第30話
そのあと5回掘り進めて1キロ進んだ。
途中にあったちょっと固めの層をどうするかの相談に10分かかって、岩じゃなくて土だから「クラック」じゃなくて「ソフン」でいこうという結論になり、その魔法行使に15分。
それ以外は、1回10分くらいの前方200mの探査と1回2分の操作盤のセッティングが各5回、掘るのは一瞬だから、かかった時間は合わせておよそ1時間半だった。
この世界の標準は1日10時間労働なので、間に休憩を1時間入れるとして1日で6キロは進める計算になる。
調子が良ければ二桁いく。
実際初日は大きな障害物もなく、5キロも進んだ。
1キロ足りないのは、スタートで出遅れたのに加えて、足場が丸いと歩きにくいということで、トンネルの断面を正方形にする方法をヘルプで漁り 、最初の項目の指定を「R○○mm」から「□○○mm」に変更してやり直したためだ。
今回から改行と読点が入ったヘルプの文章は、かなり読みやすくなっていた。□指定、はじめて知ったよ。
じゃあずっとその調子で進むかというと、当然そうはならない。
続く2日は11キロ、10キロとハイペースで進んだが、そこで問題が発生した。
レベル3の機能が足りないことが判明したのだ。
レベルが上がれば機能もパワーも上がるはず。使い勝手はともかく、概ねそうなっていた。
だが、重要な部分がレベル2から改悪されていたのだ。
それは、上下方向のベクトルを指定できないことだった。
レベル2の指示は「こっちの方」というアバウトだけど自由度の高いものだったが、レベル3では数値で指定しなければならない。
その指定項目に高さの概念がなかった。
つまり前後左右しか角度指定ができない。
最初のトンネルは、自宅地下からまっすぐ掘ったら農場の地下10mだった。そのレベル1時代に逆戻りしていたわけだ。
ウガーって頭を掻きむしって、どうしたんすかって聞いてきた職人たちに説明したら、みんなウガーって頭を掻きむしった。
どうすんのよって話し合った結果、自力で掘るしかねえなという結論になった。
「小モグ姐さん、そろそろ上に行っといた方がよくねっすか?」
「やっとくか。もうだいぶ進んだからな。
んじゃ、勾配10度で10mくらいガイド掘ってくれ。そこから800伸ばす」
「了解っす」
ダンジョン化前の地中に職人が斜めにガイド坑を掘り、そこをダンジョン化した後、その勾配の延長線上に直線のトンネルを伸ばすわけだ。
元に戻す際も同様。
まあ、そっちはまだいい。許せるっちゃ許せる。
それよりも問題だったのは、今掘っているのが地上のどこかを確認できないことだった。
測量技術も貧弱で正確な地図もないというエセ中世設定こそが、工事の最大の敵だったのだ。
そこでまた長時間会議をして、方法を考えた。
ひとつだけ見つけた。
切羽から自力で地上まで竪穴を掘り、そこから出て場所を特定するという原始的なやつだ。
でも出た先がどこなのかは、人家か道でも見つけない限りわからないので、それを探す。
公爵領に向かっては、その手前の山地まで、標高は徐々に高くなる。
それゆえ、ちょっと勾配調整を油断すると、トンネルは地下数十mを進むことになる。
そうなると位置確認のために地上に出るまでが結構な大仕事になってしまう。
いや、しんどいって。
そのうち水脈に当たって迂回したり、岩盤にクラックの魔法を浸透させたりする工程も挟まれるようになって、工事はじわじわ遅れていった。
「今日はこれで終わり! そんで明日から3日休み!」
工事開始から1ヶ月目の午後、難敵だった岩盤を抜けたところで、私は思いついてそう宣言した。
みんなだいぶ疲れが溜まってきている。もちろん私も。
一旦休んで仕切り直すタイミングだった。
職人たちは休みにしたが、親方である私には休んではいられない。
1ヶ月掘った長さは約92キロ。侯爵領までの直線距離で見れば85キロくらいのところまでは到達している。
スタートダッシュの貯金もあって、今はまだノルマをクリアできてはいる。
でもこの先は本格的に山のエリアになり、私たちの土地勘はさらになくなる。
ノルマをこなせなくなることは目に見えていた。
翌日、私はマリアといっしょにギルド長を訪ねた。
「おう、エリー。今日は休みか?」
「まあな、1ヶ月経ったから、職人たちを休ませておかねえとと思ってな」
「正解だな。
マリアから聞いてんぞ?順調なんだろ?
これから何が起こっかわかんねえんだから、順調なうちに休ませとけ」
「おう」
「そんで、今日は何の用だ?メシでもたかりに来たか?」
それなら寝てた方がマシ。
「ジジイの顔見ながらメシなんか食いたくねえよ。
そうじゃなくて仕事の話だ」
「ん? 順調なんじゃねえのか?」
「まあ、掘るだけならなんとかなってんだけどさ、そうじゃねえとこで面倒なことになっててな」
私は位置特定の問題を話した。
「初耳! ちゃんと報告しなさいよ!」
「そういう話はさっさと俺んとこに持ってこいバカ!」
ダブルで怒られた。だから今報告してんじゃんか。
まあ「すぐに」じゃなかったのは事実なので謝ったけど。
「あのな、考えてみろ」
ギルド長は、言い聞かせるように続けた。
「お前らの専門はなんだ?
竪穴掘るとこまではいい。んでも、地面の上を調べんのは土魔法士の仕事じゃねえだろが」
「あ……」
「な?
そこは冒険者かその辺りの案内人の領分だわな。
あとは、こっから山ん中に入るっつうんなら、魔物の対策もしとかねえとだよな?
考えてなかっただろ」
「……はい」
完全に抜けてた。進めることばっかり考えてて、見えていなかった。
「中モグラにくれえにはなったかと思ったけど、まだちっとばっかし甘えな。
まあ、こんな工事誰もやったことがねえんだから、大目には見てやんよ。
ケガ人出る前に手ぇ打てるだけ良かったってとこだな」
「はい」
「んじゃ、あっちの方は任せとけ。
2・3日で冒険者ギルドから適当なの拉致って来っから」
キシシシ、とジジイは笑った。
休みはあの場で突発的に決めたものだったけど、結果的には正解だったようだ。
今日相談してほんとよかった。
持つべきものはできるジジイだ。
ギルド長間のネットワークがあるから、多分この話は冒険者ギルドの上の方に伝わる。
拉致られてくるのは実力のある冒険者になるだろう。
魔法契約も必要ならジジイはどんどんやるので、冒険者ギルドから話が広がる心配も無用だ。
料金は侯爵に請求がいくので、むしろやりすぎるかもしれない。
この空白期間のうちに侯爵領まで繋がらないと全てがパーになる。
でも、最悪のルートは今日でひとまず潰せたんじゃないかと思う。
隣を見れば、マリアが小さく頷いて微笑んでいた。




