表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死亡フラグを回避して、元悪役令嬢は今日も穴掘り  作者: 膝関節の痛み
第2章 梅田の地下街をダンジョンと言うなら異世界のダンジョンが地下街でも良くない?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/29

第24話

 客観的に見れば面白かった。でも、内容としてはギリギリ。

 王家いじりは怖いんだよ。

 あと、私の扱いひどくない? 客が大笑いするたびに、公開処刑されてるみたいでグサグサきてたんだけど。

 なんか、やってもいない黒歴史を次々に暴露される感じ。


 じわじわ腹が立ってきた。

 なんですかあのキャラ設定は。

 ……抗議してくる!


「ちょっといいですか!」


 ノックの返事を聞かず控室のドアをバーンって開けると、ミゲルさんがリュートを磨いていた。


「な、なんですか、急に」

「さっきの噺なんですけど!」

「ま、まずかったですか?

 あ、そうですよね。吟遊詩人だって言っておいて、全く歌ってないんですから」

「そのことじゃありません!」

「……王家、ですか?

 ……もしかして、お嬢様、貴族様だったりします?

 いや、あれは舞台でも言ったように遠い異国の話でして……。

 あ、それでもお気にお障りになった?すみませんもうやりません通報だけは勘弁してください」


 ステージ上の堂々たる態度はすっかり影を潜め、ミゲルさんはヘコヘコしながら早口で言い訳を並べる。

 イラっとするくらい卑屈。


「王家も関係ありません!

 私が言いたいのは、マッタリーナのことです。あれって、カタリナのことですよね?」

「いや、だからそれは異国のお話であって」

「でも一発でわかりますよね?

 カタリナはあんなにアホじゃないと思うんですけど!」

「……え? そこ?」

「死んでいるからといってもひどすぎると思います!」

「あ、もしかして、そのカタリナさんとかいう人のお知合いですか?」

「え? ち、違います!」

「じゃあ、なんでそんなに怒ってるんです?知り合いでもないのに」

「えと、それは……」


 サーッと怒りが引いてゆく。

 私、なんか墓穴掘ってる?

 背中をたらりと汗が流れる。有名な落語のガマ蛙みたいだ。


「あ、そうだ! 本題を忘れてました!

 すごく受けてましたよね。マリアが絶賛するはずです!」


 ぶった切って強引に話題を変える。


「……え? マリアさんのお友達ですか?」


 急な話題転換に戸惑いながらも、知っている名前が出たせいか、ミゲルはホッとしたような顔になった。


「はい。いっしょにこの地下街で働いています」

「そうだったんですね。ああ、びっくりした。

 でも、お嬢さんはつまんなかったんですよね……」

「あ、いや、面白かったです!毎日出演してほしいくらいです!」


 落ち込みそうになったの慌ててフォローする。


「ほんとですか!ぜひお願いします!」


 ダメだ、焦ってまた余計なことを言ってしまった。ミゲルさん食いついてきちゃったよ。


「え、あ、いや……」

「……あ、社交辞令ですよね。すみません、真に受けちゃって」

「いや、社交辞令じゃなくてほんとに面白かったです。期待以上でした。

 あ! あのステージのリュートのマーク、私が彫ったんです!」

「え? あれ、あなたが? 見た瞬間感激したんですよ。なぜここの俺のマークが?って。しかもあんなにかっこよくなってて。

 すみません、そんなすごい職人さんだとは知らずに」

「いえ、そんな大したものじゃないです」

「あれ? 今気付いたんですけど、あのマークがあるってことは、ここのステージは俺専用ってことですか?

 え? まさか専属契約前提?」


 「違います」と言いそうになってそれを飲み込んだ。


 それ、アリかもしれない。

 娯楽の少ないこの世界で、人を集めるには芸能は最適だ。

 ここが最新の笑いの発信地になれば、地下街の発展は加速する。

 

 私は、ミゲルさんに微笑んだ。


「わかりました。そのまさかの方向で、前向きに検討させていただきます」


 マリアの強力なプッシュもあって、その夜の会議でミゲルさんの専属契約が決まった。

 地下街の看板芸人ミゲル師匠の誕生だ。


 マリアがそのプロフィールを聞かせてくれた。


 彼の年齢は21歳。老け顔なので30過ぎかと思ってたらすごい若手だった。

 元は王都の吟遊詩人の弟子で、新しいスタイルへのこだわりが師匠の逆鱗に触れて破門。その後、隣町に流れて酒場の余興担当として雇われていたらしい。

 ただ、それだけでは食えないので、土建ギルドで日銭を稼いでいた。

 スタイルが固まって受けも取れ始めた頃、彼を担当するギルド職員に誘われて見に行ったのがマリアだった。


「見た瞬間、これは本物だと思ったのよ」


 確かに、この異世界では見たことない芸だった。


 こうして地下街ステージは常設化が決まった。

 翌日、それを聞いたミゲル師匠は大喜びした。


「ありがとうございます! これでやっと芸だけで飯が食えます!」


 晴れ晴れとした顔で言う彼に、私は思い付いてひとつ提案をした。


「昨日みたいな内容なら、リュートなしの方がよくないですか?話術だけで勝負する形にして」

「うーん……。確かに斬新だけど、それじゃ吟遊詩人じゃなくなります」

「そこは吟遊詩人にこだわらずに、新しい職業を作ったらいいんですよ!

 剣の新しい流派を作るみたいなもので、ミゲルさんがその創始者になる。

 そうだ!あのマークは一門のシンボルにして、衣装に刺繍するとか、ミゲルさんが認めた人だけが使えるとかすれば、見る人もわかりやすくないですか?」

「……それかっこいい!」


 彼は若者の顔で即決した。

 吟遊詩人という肩書にはこだわりはなかったらしく、ここに新しい職業が爆誕した。

 リュートなしのスタンダップ落語も採用。ネタに合わせて従来のリュート漫談スタイルも継続するので、引き出しは大きく広がる。

 悩んだ末、名前は「話芸師」になった。


 話芸師ミゲルの評判が広がるのは早かった。

 彼目当ての客が殺到し、屋台の営業に支障が出てきたので、急遽ドームの奥に劇場を増設したほどだ。

 箱はダンジョン機能ですぐ作れた。椅子はダンジョン機能で作れないけど、ゴブ工場が試運転をはじめていたので、調達は問題なかった。

 マーク付きステージも劇場に移設し、これによってドームは完全に飲食スペースとなった。


 劇場ができたのを期に、スケジュールもしっかり決めた。

 公演は1ステージ1時間の一日4公演、定員ありの入れ替え制。

 100人規模の小さな劇場だが、いつも満席になるので、それだけで400人の来場者が確定だ。

 客が来る時間帯をバラけさせられるので、特定の時間帯に人が集中し過ぎる問題もほぼ解消された。


 イベントのはずだった屋台も、そのまま常設となった。

 各店が人を新たに雇って正式な「地下街支店」となり、元々が屋台のお店の中には、冬の間本店を休んで地下街店に集中するところさえあった。


 評判を聞きつけ、あちこちから出店希望も舞い込んだ。

 でも、これ以上受け入れるのにはまた拡張しなきゃいけないし、4月までの準備としてはこれで十分なので、今の形を一応の完成形とした。


 問題があるとすれば忙しすぎることくらい。

 施設内に銭湯があるとはいえ、溜まった疲れがなくなるわけではない。

 そこで、屋台の店主たちと相談の上、安息日の翌日を定休日に設定した。

 前世風に言えば月曜定休だね。


 飲み食いして、お風呂に入って、最新の芸能を楽しむ。

 季節が春に替わるころには、地下街は、王都郊外の人気スポットとして平民の間で広く知られるようになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ