第28話
やる気がオーバーフローしたジジイが毎日来る。
人選だけやっといてくれと言っても、その人選のために工法を確定する必要があると言われれば、追い返すわけにもいかない。
私が知恵を絞った工法を説明すると、あーだこーだ難癖をつける。
しかも、その難癖がいちいちごもっともなのだ。
言いたくないけど助かってしまっている。
「亜空間特性はわかった。
俺が言ってるのは、ダンジョンの亜空間の周りがどうなんのかっつうことだ。
例えば地下水脈があるとすっと、それをぶった切ってダンジョンを延ばした場合、水はどこに行くんだ?」
「……考えてなかった。亜空間無視して流れるとか?」
「そんならいいけどよ、第1層は現実の空間でもあんだろ?
普通に水脈止めるようなら、ダンジョンはともかく下手したら周りが崩れんぞ?」
「ああ、そうなるか……。やってみるまでわかんねえのか」
「だろ? わかんねえなら実験するしかねえな」
トンネルの切羽の先に土魔法で穴を開け、短い水路を作る。これは現実空間。
その水路をトンネルから延ばした細いダンジョン空間で横切る。
結果、水路上流から注いだ水はダンジョン空間の先には流れなかった。
「つうことは、掘る前にまず、先に何があるかがわかんなきゃいけねえってこったな。
探知魔法使えるヤツは確定だな。音波系のがいいか。うちのはちっと腕が落ちるから、南ギルドからもう一人引っ張ってくっか。
そんでめんどくせえけど水脈迂回して掘ってくしかねえな」
やっぱり伊達にギルド長をやってるわけじゃない。
工事内容から職人のあてこみまで、すぐに案が出てくる。
南ギルドなんて広い王都を挟んで反対側だから、ほとんと他の街だぞ?
こっちは助かるから文句はないけど。
「まあ、崩れるよりはマシか……。
あ、周りが崩れるっつうなら、地盤緩めんのにクラッシュ使っちゃマズいんじゃね?」
「なる。エリー、いいとこ気付いたな。
山ん中通すんだろ? 確かに先を緩めすぎっと場所によっちゃダンジョン通す前に潰れっかもな」
「だよなあ」
「そんじゃあ、クラッシュ使いじゃなくてクラック使いか。ヒビだけ入れる程度にして、その日のうちにダンジョン通すって感じだな。
ああ、ちょうどいいのがいただろ。お前の弟子で、なんつったか髭の、隣町に移ったヤツ」
「あ、クレイグか!」
土建職人に土魔法士は多いが、地盤を軟弱にする魔法を使えるヤツはそんなに多くない。
単純に需要が少ないからだ。それだったら地盤強化系を鍛えた方が稼げる。
家でも道路でも、仕事にあぶれることはない。
私の場合は、地面を柔らかくすることが一番簡単にできる訓練だったので、たまたまこうなっただけなのだ。
伯爵家の畑を固めたら、間違いなく殴られるからね。
そんな中で私の弟子の何人かは、穴掘り系の魔法を得意とする。
掘りながら固める。その技術を自分から望んで身につけたやつらだ。
「ああ、そんな名前だったな。
お前が手紙書いとけ。向こうのギルドに回してやる」
「了解」
こうして工法と人員がじわじわ固まってゆく。
工期の管理は鬼のマリアにお任せする。
現在5月半ば。人員が揃う1週間後にスタート。
マリアは各所にヒアリングの末、11月中の開通というスケジュールを引いた。
一応現実的なライン。
よほどのことがない限り、もうこれは動かない。
その日のノルマ達成まで帰宅は許してもらえない。
まあこっちは4ヶ月で通すつもりだけど、言ったらそういうふうに組まれるから、「お手柔らかに」と肩を揉んでおいた。
で、後は工事開始までゆっくりできるかというと、そういうわけにはいかない。
草原に小屋を建てなきゃならないのだ。
まあ、侯爵のおかげでシェルターから避難路に方針が変わったので、草原の街づくり計画も保留になった。
今回建てるのは、小屋10棟のみ。あとはその周りを整備すればやることは終わる。
多分1日かからないはず。
小屋には、侯爵領から派遣される文官が寝泊まりすることになる。
きっと、色々探るんだろう。
まあ、ダンジョンについてはもう秘密はないのでご自由にどうぞって感じ。
ただ、文官さんも貴族なので少し手は加えた。
テーブルの角を丸くしたり、椅子の角を丸くしたり、まあ丸くできるところを丸くしただけだ。
それだけでちょっと高そうに見えるから、効果はあると思う。
あとは、マリアがただの草原じゃ味気ないと言って、ノーラに頼んで角兎を放したくらいだ。
うちの魔物はみんなそうだけど、ダンマスのニート気質を反映してか闘争心がない。
だから私も、普通の兎みたいに草原のかわいい担当になってくれるかなって思った。
甘かった。
放した角兎は掘った巣穴から出てくる気配がない。
完全に引きこもった。かわいい以前に存在していないに等しい。
ごはんは魔力。暗くて安心できる巣穴。狩りにくる冒険者もいない。
これはもう姿を見ることはないかもしれない。
マリアの指示する位置に小屋を建て、その間に石畳の道を巡らせたら、なんか別荘地っぽくなった。
こうなると小屋はバンガローみたいで様になっている。
温かいし、職場は近いし、これなら文官さんたちも文句は言わないと思う。
OK。これからしばらくは私はトンネルに専念する。
地下街は安定しているし、スタッフも育っている。
そっちはホプキンス商会がうまく運営してくれるだろう。
やっと休みを取れた。
なんだかんだで気を張った毎日だったから、何もしない一日はけっこう嬉しい。
やることがなくなったので、手紙を書いた。
時々指名依頼をくれるお客さんとか、数少ないエリーとしての友達とか、王都の防壁の内側に住む人たちだ。
一瞬、カタリナ時代に優しくしてくれた子にも書こうかと思ったが、死んだ子からの手紙はさすがにホラーすぎるので自重した。巡り巡って王子に伝わるのもマズいしね。
安息日にはソフィーが来て、マリアと3人で女子会をした。
転生してはじめてだったけど、前世の女子会より楽しかった。
久しぶりに学園の情報も聞いた。
公爵令嬢と王子との直接対決はなかったらしい。
「なぜみんな仲良くできないの?」とリリアが泣き出して、王子が引いたらしい。
ただ、仲良くなんかできるはずもなく、今はお互いの陰口を言い合うような地味な敵対関係が続いているみたいだ。
そのリリアは、自分の言葉どおり、マンガの攻略対象以外にもこっそり「仲良し」を増やしているみたいだ。
ソフィーが地下街のテナントの本店に行った時、下町で下級貴族子女をはべらせたリリアを見かけたのだそうだ。
空白期間に入ったとたん、女子にも手を出したのか。
突っ走ってるなあ。そのヒロインパワーには脱帽である。
爆発に巻き込まれるまではうまいことやんなさいよ、と遠くから応援しておこう。
ミゲル師匠のステージで栄養補給を終え、私は明日いよいよ工事に突入する。
ちなみに、演目は下町の夫婦の絆をテーマにしたスタンダップ落語だった。
劇場中が笑って、泣いた。




