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死亡フラグを回避して、元悪役令嬢は今日も穴掘り  作者: 膝関節の痛み
第3章 地下街を作っていたはずなのになぜ私はずっとトンネルを掘ってるんだろう

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第26話

 凍っちゃだめだった。

 慌ててスタンリーさんが言い訳をしたけど、ワタワタ具合が完全に逆効果だった。


 今日に限って言えば、スタンリーさんが全部悪いと思う。

 誰だよ「神の力を持つ天才土魔導士」って。


 快適な室温と清浄な空気、謎の照明、受付で待つ間に傷つけた壁の自動修復と次々に証拠を挙げられ、私たちは認めるしかなかった。侯爵がダンジョン踏破経験者だったのが想定外だった。


 潔く認めて説明した。

 だが、侯爵は満足せずどんどん突っ込んだ質問をしてくる。


 私は頑張った。

 認めつつ、詳しいところはぼかしつつ、躱そうとした。


 でもね、スタンリーさんがポンコツすぎて無理だった。

 侯爵の「ターナー殿、本当か?」で私の努力が無駄になるのだ。


 私の前世がらみの話は死守したけど、それ以外はほぼ全部知られた。

 もちろん草原階層もバレて、案内させられた。

 さすがに『選べよ』の話はできないので、


「作ってみたけど使い道がないので、災害の際の避難所にでもならないかと思って」


 と説明したら、なぜか納得した。


「災害もそうだが戦の備えにもなるな。私が得た情報によると、西の帝国の動きが少しきな臭い」


 ああ、なるほど。

 攻めてくるんだから予兆はあるか。

 それがわかってもどうしようもないんだけど。


「しかし、ダンジョンがこんなに役立つのなら、わが領のダンジョンを攻略したのは失敗だったな。

 バカリーダーが、なんの考えもなしにコアを破壊してしまわなければな。

 まあ、バカだから仕方ないが、本当に残念なことをした」

「誰がバカだゴラ。黙って聞いてりゃ適当なこと言いやがって。ヴィンセント、てめえ誰のおかげで生きて帰れたと思ってんだ。

 コアつぶさなきゃ、お前ボスに負けただろうが!」

「負けねえわ!」


 護衛の男性は侯爵領のギルド長、噂のバカリーダー当人だった。

 冒険者のノリで喧嘩が始まった。

 

 低次元の応酬が続き、とうとう侯爵がキレた。


「つまり、お前は最初から俺を信頼していなかったっつうわけだな?」


 ギルド長も怒鳴り返した。


「そんなもん信頼してるに決まってんだろうが! じゃなきゃ何十年もつるんでねえよ!」


「……おぅ。でへへへ……」

「でへへへ……」


 茶番だった。

 口を挟むわけにもいかずハラハラしてたのに、5分くらいのネタを見せられた気分だった。

 とても懐かしさを覚えた。


「まあ、そういうわけだから、この男は完全に身内と思ってくれていい」


 何ごともなかったかのように侯爵が私たちに言った。


「で、本題に戻るが、ツィードベリー領でもダンジョンの地下街を導入したい。

 なんとかダンジョンコアを手に入れなきゃいかんな。

 カラム、何かいい方法を思いつかんか?」

「ん? 別にコアを探さなくとも、このダンジョンをうちの領まで延ばせば済む話だろ?」


 カラムさんが暴論を口走った。


「おお! それなら簡単だ!

 王都からここまで延ばせるのだから、わが領まで延ばせるのは道理だな」


 道理じゃねえよ。


「では、エリー頼む」

「何言ってんですか? 何キロあると思ってんですか?」

「直線距離にして500キロ程度だな。神の力を持つ土魔法士なら問題ないだろう?」


 ねえ、理不尽なこと言わないんじゃなかった?

 スタンリーさんを見る。

 弱々しく首を振られる。

 あーもう!


「問題ありまくりです! あたしゃ普通の土建屋ですよ?」

「ほほう。だが、できないとは言わないのだな」

「時間があればできはすると思いますけど、現実的じゃないです」

 

 ダンジョンは亜空間だが、この世界と繋がる第1層に限っては現実世界の一部でもある。

 つまり、入り口は複数作れても、500キロ先の入り口は500キロの穴を掘らないと生まれないのだ。


「だが、完成すればメリットも大きいぞ?」

「そのメリットは侯爵様のメリットでしょう?」

「いや、そうばかりではない」


 私を見据えた侯爵が、シェルター計画の弱点を指摘しはじめた。


「4千人の避難所だそうだが、王都の民は20万。全くに足りおらんではないか」

 災害にせよ戦にせよ、4千人だけ救って残りは見捨てるのか?」

「いえ、もっと広げる予定です」

「それで全員を受け入れられると?」

「全員は無理かもしれないけど、できるだけたくさん受け入れたいです」

「結局一部ということだな。大多数を見捨てるということで変わりはないではないか」


 「大多数を見捨てる」という言葉の重さに声が詰まる。

 それでも手は緩まない。


 一部しか受け入れられないのなら、その一部をどうやって選ぶ?

 基準はなんだ?

 選ばれなかった者が押しよせたらどうするのだ?

 どうやって食わせる?

 等々。


 「できるだけ頑張る」の化けの皮はがされてゆく。

 やるなってこと?


「だがな」


 侯爵はスッと圧を弱めた。


「ツィードベリー領に繋がれば、その問題はかなりの部分が解決できる。

 避難民は、このトンネルを通って私の領に逃げ込める。

 私の領でもかなりの数が受け入れられるし、東のポトラ王国の辺境公も協力してくれるだろう」

「あの、東の国とは戦っているのではないですか?」

「それは昔の話だ。今は貿易も交流も盛んで関係は極めて良い。

 この国の王都よりずっと近いのだ。隣同士、争うより仲良くした方がお互いにずっと得だからな」


 地図を思い浮かべる。


 この国と東隣の王国との間には南北に山脈が横たわっていて、両国を分断している。東の国ポトラは前世のチリみたいな南北に細長い国だ。

 だが、その山脈は北までは伸びておらず、侯爵領との間を隔てるものはない。

 関係が改善されたのなら、交流は放っておいても進むだろう。

 でも、その話は初耳だった。


「王城はそのことを知っているんですか?」

「知るはずがないだろう。私が今も戦っていると報告しているからな。

 王家も王都の貴族も、偏屈な侯爵が居座る北には興味がない。

 つつけば面倒なことになるのがわかっているので、防衛費を渡して北に引っ込んでもらっていた方がいいのだ。

 私も、敵が健在だと言って防衛費をもらっておいた方が都合がいい。

 金づるの王家に表立って立てつく気もないし、ある意味では、こちらも利害が一致しているということだな。

 というわけでエリー、やってくれるな?」


 こっちの罪悪感を煽るだけ煽って、その罪悪感を無くすことをメリットとか言いやがった。

 私は何も悪いことをしていないのに。


 ムカつくけど、断る言葉が出てこない。

 それは、どこかにやってみたいという気持ちがあるからだ。

 私のふたつ名は小モグラ親方。穴掘りのスペシャリストだ。500キロのトンネルにロマンを感じるのは仕方ないのだ。

 罪悪感の話を抜きにしても、それは確かに私にとってのメリットだった。


 普通のトンネルなら、考えるまでもなく地盤や出水などのリスクが山積みで、とでもじゃないが手を出そうとなんか思わない。

 でも、ここはダンジョンだ。掘ったトンネルは亜空間の特性も併せ持っている。

 つまり、トンネル工事につきものの問題は発生しないのだ。

 最初に掘った6キロで、そのことは検証済みである。


 これは私のフィールド。可能性はある。


「……わかりました。保証はできませんがやってみます。それでいいですか?」

「了解した」


 わかってる。

 侯爵の要請を受けるってことは、シェルター計画を捨てるってことだ。

 保証はできないって言ったけど、後戻りはできないのだ。


 それはそれとしてムカつく。

 せめて何かお返ししたい。


 ……あ、思いついた。


「ただ、ひとつだけ条件があります」

「なんだ?」

「カラムさんとふたりで今夜劇場に出て、さっきの喧嘩をやってください。

 やっていただけないのでしたら、この話はなかったことに」

「その程度か。客の前で適当に口喧嘩すればいいのだな? わけもない」


 北の冒険者コンビ「ノースバウンド」は見事にすべった。

 ざまあ。

 うちの劇場の目の肥えた客に、行き当たりばったりの素人の口喧嘩がウケるわけはないのだ。

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