第21話
突きつけられた事実に、私は会議室の天井を仰いだ。
「とか言うと思った?」
私が視線を戻すと、マリアがニヤニヤ笑っていた。
「こんな数字出すのに何日もかかるはずないでしょ? 1日で終わったわよ。
そのあと日にちを延ばしてまで、私が何してたと思う?」
「オー君とイチャコラ?」
思わせぶりがムカつくので、テキトーに答える。
「解決策を練ってたに決まってるでしょ!
ついてきて!」
そう言って会議室を出るマリアの後を追う。
転移陣を経由してついた先は草原だった。
「見て、解決策」
マリアが指さす先には3匹のゴブリンがいた。
協力して、慣れた手つきで石パネルのベッドを組み立てていた。
「普通の方法じゃ無理だってすぐわかったから、ダンジョンならではの方法を考えて、その結果がこれ」
「ふわああ。よくこんなの思いついたねえ。普通そんなこと考えなくない?」
「まあ、オー君のおかげなんだけどね」
「うわっ! のろけやがった!」
「だから、そっちの方に話を持ってくのやめなさい!」
マリアは私の背中をバシっと叩くと、組立職人ゴブリン誕生の経緯を話しはじめた。
「まずね、初日に私が時間を計るために組み立てていたのをオー君が見てたのね。
で、計算を終えて草原で考えていたら、ノーラが来て『オー君がやりたいって』って言ったの。
もしオークが使えるんだったら人手の問題が解決するなって思って、やってみてもらった」
「できなさそう」
「うん。すっごい不器用だった」
「わかる……」
「ズレてるのに力づくで押し込もうとするから、パネルを割っちゃったの」
「石を?」
「そう」
オークパワーすごいね。
「で、ノーラが慌ててそれを消して、新しいの作ってくれた。『これで元どおり。お姉ちゃんには言わないでね』って」
「言ってるじゃん」
「あ。まあ聞かなかったということで。叱らないであげてね」
そんなんで怒らないってば。なんか怖がられてる?
「それでね、その時はまあしょうがないかって諦めたんだけど、後になって他の魔物は? って思ったのよ」
「ああ、それでゴブか」
「だって作業できそうな魔物、他にいないじゃない」
「確かに」
他は、スライムと角兎とマンドラゴラとムカデだからね。
で、「かわいくないのに」って渋るノーラを「仕事ができれば大丈夫」って説得して、ゴブリンを3体出してもらったのだそうだ。
召喚したノーラは「このお姉さんの言うことを聞くように」と伝えて、チビとオー君を連れていなくなってしまったので、マリアはそこからゴブたちを特訓をはじめたのだ。
その特訓を受けて、ゴブたちは化けた。
「頭は良くないけど、犬よりはずっと賢いのよ。
ゆっくり教えれば覚えるし、力は強いし、手先も器用。で、言われたことしかしないけど、慎重にやるから覚えたことは間違わない。魔力で生きてるせいか、基本ごはんも食べない。休憩も睡眠もいらない。
これ以上の人材は世界中探しても見つからないわ」
「神!」
どやっ! と胸を張るマリアを、私は拝んだ。ついでにゴブリンも。
得意気な顔のまま、さらにマリアは続けた。
「それからね、さっき食べなくても大丈夫って言ったけど、ご褒美としてお肉をあげると喜ぶわね。
ただ、この子たち結構美食家でね、屋台の串焼きみたいな味の濃いものは苦手ね。あと猫舌。お肉の質にもこだわりがあって、腐りかけで固いのが一番好き。
色々試してみたけど、よく焼きした古い肉を冷たくなるまで放置して、味付けに油焼けした干し肉をちょっと乗っけたのとか大喜びだった」
「美食とは?」
ギルド受付時代、マリアは「思い通りに働かせるために」と職人それぞれの技量や性格や弱みをカッチリ把握していたけど、ゴブリンでもそれをやったのか。
「ねえマリア、もしかして昔から私の本名とか知ってた?」
「さあ、どうだったかしらね。
まあ私としては、ちゃんと働いてくれれば誰でもいいのよ」
ゴブリン使いはそう言ってにっこり笑った。
労働力は確保した。
あとは生産体制だ。
ゴブリンは睡眠もなしに働いてくれるらしいが、さすがにそれは心が痛む。
それに、草原はホプキンス家の別宅があり、デレックさんが水耕栽培の実験を進めているので夜の時間も必要だ。
そこで新しく家具工場を作ることになった。
新しくといっても6キロのトンネルの大部分は未使用のままなので、草原から階段を上がったあたりを少し広げれば済む。
その隣に仮眠スペースも作り、3交代制で組立を進めることにした。
16時間勤務、8時間睡眠、食事なし、おやつは1日2回。
地獄の労働環境だが、ゴブリンは喜んで働くだろうってマリアが断言した。
ゴブはノーラに頼めばすぐに用意できて、5~6日間訓練すれば使えるようになるので、コブリンを増やすのはスケジュールが固まってから十分間に合うだろう。
となると、生産スピードは私のパネル製作次第となるわけだ。
ゴブリンが増えても私は増えない。
エリー・スミスまさかのボトルネック化、である。
でもね、私が文句を言うわけにはいかないのでやりはじめたわけですよ。
予想していたとはいえ、それがしんどいのなんのって。
決まったサイズの椅子用のパネルを、何枚も何枚も作り続ける。脇にそれがどんどん積みあがっていって、やっと今日のノルマを達成したかと思ったら、今度はベッド用のパネルを何枚も何枚も作らなきゃならない。3日連続で魔力が尽きるまでやってみたけど、いつ終わりがくるかわからない。
病みそう。
ああ、トンネル掘りたい。あっちはまだ進んでいる実感があった。
「お姉ちゃん大丈夫? スライム触る?」
様子のおかしい私を見かねて、ノーラが心配そうにお気に入りのペールターコイズスライムを渡してくれた。
ペタちゃん。かわいいよペタちゃん。冷たくてプルプルして冷蔵庫で冷やしたグミみたいだね。
「食べちゃダメ!」の声でハッと我に返る。
何かが切れた私は、その後泣きながらダンマスノーラに仕事のつらさを訴えた。
「それならダンジョンにやってもらえばいいのに」
話を聞き終え、私の頭をよしよしと撫でながらノーラはそう言った。
「そうだったらいいんだけどね、レベル2だとまだ細かいものは作れないの」
「え? 作れるよ?
だって私作ったもん。あ! なんでもない!」
なぜか急にキョドりだしたノーラをなだめすかして、私はその方法を聞き出した。
「はあああ……」
ため息しか出なかった。
私はマリアから聞いていたじゃないか。
ノーラがオー君が割ったパネルを消して、同じものとすぐに差し替えたことを。
ふらふらしながら検証してみた。
私が作ったパネルをダンジョンに吸収させる。
ごくわずかだけ魔力が増える。
ここまでは知っていた。
ゴミ処理以外の意味はないと思っていた。
でもその先がまだあったのだ。
ダンジョンで作れるものの「その他」のカテゴリ。
その中に「オリジナルアイテム2」の名で返却されたパネルが追加されていた。
「 オリジナルアイテム1」はノーラが作ったやつ。
追加されたら「NEW!」くらい出しなさいよ。
タップしてみたら、私が作るのに使う魔力よりはるかに少ないコストで、同じパネルが一瞬で出現した。
私は有能上司ノーラに抱きついてはらはらと涙を流した。




