第20話
ターナー男爵、いや、貴族扱いするなとちょっと拗ねたのでスタンリーさんと呼ぼう。
そのスタンリーさんが積極的に関わってくれることになったので、我がチームの布陣はさらに厚みを増した。
頭脳担当がターナー親子とマリア、農業担当がデレックさん、土建担当が私、それをマーガレットさんが美味しいごはんでしっかり支える。
農場スタッフも増え、さらに冬で暇になった常連冒険者のウィルソンさんパーティーがアルバイトに応募してくれたので、地下街は私が抜けても回るようになるはずだ。
あとはマリアが草原開発の人員計画をまとめてくれれば、だいぶ先が見えてくる。
次の安息日に、久しぶりにターナー家にお呼ばれして、スタンリーさんの料理をごちそうになった。
奥さんが亡くなってから、宮勤めの領地なし男爵家に使用人を雇う余裕なんてないって、自分で料理をはじめたんだけど、これが美味しいのよ。
どこぞの伯爵家で家畜のエサみたいなものを与えられていた私にとって、安息日のお昼のソフィーちゃんちのごはんは、すごい楽しみだったのだ。
地下牢定食みたいな実家の食事よりずっと暖かかった思い出の味。懐かしくてちょっと泣いた。
ごちそうさまの後、スタンリーさんに前世のことを話した。
マンガの内容については、「王都が侵攻を受けると前世の書物で予言されていた」とぼかしたが、話せてとてもすっきりした。
スタンリーさんの反応はマリアと近いものだった。
私が嘘をついていると思わないけど、それだけではなかなか信じることはできない。
でも備えはしっかりするべきだ、と。
それで十分。
今までは強制力が強かったけど、この先もそうである保証はないのだ。
ストーリーが変わる可能性だってある。
例えば私が王子に見つかって、強制的に物語に復帰させられるとか。
これまでの流れから99%そうはならないと確信しているけど、ストーリーの外側にいることはいつも意識していた。
ただ、それもあと3ヶ月ちょっとの辛抱だ。
来年の4月になれば、確実に強制力は働かなくなる。『選べよ』で何も描かれていないのだから、強制する元ネタがないのだ。
私が排除された後のマンガは、次のように進む。
まず、2年生の夏、交換留学生として隣国の公爵令嬢が転校してくる。
歓迎の晩餐会の席上、第二王子が一目惚れしてプロポーズする。
令嬢は感激して、その場で受諾する。
家格的には問題がない。「両国友好のため」の名目の下婚約が成立する。
時々ソフィーが知らせてくれる学園情報でも、これはそのまま現実のものとなっている。
この公爵令嬢が、私に替わる後半のボスである。
彼女が第三王子エヴァンスのこれまでの行状を知り、「王家の面汚し」としてのその追い落としを図るという流れだ。
なぜお前がやる?とは思うが、『選べよ』に必然性など求めてはいけないのだ。
令嬢は第二王子の後ろ盾をちらつかせエヴァンス王子とリリアグループに圧力をかけるが、リリアの「私たちは深い絆で結ばれているのです!」の言葉にエヴァンスたちは結束する。
現在はこのあたりまで進んでるはずだ。
そして小さな敵対シーンのあとの、3月の学年最終日。
全校集会で初めての直接対決が行われる。
――というところで、話はいきなり1年後に飛ぶ。
打ち切りが決定したからだ。
そのまま最終3話の通称「37564END」が掲載され、『選べよ』は完結した。
改めて思い出すと、「何それ?」という感想しか出てこない。
空白の1年で何があったかは分からない。
マンガでは37564END冒頭のコマで、公爵令嬢が「色々なことがありましたが、いよいよ仕上げの時ですわ」って独り言を言うだけだ。
具体例ひとつ言わない。
SNSで誰かが「色々ってなんだよ!」って突っ込んだら、「選べる公爵令嬢」を名乗るアカウントが「色々は色々ですわ!」即リプしてて、大笑いしたことを覚えている。
後からそれが友達だったことがわかってびっくりした。
隣の帝国が侵略してきた理由も描かれていない。多分作者にもわからないだろう。
ただ、公爵令嬢が敵兵を場内に引き入れ、「おほほほ、わたくしを見初めた時点であなた方の敗北は決まっていたのですわ!」と叫ぶので、すべて計画的だったということにしたらしい。知らんけど。
まあ、駄作の話はどうでもいい。
重要なのは、4月から先、強制されるのは翌3月の王城炎上だけということだ。
だから、その空白期間で一気に動く。
それは計画を立てはじめた時から決めていたことだ。
手探りだったけど、みんなのおかげで態勢は整いつつある。
ここからの3ヶ月は、それを勝負できる形に仕上げる期間だ。
みなさん、よろしくお願いします。
私は頑張って穴を掘って、家を建てるから。
まず、屋台村の概要が固まる。
出店する屋台は、1区画のテナント料永久無料を条件に、乗合馬車商会が取りまとめを引き受けてくれた結果、9つのお店が企画に乗ってくれた。
元々屋台だったり、普段からテイクアウトをやっているお店なので、オペレーション的に大きな問題はなさそうだ。
そこに、私が声をかけた職人街名物もつ煮パンと、デレックさんの友達の農場の肉汁店が加わり、計11の屋台が確保できた。
それに合わせて、会場の形を決めてゆく。
銭湯の手前から左に廊下を延ばし、その先に天井の高いドーム型の広場を作る。
余裕を持って屋台の最大設置数は14とし、左右の壁際に7つ配置した。もちろん専用の洗い場付きである。
客席はドーム中央部。テーブルと椅子を並べる。草原でさんざん実験した石パネルの組み立て式のやつである。あれから軽量化したので、だいぶ扱いやすくなっている。
奥の真ん中には小さなステージ、その左右が屋台スタッフの休憩室と倉庫である。
ステージはマリアの発案。どうしても呼びたい吟遊詩人がいるそうだ。
搬入とか試作とかがあるので、この拡張は新年休みの初日にやる予定だ。
ダンジョンパワーと私の魔法、どちらでも調整可能なので、出店してくれる屋台の要望にはギリギリまで対応するつもりでいる。
こうして拡張計画はすんなり固まったけど、草原開発の人員計画は少し遅れていた。
工期の鬼が延期要請をするなんて長い付き合いの中ではじめてだった。
「ごめん! 地下街に口をはさんでおいて自分の初仕事が遅れるとかないよね。
でも、もうちょっと結論が出そうなの」
そして2日遅れで、マリアはその結論を持ってきた。
ちょっと難しい顔をしながら手帳を開く。
「規模は大きくなるけど、この草原全体を避難所にする前提で考えてみたよ。
多少間隔を開けて建てるとして、建てられるのは大サイズの小屋が千戸程度。一戸あたり4人とすれば4千人は収容できる計算ね。詰めればもう千人は収容できると思う。
小屋はダンジョンで用意できるから問題ない。
ここまではいい?」
「うん」
「エリーが危惧してたとおり、問題は家具の方だよね。
パネルはエリーが量産できるとして組み立てはどうするのか。
私も実際にやってみて、慣れた人だったら一日どれくれい作れるか計算した。
ベッドで10台、椅子なら15脚。
4千人分に必要な作業量は約650人日になる。
あ、運搬と設置の人員は別ね。
それから、もし集められたとして給金はどうする?」
クラッとした。
多いだろうなとは思ってたけど、数字を並べられるとどんだけ無謀なことをしようとしているかがわかる。
「以上、結論を言えば、無理」
マリアはそう断言してパタンと手帳と閉じた。




