいえいえ! こちらこそ申し訳ありませんでした!」
ジョスリンが小声で謝ってきたけど、大声で謝り返した。
森の煉瓦小屋を撤去し、嫁嫁言うオークリーを心の中で爆破し、長い旅を終えたような気持で私たちは地下街に戻った。
家でダラダラしてると、夕方マリアが帰ってきた。
「お帰りー」
「お帰りー。私をのけ者にして食べたボアは美味しかった?」
「美味しかった。気になるなら来ればよかったじゃん。ちゃんと誘ったでしょ?」
「学生じゃないんだから、前日の夜に言われても行けるわけないでしょ?」
「安息日に仕事入れるからじゃん」
「あのね、地下街は安息日はお休みじゃないの」
「あ、そっか」
「お土産は?」
「あるよー」
セルマさんがお土産に持たせてくれた低温調理の魔鹿肉を、スライムパックごと渡した。
そのまま晩ごはんになった。
「へえ。そんな魔道具があるのね。
王都じゃ見たことがないから、侯爵領で作っているのかも。
今度聞いてみよう」
食べながら、私が低温調理の話をすると、マリアがそう言ってメモした。
「あ、侯爵領って言えば、あのオヤジ来るんだっけ?」
「来週に決まったわ。エリーもオヤジとか言ってないでちゃんと応対しなさいよ?」
「はーい。侯爵様スポンサー様。
で、わざわざトンネルの進捗状況見に来るんでしょ?
まさか2ヶ月で通さないとは何ごとだとか言ってくるんじゃないよね?」
「大丈夫よ。スケジュールはちゃんと承認もらってるから。
逆に思ったより進んでいるって聞いて、びっくりして見に来るんじゃないかな。
だって2月で200キロよ?
いや、昨日エリーが行った村の場所を調べたら、もうちょっと先まで進んでると思う」
「そうなの?」
「うん。その村のある子爵領を抜けたらちょうど半分ってとこかな」
「おお! それがわかっただけでも休んだ甲斐があった!」
よしよし。じゃあさっさとその子爵領を抜けるとしますか。
半分まで来たっていうのを聞いたら、みんな間違いなくモチベが上がる。
「あ、そうだ。
明日もお休みでしょ?
何か予定入ってる?」
「いや、特にないよ」
「じゃあ、ノーラちゃんのとこに顔を出した方がいいわよ。
お姉ちゃんが来ないって怒ってたから」
「あちゃあ。そう言えばしばらく行ってなかった。
でも、レベル上がって出せる魔物が増えたから、機嫌がいいはずなんだけどなあ」
「なんかあるんじゃない? とりあえず行ってみなさいよ」
「了解」
翌日、約2か月ぶりに訪ねたコア部屋で、ノーラはぷんすか怒っていた。
「お姉ちゃん、遅い!
大事なお話があったのに全然来ないんだもん!」
「ごめんごめん。でも大事なお話なら工事の事務所に来ればよかったのに」
「お母さんがお仕事のじゃましちゃダメって言うから行けないの!」
「ああ、そうだったんだね。今度から大事なお話の時は来ても大丈夫だよ。
で、大事なお話って何?」
「新しい魔物が出せないの!壊れてるの!」
ノーラは拳をブンブン振りながら訴えた。
壊れてる?
ありそう。
掘る時に上下の角度選べなかったんだから、もっと致命的なバグがあっても驚けない。
きっとこのダンジョンの仕様にも『選べよ』の作品クオリティーが反映されているに違いない。
「はあああ……」
こうして私の休日最終日は、バグ捜索ではじまった。




