第27話
続いて登場したミゲル師匠はさすがだった。
今日はリュート漫談スタイル。
悲し気な曲を奏でながら登場し、「いやあ、ノースバウンドさん、最高でしたね」の一言で、ダレた観客を軽々と引き戻したのだ。
終わってみればいつもどおりの大うけ。
大商人をターゲットにした皮肉、当てこすり、自虐、ボケ、セルフ突っ込み。変幻自在の独断場だった。
見たまえ素人。これが芸だ。
「次は必ず」とか言ってないで、大人しく自分の仕事に邁進したまえ。
思い知らされたのか、「ノースバウンド」は予定通り北に帰っていった。
ただ、王都滞在中に何度か地下街に足を運び、打合せを重ね、地下街を堪能した。
「うむ。実に楽しかった!
人は順次送る。
では、開通を楽しみにしているぞ」
くっそぉ、満ち足りた顔しやがって。
貴族料金取ればよかった。
打合せの結果、侯爵領からも5人程度の若手の文官が送られることになった。
運営をサポートしつつ、地下街のノウハウを学ぶためとのことだ。
マネジメントできる人材が5人も! 正直助かる。
農場からの異動組も頑張ってくれているけど、現場が忙しすぎてスタッフ教育をする余裕がないのだ。
機密保持に関しても、魔法契約を交わすので安心。
こちらが解除するまで、秘密を口にできなくなる。
ノースバンドは、自ら申し出て既に契約済みだ。
すっごいちゃんとしてる。
こちらを対等に扱ってくれるんだから、こちらもそれに応えなきゃって思う。
高位貴族なのに。無茶振りがすごいけど。
魔法契約については、トンネル工事で他に人材が必要になった時に、料金侯爵持ちで自由に結んでもいいという許可も得た。
ほなら早速やらしてもらいますわ。
ということで、土建職人を巻き込むことにした。
職人に一番詳しいのはマリアなので、リストアップを頼んだ。
「了解。魔法契約があるなら口の堅さは考えなくていいのね?」
「うん。穴掘り系の魔法が使えるヤツ優先で。あと、やる気があって性格が良くて文句言わないヤツ。あ、アイディア出してれるのは大歓迎」
「条件多いわね」
「現場の雰囲気悪くなるよりいいでしょ」
「それもそうね。
でも、職人に声かけるならちゃんとギルド長に話さないとダメよ?
規約の12条」
「ギルド員同士の仕事の斡旋禁止。わかってるってば」
やりませんて。バレたら、Cランク以下は降格、Bランク以上なら追放だからね。
ギルド長は小柄なジジイである。話もわかるし、人をまとめる能力も高い。
Aランクの土魔法士で、腕はピカイチ。新技術の開発にも貪欲で、トップでありながら現場に出る意欲も満々だ。
ただ、満々過ぎるのだ。意欲が溢れて垂れ流されている。
土建関連の魔法は全部修得しないと気が済まないらしく、私が掘削と圧縮を組み合わせた術式を開発した時には、ギルド長がものにするまで延々と訓練に付き合わされた。
で、修得すると現場でそれを試すのだ。
それは私の仕事だって言ってるのに、ギルド長権限で共同受注者に割り込んできて、しかも依頼料も半分持っていく。
さらには現場で腰の爆弾が破裂して動けなくなる。
工事の邪魔なので脇に放置しておくと、年寄に対する思いやりがどうたらとわめく。
そんなめんどくさいジジイにダンジョンのことを言ったらどうなるか。
考えただけで気が重い。
まあ、いずれは話さなきゃならないんだから、ここは覚悟を決めるしかないか。
無茶を言うようならダンジョン出禁だ。
こちとら、バックに侯爵様がついてんだ。怖いものなんかない。
翌日、ギルド長を訪ねた。
Bランクになった時に相互に魔法契約を結んでいるので、余計な念押しは要らない。
ギルド長は劇場の話は聞いていたようだが、地下街までは知らなかった。
正体を知らせれば、当然食いつく。
「ダンジョンだと⁉ マジか!
よし、見に行くぞ今行くぞさっさと案内しろ!」
そうなるのはわかっていたので逆らわず連れていく。
私の家は職人街にあるので移動は楽だ。
現場を見せながら説明をする。
情報開示のレベルは侯爵の一段下。技術関連の話だけに留めた。
というか、ギルド長はそれ以外興味がないので、自動的にそうなった。
500キロトンネルの話は、ジジイのロマンも掻き立てた 。
ただ、現場にしゃしゃり出てくるのは阻止した。爺殺しのダンマスが。
「お爺ちゃんは腰が痛いんだから、トンネル掘っちゃダメでしょ!」
「そうじゃのう。ノーラちゃんの言うとおりじゃのう。
じゃあ、じいじはこの草原でノーラちゃんと遊んでいようかのう」
ジジイ……。お爺ちゃんムーブとか怖いんですけど。
勘のいいチビコボは「キュン!」って鳴いて逃げちゃったよ。
まあAランクの腕と知識は頼りになるので、腰をやっちゃわない程度に、時々は現場に出てもらおうとは思ってるけど。
技術説明を求められても「ダンジョンの機能」で終わるし、操作画面は見えないし、前みたいなことにはなりようがないからね。
「お仕事行ってくる!」とノーラが去ると、ギルド長はあっさりと職人モードに戻った。
じいじも仕事しようぜ、と草原のマリア事務所で打合せをする。
今回私が求める職人のスキルは、地盤軟弱化関連の魔法が使えることだ。
ダンジョンの拡張は私かノーラにしかできないが、その準備段階では土魔法士は十分役に立つ。
自宅地下から農場までトンネルを掘った時、一番効率が良かった方法は、まず土魔法で掘る場所を柔らかくし、そこにダンジョン機能でトンネルを延ばすというものだった。
普通の土ならそこまでしなくても大丈夫なのだが、岩などの固いものの場合、ダンジョンの拡張スピードが落ちるのである。
目指すのは500キロ先。
侯爵は目標2ヶ月とか頭のおかしいことを言っていたが、来年3月の帝国の侵攻に間に合わせるためには、遅くとも今年中には開通させておきたい。
今は4月半ばなので、残りは8ヶ月半。1ヶ月あたり60キロ近く進まなければならない。
一日のノルマは2キロ弱。
自力で掘った場合、すごく頑張っても掘れるのは日に200mくらいだが、私がダンジョン機能を使えば、1時間で500mはいける。
この前実験してみた結果だ。サクサク進むので、すごい爽快だった。
ダンジョンの進化に伴って拡張能力はかなり上がっていた。
地下街が人を集めているので魔力にも余裕がある。
ここに土魔法士が投入されれば、一日5キロくらいは掘れそうな感じだ。
途中で問題は起こるだろうけど、2ヶ月は無理でも倍の4か月くらいあればなんとかなるかもしれない。
「わかった。
マリアとも相談しながら、良さそうなヤツを見繕っておく」
「頼んだ、ジジイ」
そう言って背中を叩いたら、ギルド長は私を見つめて涙ぐんだ。
「どした、急に?」
「いやな、ノーラちゃんもいつかはお前みてえになるのかと思ったら悲しくなってきた。
あーあ、お前も最初はかわいかったのになあ。
いつの間にかそんな汚え言葉を使うようになっちまった」
「知るか!」
現場じゃ貴族語は通じないの!
フランス行ったらフランス語でしょ? 喋れないけど。
あ、「ピラミッドを見に行きたいです」のアラビア語はまだ覚えている。結局行けなかったけど。
ジジイをギルドに返却し、私は本腰を入れて工法の検討に入った。




