第31話
職人たちはそれぞれに休日を楽しんだようだ。
職人街の宿住まいに戻ったクレイグと「ヘタッチー」(ギルド長命名)ことD級探査士のアーチーは、ほぼ地下街の住人と化してた。
私が家にいるときは私の家の地下からの転移で、不在の時は直行馬車で、地下街に通い詰めたようだ。
最初は頼りなかったアーチーだが、コリンにイケボで講義を受けてめきめき腕を上げ、今はしっかり戦力になっているので、そのふたつ名が浸透しないことを祈っている。
ちなみに現在の転移陣は4つ。最初に作った1号陣の他、工事事務所を地下街側の拠点として、草原、私の家、工事現場にそれぞれ直行できる3つが稼働している。
本来はダンジョントラップだけど、移動手段としてほんと便利なんだよ。
単身赴任中のコリンは王都南の自宅に帰り、新婚のC級土魔法士オークリーは、「人目を気にしねえでイチャつきてえんだ!」とか言って、奥さんと小旅行に出かけた。破裂しろ。
残りひとりのB級土魔法士ベンは、別の現場を入れやがった。
マリアによれば重度のワーカーホリックで、以前見かねたマリアが強引に一日休みを取らせたら、その日の午後に「気が狂いそうになるから半日仕事をさせてくれ」と泣きついてきたらしい。
休むと体調を崩すそうなので、もう好きにさせるしかない。
私も残り2日はゆっくり休んで、ミゲル師匠のステージも見ることができた。
ソフィーとも久しぶりにたっぷり話せた。
ソフィーは自宅の合鍵を持っているんだけど、学園がある彼女が家を通る時間帯に私はいないんだよね。
もう一人の合鍵持ちマリアはごはんを作らなくなった。この頃は夕食はマーガレットさん頼みだ。
一度「作るって言ったよね?」って言ったら「私だって忙しいのよ!」って逆ギレされた。私モラハラ夫みたいだなって反省して、ふたりで外食に行った。
でも、改めて思えば、なぜ私がおごらなきゃならなかったんだろう。
ま、いいや。お世話になってるし。
大事なのは、こうして全員がリフレッシュした顔で揃っていることだ。
私たちの通勤は、定時20分前エリー自宅前集合→そこから地下の2号転移陣まで徒歩5分→転移→15分前事務所着、という流れだ。
今日はジジイが冒険者を連れて来ることになっているので、一緒に来るもんだと思って集合時刻を伝えたら、「顔合わせ前に転移陣使っちゃダメだろが!」って怒られた。
そりゃそうかもだけど、じゃあ遅刻すんなよ。
「悪ぃ悪ぃ。途中で馬車の車輪がぬかるみにはまっちまってよ」
ジジイたちは5分遅れたけど、それならしゃーないか。
壁の内側と違って、壁の外の道は定期検査なんかされない。発見されてからゆっくり補修するのだ。
役所から土建ギルドに依頼が出されるのだが、報酬が安いので人気がない。
ま、馬車商会がなんとかするだろう。
「で、頼まれてた冒険者を連れてきた。
まず自己紹介からだな」
「エリーちゃん! なんでいるの⁉」
ライラさんが食い気味に自己紹介しなかった。
「ライラ、ちょっと待ちなさい。名乗るのが先です」
ライラさんを制して、ジョスリンさんが自己紹介をはじめた。
物腰の柔らかい落ち着いた人で、魔物相手に斧を振り回しているとは思えない紳士っぷりだ。
「今日から仕事をすることになったジョスリンです。Bランクの斧士、ヒールも少し使えます。
こちらは妻のライラ。斥候兼軽戦士です。同じくBランク。ふたりでパーティーを組んでいます。
エリーさんを除いてはじめましてですね。よろしくお願いします」
「エリーちゃん、だからなんでいるの⁉」
「ライラ、だから落ち着きなさい」
「あー、待って。説明するから」
先にライラさんを落ち着かせないと話が進まない。
「ライラさん、私の本職は土魔法士で、今この工事の親方やってるのよ」
「そうなの⁉ 銭湯の人じゃなかったの⁉」
「銭湯は作ったけど、受付は人手が足りないから入っていただけだよ」
「そうなの⁉ じゃあ、私たちの依頼主ってエリーちゃん⁉」
「そうなるね」
「びっくり!」
「こちらこそびっくりだよ。まさか銭湯のお客さんが来るなんて思わなかった」
「だよね! でも嬉しい! よろしくね!」
落ち着いた。
あー驚いた。でも地下街は冒険者御用達だから、考えてみれば知り合いが来る可能性は十分あったんだよなあ。
とにかくこのふたりなら一緒に働くのに何の心配もない。
じゃあ次はこっちの番。と、職人たちを紹介しようと思って振り返ったら、皆がニヤニヤ笑って私を見ていた。
「なんだよ」
「なんだよって、親方こそなんすかその喋り方。クソ似合わねえんすけど」
ヘタッチーこのやろう。
なんか急に恥ずかしくなってきちゃったじゃん。
「うっせーな! 地下街のお客さんはお前らみてえに雑に扱っちゃダメなんだよ!」
「エリーちゃん、何その話し方⁉ 変! あと顔が真っ赤!」
ああもう! じゃあどうしろと!
グダグダっぷりに呆れたジジイが「いつまでやってんだ!」と一喝し、やっと騒ぎは収まった。
ここは工事現場なので、喋り方は親方モードを継続することにした。
ライラはまだ変変言って笑ってるけど、そのうち慣れるだろう。
ジジイはふたりに「ダンジョンの仕事」とだけしか話していなかったようで、依頼内容については、私から改めて説明した。
侯爵領まで500キロのダンジョントンネルと聞いて、冒険者ふたりは目を白黒させていた。
「ああ、でも納得しました。
だからうちのギルド長が僕たちにしかできないって言ってたんですね。
僕たちはそのトンネルが通る山の村の生まれなんですよ。
冒険者としても何度も足を運んでいて、大まかな地理も出てくる魔物の特徴も頭に入っていますから、足を引っ張るようなことはないと思います」
なんて心強い。
それを聞いた職人たちは大喜びだった。
わかる。一番しんどい仕事から解放されるんだもんね。
「よし、話は終わったな?
んじゃ、俺も久しぶりに見せてもらうとすっか。
この転移陣使えばいいんだよな?」
「あっ!」
ジジイが勝手に行ってしまったので、私たちも慌てて後を追う。
転移トラップの被害に遭ったことのある冒険者ふたりも、特に驚くことなく続いた。
ジョスリンは「どこに飛ばされるかわかっていると、トラップも便利ですね」と感心していた。
まず新メンバーに見てもらえとジジイが言うので、再開一発目の掘削を行う。
幸い岩盤を抜けたところなので、掘りやすい地質だ。
アーチーが140m先まで探査して、問題がないことを確認する。
もっと先まで探ることもできるのだが、そうすると精度が落ちるのでコリンからこの距離を指定されている。
そこにベンが「やっぱこっちの現場の方が面白い」と楽しそうに軟化魔法「ソフン」を放つ。
ソフンはスピード優先なので5分で軟化完了。
これで準備が整った。
今回は、休み前最後の位置確認を元に、目印としている街道の向きに合わせて方向を調整するので、少し右に進路を取る。
入力は「□3000mm,348°,140000mm,straight」。
実行。
「……きゃあああ! すっごーい!」
ライラの叫び声ができたばかりにトンネルに吸い込まれていった。




