第22話
興奮して草原のマリア事務所に駆け込み、問題が解決したことを早口で語った。
「おお、やったね!
でもそれなら、出来上がった家具を登録した方が早いと思うんだけど」
「あ……」
その通りだけど、なんですぐにそういうこと言うなかあ。
一回一緒に喜んで、ちょっと経ってから「気付いたんだけど」みたいに話してくれても良くない?
その場でやってみた。
「ほらあ、できないじゃん!」
ベッドも椅子も分解しないと登録できなかった。
残念なお知らせなんだけど、なんか嬉しかった。
レベル2だと登録できるものに制限があるみたいだった。
大きな一枚板の石板はOKだったので、複雑なものが弾かれるようだ。
ちなみにその石板の登録名は「オリジナルアイテム25」。リネームはできない。
その後、意地になったマリアに長時間検証に付き合わされた。
パネル10枚をまとめて1アイテムとして登録できることがわかった時は喜んだけど、そもそも上限9枚まで数を指定して出せるのでほとんど意味なかった。数えやすいけど。
「オリジナルアイテム66」で解放された。
ただひとつだけ大きな収穫があった。
草原に浅い穴を掘り、そこにダンジョンの魔力で作った特大サイズのパネルを6枚並べたら、その状態で登録することができ、その場所は時間が経っても草原に戻らなかったのだ。
つまり石畳が設置できるってことだ。
道でも公園でも、とにかく草以外の地面ができるのだ。
街が作れる。
開発計画責任者のマリアは大喜びで、計画を1から見直すと宣言した。
「ほらね? やっぱり裏技があったでしょ!
エリーは詰めが甘いとこあるよね」
って偉そうに言いやがった。
「それは役割分担。でも、元々は私だからね!」
「元々はノーラでしょ?」
「あ、そうでした」
「ま、みんな頑張ったということだね。
問題解決おめでとー!」
「おめでとー!」
タイミングよくお茶を持ってきてくれたデレックさんと3人で乾杯した。
お茶うけは真っ赤に実ったトマトだった。
気がついたら翌日は大晦日だった。
年内の納期をギリギリクリアしたいみたいな懐かしい達成感だった。
といってもあの時は言ってみれば他人事で、今回は当事者ど真ん中。
当然嬉しさもそれくらい違う。
年明け3日は休業ということもあって、地下街はすごく混んでいる。
気分転換に地下街をぶらぶらしてたら、常連のおばちゃん冒険者につかまった。
Cランクパーティーのベテランヒーラーだ。
「エリーちゃん、聞いたわよ?
あなた、銭湯の受付の子かと思ったらすごい土魔法士なんだって?
今度の改装もあなたがやるんでしょ?」
「はい。頑張ってます」
「ああ、それでこの頃顔を見なかったのね。
ずっと突貫工事してたんでしょ?
わかるわ。ノルマ大変だもんね。
あたしのとこも、これ無理よっていう数の採取依頼をリーダーが受けてくるのよ。困っちゃうわよねえ。
働いた分はちゃんと報酬を請求しないとダメよ?」
「あ、はい」
「って言うか、目の下のクマすごいわよ?
ちょっと待って、ヒールしてあげる」
おばちゃんが有無を言わさず回復してくれた。
「じゃあ頑張ってね。屋台の催しには絶対に来るから」
「ありがとうございます!」
工事はこれからだけど、あとパネル内職のせいでクマもすごいみたいだけど、おかげでちょっと楽になったよ。
イベントが決まってからスタッフがしつこいくらいに宣伝してくれたおかげで、お客さんも楽しみにしてくれている。
出店するお店も力が入っているってソフィーが言ってた。
難題が片付いたので、疲れてはいるけどやる気は完全に戻った。
明日に備えて早めに自宅に戻り、ポーションを飲んで寝ることにした。
とはいっても、ダンジョンの拡張である。
自力で穴を掘るわけでもなく、延々とパネルを作るわけでもないので、実はやることはあまりない。
拡張の形が固まった時点でコアにその内容は入力してあるので、残っているのはスタートボタンを押すことだけだ。
そんなわけで、翌日。
さっさとやっちゃおうか、と新年の挨拶もそこそこにコア部屋に入る。
多少規模が大きいので、コアの様子を確認するためここを使うが、新階層を造るほどの魔力が必要になるはずもないのであくまで念のため。
昨日の人出でコアの魔力も満タン。
拡張内容を最終確認した後、特に緊張することもなくボタンをタップすると、すぐに拡張完了の文字が表示された。
コアを見ると、ちょっと暗くなったかな、くらいの感じで、魔力もそんなにかからなかったことがわかる。
部屋を出て、廊下を進む。
「エリー、お疲れ様。
何が起こるかわかっていても、すごいものだね」
「ちゃんとできてるよ?」
スタンリーさんとソフィーが開通した通路の入り口で迎えてくれた。
他の面々は待ちきれずイベントホールに突入していた。
今回の立ち合いメンバーは、他にはホプキンス一家のみ。
ダンジョンであることを知らないスタッフのみなさんはお休みだ。
それぞれの家で新年のお祝いがある。家族持ちは自宅で、単身者は農場の寮で、マーガレットさんが配った料理をつまみにお酒でも飲んでいるだろう。
先行組の後を追ってホールに入る。
あえて洞窟のままにしたアプローチが、非日常への入り口っぽくて期待が高まる。
「おお! すばらしい!」
スタンリーさんが感嘆の声を上げた。
うん。いい感じ。
「なんか王都の劇場みたい。荘厳な感じ」
ソフィーが円い天井を見上げて言った。
荘厳。言われてみればそうかも。
並ぶのは屋台だけどね。
「いいわね、ここ。天井が高いから室内でも解放感がある。
しかも真冬なのに温かい。これは間違いなく話題になるわよ」
「うん。見たらそんな気がしてきた」
「じゃあ後はステージを作るだけね」
「あ、それがあったか」
マリアの希望で作ることなったステージは、こだわりたいからと私が作るように頼まれていた。
「はい、これ完成図」
渡された絵は、確かにダンジョンパワーで作るには複雑過ぎた。
特にステージ正面の装飾たっぷりの楽器の浮き彫り。
「なにこの細かいの」
「まあまあ。エリーならできるでしょ?」
「できなくはないけどめんどくさい」
「そう言わずに作ってよ。出てくれる吟遊詩人のシンボルマークなのよ」
「そんなにすごい人なの?」
「まだ王都じゃ無名だけど、絶対に人気が出ると思う。
隣町ではじめて見た時には衝撃だったわ。
なんといってもスタイルが斬新なのよ!」
マリアは自信たっぷりに言った。
「へえ。どんなの?」
「歌わないの」
「は?」
「喋るのよ、リュートを弾きながら。
その喋りがすごく面白くてね、隣町では王都の悪口を言って大受けしてたわ」
もうその人、吟遊詩人じゃなくて毒舌系リュート漫談の人だよね?
って思ったけど、前世のお笑い事情を説明するのが面倒なので、黙ってステージを作った。
そしてイベントホールが完成した。
私とマリア以外はとっくに帰っていた。
漫談師のマークを彫るのに3時間かかったからだ。




